軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【3巻発売記念SS】研究室の午後(中)

「ところでサラ、久しぶりだね」

「ん?」

ガイ先生は私の後ろに立つサラに向かって笑いかけた。私は双方を交互に見る。サラは静かに頭を下げた。

「え? ガイ先生、当家のサラとお知り合いですか?」

「うん。サラとはアカデミーの学生時代、同じ授業をいくつか受けていたんだ。元気にしてるかい? 先日、ピア博士と一緒に街歩きしているところを見かけてね。懐かしくなった。ええと、スタン侯爵家で働いているの?」

「お久しぶりです。私のことなど覚えていてくださり光栄です」

サラが完璧なお辞儀をした。

「そりゃあ覚えているさ。君は優秀だったもの。誰よりも熱心に勉強していた。我々男子勢にとって、君は高嶺の花だったよ」

「まあっ! サラ〜そうだったんだ〜!」

実はサラはアカデミーを卒業している。

うちの父は希望する使用人にはアカデミーの入試を受けさせて、受かったものには学費を出しているのだ。幼い私の専属侍女をしながらアカデミーを「優」で卒業したサラのことを、私は誇りに思っている。

通期で「優」であることが、父の学費援助の条件だ。アカデミーの学費はいわゆる前世の私大並み。だから学業も日常業務も全く手を抜けない。また、うちのそういうお金の使いどころを使用人たちは皆知っているので、エントランスのカーペットが擦り切れていても、カーテンが日に焼けていてもケチをつけることなく、丁寧な仕事をしてくれる。

「ピア様、ニコルソン様は大袈裟におっしゃっているだけです。なんといっても私は平民なのですから」

「平民といっても、アカデミーを卒業した人間は別格だろう? 皆、君を高く評価しているよ」

「まあ! ガイ先生本当ですか? 嬉しいです〜ねえサラ!」

大好きなサラを褒められて、私の心はポカポカだ。ガイ先生はとってもいい人に決定した。

「だから、お嬢様……」

サラは頰を赤く染めて照れだした。

「アカデミー、おそらく優秀な成績で卒業したと思うのだが、現在はスタン侯爵家の侍女ということでいいんだよね? 君ならば……王宮の文官になれたんじゃないかな?」

「は?」

王宮の文官とは、前世でいう国家公務員だ。そんなに優秀で期待されていたなんて、子どもだった私は知らなかった。

サラには、私付きの侍女以外の道があった?

「サラ……私が手がかかる子どもだったから、ロックウェルに残ったの?」

私がおどおどと見上げると、サラが私の心配を払拭するように、勢いよく首を横に振った。

「ピア様! 私は自分の意思で、自分の道を選びました。ロックウェル伯爵夫妻を薫陶を受けながら、比類なきピア様のおそばにいることこそ、私の喜びだったのです」

そう言って真剣な表情で私の目を見るサラ。ずっと一緒に過ごしてきたのだ。それが真実だということくらいわかる。ホッと胸を撫で下ろす。

「確かに、他でもないピア博士の下ならば、王宮で役人をするよりも学びが多いかもしれないね。それはそうとして、あの頃の同窓の皆は君と会いたいと思うよ? ねえピア博士、彼女の休みは事前に言えば取れるのだろうか? あの頃の仲間と寄り合う時に、サラも誘いたいのだけれど?」

「えーっと……」

私は正直困惑した。ガイ先生のお仲間なんて、一世代上の生粋の高位貴族の皆様に決まっている。そんな中に突然入っておしゃべりしろと? 私だったら無理だ。

再びサラに向かって振り向くと、俯いており、首を傾けて覗き込むと、やはりめんどくさそうな顔をしていた。

しかし、ガイ先生をチラリと見ると、ニコニコ微笑んでおり、純粋に善意だけだということが伝わってくる。

うーんどうしよう……。年上で、先生で、男性で、高位貴族のガイ先生に、上手いことお断りする言葉など出てこない……。

「そうだ! デュラン覚えているよね? 君に二度告白して撃沈したデュラン・コネリー。あいつ、今、立派になってるよ? 主幹だったかな? 褒めてあげてくれないか?」

「そ、そんな、恐れ多い!」

なんと! サラは学生時代ガイ先生の友人貴族に告られていた⁉︎ コネリー……コネリー……まさかロックウェルよりうんと格上のコネリー伯爵家のことだろうか? またサラに振り向くと、小刻みに顔を横に小さく振って、拒絶の意思を送ってきた。だよね〜。

サラが会いたいのならば構わないけれど、学生時代も断っていて、今も気持ちがないのなら、会うのは絶対に避けないと! なんといっても圧倒的に立場が弱いのだから。

はあ……ここは、一旦お茶を濁す返事をして、日を改めて、ハッキリとお断りしてもらおう……ルーファス様に!! もちろん私にできるわけがない……。

「え、えーとですね……」

「ガイ博士」

唐突に、私の言葉をマイクが遮り、ガイ先生に話しかけた。

「……え?」

突然護衛に話しかけられて、ガイ先生が少し驚いたように、目を見開いた。

「申し訳ありませんが、サラは私の婚約者です。男性の集まりに参加させるのは、ご容赦願います」

「!?」

ガイ先生が呆気に取られた様子でサラを、そして私を見た。ここは間違いなく私の出番だろう。

「は、はい、マイクとサラは、そそっかしい私を幼い頃から見守ってくれておりまして、その縁で仲良くなり、婚約しております。スタン侯爵家の義両親はじめ、領民皆祝福しております……もちろん、ルーファス様も!」

最後の言葉を若干強めに!

「そうだったの。知らないこととはいえ、それは申し訳なかったね」

ガイ先生が眉尻を下げて、右手を縦にして謝意を示した。

しかし、うちのマイクが更に追撃をかける!

「サラとガイ博士が同窓であることはよくわかりましたが、今後も私のいないところで、彼女を誘うのはやめていただきたい。お仲間うちにもお伝え願えますか?」

「あ、ああ。わかったよ」

少し気まずい雰囲気に、私とサラは顔を引き攣らせて、男性陣の見えない陰で手をぎゅっと握りあった。

◇◇◇

「……と、いうことがあったのです」

夕食後二人の私室で、私に向き合いながらも机に向かって器用に残務をこなすルーファス様に、早速今日の出来事を報告した。