軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四章 地の底へ

「ど、どうして…?」

穴の底から見上げるようにして彼女に尋ねると、明快な答えが返ってきた。

「わたし、ソーマさんと別れてから、ラインハルトさんの所に行ったんです」

彼女の話を要約すると、こういうことらしい。

俺と別れた後、やっぱりきちんとお礼をしたいと思っていた彼女は、すぐに俺を、いや、『ラインハルトという名の商人』を探し始めたらしい。

現代人の感覚だと、その程度の情報で簡単に探し人が見つかるとは思わなかったのだが、そこは所詮ファンタジーに存在する町だ。

町の住人も大した数ではないせいか、彼女がフットワークを活かして聞き込みをすると、すぐに発見出来たらしい。

しかしもちろん、それはリザードマンの商人であるラインハルトであって、俺ではない。

俺の見立てでは、そこで情報は止まるはずだったのだが……。

トレインちゃんが、ラインハルト本人にその恩人の特徴を説明すると、デキる男であるラインハルトはあっさりとそれを俺だと看破、俺が泊まっている宿の場所を教えた。

彼女が首をかしげながら宿に向かった所、今度はその人ならさっきまで食事をしていたが、シャベルを持ってどっかに行ったよという目撃証言を聞かされたという。

俺だったらその宿で帰って来るのを待つ所だが、そこは流石のフットワークを持つトレインちゃんだ。

今度はシャベルを持った冒険者を探して聞き込みを始めた。

結果、南の門の門衛からシャベルを担いだ人間が通ったと聞いた彼女は、もしかするとと思って最初に俺と遭遇した場所に戻ってきた、という次第らしい。

「今度は、こちらから尋ねる番です」

ナイフを構え直したトレインちゃんが、険しい顔で俺に問い掛ける。

(……まずいな)

俺の両足は今、穴に埋まっている。

たとえ俺のキャラクターレベルが低くても、普通の状態であればスキルの応用でどうとでも切り抜けられる自信がある。

しかし、ステップのスキルは構造上、上下の動きに弱い。

深さが一メートル程度とはいえ、穴の中にいる俺にはステップを使ったコンボが完全に封じられているのだ。

それはもちろん、不知火で戦えば負けることはないだろうが、逆に手加減も出来ない。

そうなれば、彼女を傷つけることになってしまうだろう。

それだけは避けなければならない。

何とか話し合いで解決しなければ……。

「わたしだって、聞いたことがあります。

この『封魔の台地』の地下深くには、恐ろしい邪神が封印されていると」

牽制のように、トレインちゃんがそう切り出す。

俺は何も答えなかった。

「その、レリーフ、邪神の姿が描かれてますよね。

そしてあなたはさっき、『邪神の欠片が眠っている』とはっきり言っていました。

あ、あなたは……」

涙のにじんだその目で、彼女はキッと俺をにらみつけた。

「――あなたは、邪神の復活を願う、邪教徒、なんですね?」

ぽかーん、って感じだった。

……え、なにその勘違い。

そういえば、ゲームでは邪神を崇拝する邪教徒的な人を倒したりしたことがあったような気がする。

俺はそれと勘違いされてしまったってことか?

「モンスターに襲われたわたしを助けたのも、あんなおかしなことを言ってわたしを騙したのも、この場所に注目が行かないように、あなた自身に注意が向かないようにしたかったから。

……違いますか?」

いや、全然違いますけどね。

モンスターに襲われた君を助けたのは単に君を見殺しにするのはしのびなかったからで、あんなおかしなことを言って君を騙したのは単に君がウザかったからですけどね!

しかしまさか、あの嘘がこんな風にブーメランしてくるとは!

やっぱり変に嘘なんて吐くべきじゃないってことだ。

「嘘を教えられたって気付いても、わたしはソーマさんを信じていたかったんです。

でも本当は、あの時から怪しいと思っていたのかもしれません」

「あの、時…?」

思い当たる節がない。

だが、その答えはすぐ、本人によってもたらされた。

「はい。町でわたしから逃げた時……あの時の変態的な動きは、邪教に帰依しているとでも考えなければ、とても説明がつきません」

「変態的な、動き?」

やっぱり思い当たる節がない。

と思ったが、思い返すと一つだけ該当する物があると気付いてしまった。

(変態的な動きって……それは、それは神速キャンセル移動のことかー!!)

あれは『猫耳猫』上級者だけが発動出来る憧れの技で決して変態などでは……。

というのはまあ、置いといて。

「誤解だよ。俺は邪神を復活させるつもりなんてない」

「う、嘘です! だったらその穴は……」

俺はこれ見よがしに首を振った。

「真実が知りたければ、一緒に来るといい」

そう言って、穴を覗き込む。

中は薄暗いが、ゲームの通りなら奥に明かりがあるはずだ。

「ま、待って…!」

トレインちゃんの声を無視して、俺は穴の中に身を躍らせた。

「……っとと」

穴は、思ったよりも深かった。

訪れた浮遊感に驚くが、それでもゲームの身体で対処が出来ないほどではない。

俺は難なく着地すると、少しだけ進んで、彼女を待った。

やがて、

「……きゃっ!」

空から、トレインちゃんが降ってきた。

彼女も腐っても冒険者、空中でバランスを立て直して、見事に両足から着地して、

「ひゃっ?!」

地面で足を滑らせてしりもちをついた。

「…………」

「…………」

気まずい沈黙が流れる。

「や、やってきましたよ! さぁ、説明してください!」

彼女は何もなかったことにして流すことにしたようだった。

強気にそう言い放つ。

が、俺がその質問に答えることはない。

ただ彼女に背を向けて、洞窟の先に向かって歩き出す。

「待ってください! 説明をしてくれるって約束です!

どうして、何も言ってくれないんですか?!」

どうしてか、だって?

全く、馬鹿な奴だ。

そんなの答えるはずがない。

なぜなら……。

(さて、中に入った訳だけど……。

これから、どうしようか?)

まだ、何をどうやって説明するか、全く何も考えてないんだからな!