軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの日と同じ。その瞬間が、今だっただけ

久々とはいえそれなりに過ごしたハモンドの街、記憶を辿りながら目的地を目指す。

そして隣には……明らかに『対応を誤った』と後悔するも後の祭りの、もう見るからにウッキウキが服を着て歩いているというほど嬉しそうなのが傍目に見て分かるシビラの姿。

踊るように歩きつつも、時々流し目を送ってニヤニヤしているところが絶妙にウザい。

すれ違う人が、俺達二人の様子を見て微笑ましそうに笑う。笑うな。

ここまで注目されると、さすがに恥ずかしい。

「……目立つので、もっと普通にしてくれ。つーか何なんだよ、その機嫌の直り方は」

「分からないの? 分からないの〜?」

正直今すぐ頭の帽子に一発叩き込みたい。が、それで拗ねられても面倒なので顎で先を促す。

ガキ共の相手をしているようだ……いや、シビラ自身子供とすぐに仲が良くなるし、精神年齢は同じレベルだな……。

調子に乗る今のシビラは俺の内心を知らずか、それとも構う気もないのか、舌も滑らかに説明を始める。

「いい? あんたはセイリスで、エミーちゃんにプレゼントをしたけど、よりによってこの世界一の美少女たるシビラちゃんにプレゼントを渡さなかったのよ。世界の損失よね。そんな朴念仁のあんたから奢りに誘われるというのは、すっかりアタシに惚れきったという証拠に他ならないというわけよ」

「あまりにもプラス思考が強すぎて目眩がするが、正に今セイリスでプレゼントを買わなくて良かったと思ったところだ……」

こいつに宝石なんて買い与えようものなら、どれほど調子に乗った解釈してくるか分かったもんじゃない。

「大体メシの一回ぐらいどうということはないだろう、大した金額でもないし」

「はぁ〜っ、あんたねー……近年は戦う女性も増えてきた今、戦う女子にとって奢ってもらうというのは、それだけで大きな意味があるの。これはね、金額の問題じゃないの。ラセルって頭は良さそうなのに、なんでこんなに知識が偏ってるのかしら……」

「お前に偏っていると思われるのは甚だ心外だぞ……」

あれこれ言いながらも、会話相手のこいつが楽しそうにしているのは、落ち込んでいるよりは圧倒的にマシだ。

気兼ねなく言い合える相手というのは気が楽でいいからな。

もう少し落ち着きが出たらいいものだが、それはもうシビラではない気がする。

やれやれ、一体どこにこんな冬に外で遊ぶ子供並みに有り余る元気があるのやら。

……やはり頭脳も肉体も子供なのでは……?

「何か言った?」

「子供と仲良くなるのは精神年齢が同じだからなんだなと思い直していた」

「あんたって、普通は『いいや?』とか返す場面は全部言っちゃうのね!?」

「安心しろ、棘の言葉を叩き込めるのはお前だけだ」

「愛の言葉の時に言ってほしい台詞!」

そうそう、これぐらいの温度が俺とシビラのいつもの感じだ。

多少疲れようとも、この寒い季節に冷え込んでいる場合ではない。

恐らくハモンドでは、俺一人の頭でできることは少ないだろう。

今後の先行投資ということで、大人しく振り回されてやるか。

-

俺の手元には、ハモンド名物の野菜と肉をパンで挟んだ料理。

よく手掴みで食べられている、普通の料理だ。

ただし、この店の料理は手で掴めるものではない。中身の具材部分が、とてつもなく多いのだ。焼いたパンにナイフを入れて、フォークで食べるのがこの店での食べ方となる。

お洒落な店内と、そのアンバランスな見た目と贅沢な食材の使い方で、一躍人気になった店がハモンドの人気店の秘密である。

そして俺の正面には、高いテンションのまま調子に乗って沢山注文した結果、目の前の料理の多さに少し冷や汗を掻いているぽんこつ駄女神。

「こ……これは予想外だったわ……」

「シビラにも予想を外すことがあると分かっただけで安心するな」

「アタシは自分の胃袋が心配で全く安心できないんだけど……エミーちゃんも連れてくればよかったかしら」

ちょうど朝に全く同じことを思ったところだ、珍しく意見が合ったな。

ただ、こうなるであろうことはなんとなく予測がついていたので、俺の料理はこれ以外にはない。

「お前が注文する姿を見て察したので、俺はこれ一品だ。何だったら半分に切り分けるか」

「愛の入刀! 二人の初めての作業ね!」

心底言ったことを後悔した。

結局からかわれつつも切り分けて、料理を全て食べ終わった頃にはさすがに俺も満腹になっていた。

俺がそうなのだから、シビラはもっとだろう。

すっかり椅子の背もたれに寄りかかって、お腹を押さえて満足そうに笑っている。

「食後のコーヒーもあるのね、いい店だわ」

「ああ。食事の量は個性的だが、基本的に寛ぐことに重点を置いた店だ。あまり長居をするのは迷惑だろうが、それも含めた値段になっている」

「自分の残高を気にせずだらだらできるのはいいわね〜」

すっかり機嫌が直ったシビラを見て、俺も思わず小さく笑った。

その時——。

「四人だ! 空いているか?」

——忘れもしない、懐かしい声が聞こえてきた。

俺は、店の入口から死角になっている席で、黙って帽子を被る。

俺の様子を見て何かを察したのか、シビラも帽子を被ってコーヒーを黙って口につけた。

心の準備ができていないが、同じ街にいるのならどこで出会ってもおかしくはなかった。

それが、今だっただけだ。

帽子の下から覗き込むこと数秒。

俺の視界に、赤い髪の後ろ姿が現れた。