軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【勇者パーティー】ジャネット:偽物でもいいと願ったのは僕自身

これはまだ、僕がヴィンスの隣にいた頃の話。

景色から色が失われる……とは、心の鮮やかさ、潤いといったものが失われた時の表現だ。だが、今は文字通りその視界に色はない。

僕は、一切青空を映す気のない白い高層雲を見上げる。子供の絵画のように塗りつぶされた空は、表情を全て失ったようで何も読めない。

読めない。

ケイティさんの思考が、何も読めない。

あの人がヴィンスに接触してきた理由は何なのか。

ただの『勇者パーティーにハニートラップを仕掛けておこぼれにあずかる』程度の存在ではないことぐらいは、僕にでも分かる。

それなりの回数をアリアさんと潜ったが、それこそ功績のためならわざわざ僕達と組まなくてもやっていけるぐらいだ。それに、ケイティさんの仲間がアリアさんだけとは限らない。

何の目的かは分からない。ただ、聖女、聖騎士……そして、聖者。その辺りを狙っている可能性が非常に高い。

エミーは……きっと、良い結果になったのだろう。

あのケイティさんが独り言を呟きながら狼狽える姿は、あの人でも不安や絶望に染まることはあるのだなとも思えて、性格の悪い僕らしい溜飲の下がる思いだった。

……次のターゲットが、僕であることが確定していなければ、だけど。

僕達に接触してきた理由を直接聞いたところで、答えてくれることはないだろう。

それっぽい理由はいくらでも思い浮かぶだろうけど、本当の理由を話すことはないはずだ。

——というよりも、本当の目的を知る段階で、僕がその目的の餌食になっているのは確実。穏便に済ませたい。

だが……予測すらできないのは、もどかしいな……。

「……んあ? どうしたジャネット」

「何でもない。アリアさんはどう?」

「すげえ強えよな、あの女」

隣で共同戦線を張って戦っていたヴィンスは、さすがにアリアさんのことは素直に認めた。

どれだけプライドが高くても、あの実力を目の当たりにすれば、文句も出ないだろう。

ヴィンスも強くなったと思う。

ラセルのことを追い出したのが僕の欲による間違いとはいえ、聖者なしでも十分に勇者と賢者で戦えている。

……そう、戦えている、はずだ。回復術士を入れなくても、僕がいれば聖女の代わりになれる。

勇者の回復術士、それを目的としてずっとやってきた。

本当は、【勇者】若しくは【剣聖】のラセルを、【聖女】の僕が癒す予定だった。

……いや、今はよそう。全ては終わったこと。

エミーが【聖騎士】になり、ラセルが【聖者】になり、僕は魔卿寄りの【賢者】になった。

僕が自分の欲で追い出して、間接的にエミーを自我崩壊させるほど傷つけた。

女神の涙、ともつかぬ嵐の号泣。雨降って地固まる。二人は今、一緒に旅をしている。

全ては……全てはもう、終わったことなのだ。

アリアさんとケイティさんが来て、勇者パーティーはバランスが取れている。

僕が聖女のように回復術士として振る舞えているのは、ケイティさんが魔道士としての役目を担ってくれているから。同時にアリアさんも、魔道士寄りだ。

今、回復魔法を一番使えるのは、僕。結果的に、昔憧れた立場に、歪ながら入り込めている。

正直、聖女どころか【神官】以下の能力しか持たない僕の回復魔法で、どこまで取り繕えるかは分からない。もしかしたら、限界が訪れるかもしれない。でも、その時になるまで僕は今の立場を続けるだろう。

……今の僕は、まるで硝子の 模造石(イミテーション) だ。

話を戻そう。

新たなメンバーである、【魔法剣士】アリア。ケイティを丁寧語で慕う天才魔法剣士であり、レベルはなんと32である。

正直、上級職は多少無理をしない限りレベルが上がりにくいと感じているので、まだまだ若く見目麗しい、快活なアリアがそれほどまでにベテランであることは驚くしかない。普通にAからSランク帯の冒険者だ。

同時に不思議なのが、なぜケイティのことをあそこまで慕っているのか。

「ん。ケイティさんの後輩なのかは分からないけど、立場はケイティさんの方が上だね。何か理由があるんだろうか」

「ジャネットが分からねえのなら俺もわかんねーな。それに、特に問題も起こってねーし、別に気にしなくてもいいだろ? どうしても気になるなら聞けばいいだろうし」

それができれば苦労はしないんだよ……ヴィンスはケイティさんのこと、ただの超綺麗な美女ぐらいにしか思ってないだろうね。

こういうところは単純なヴィンスが羨ましい。……いや、僕が勝手に悩んでいるだけかもしれないのだけどさ。

「聞けば答えてくれるだろうか」

「気になるなら俺が聞いておこうか?」

「ん、助かる」

……本心は伝えてこないだろうけど。

最後の言葉を呑み込み、僕達は再び灰色の街で別行動を取ることになった。

——後から思えば、この時の会話が問題だったのかもしれない。