軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

019 愚昧の賢者

痛み以上に、聴覚を失ったという事実の方が重大だったのか。

セドリックは困惑と焦燥の入り混じった表情で口を開く。

「なぜ、このようなことを……ふざ、けるな! 私を、騙したのですか――」

「そして、 次(・) だ(・) 」

「――え? うわぁぁぁああああああ!!!」

蹂躙は止まらない。

シンは再び剣を振るうと、敵の両目を斬った。

セドリックは聴覚に続いて視覚すらも失う。

「そ、んな……ありえない、ありえない、ありえない! この私が、このような目に遭うなど……夢の中にでもいるに、違いありません……!」

光も音も届かない暗闇の中で、セドリックは惨たらしく 喚(わめ) く。

景色を見て、言葉を聞く。そうして知識を得ることは、彼にとって存在価値にも等しい行為だった。

しかしそのための手段を全てを失った今、セドリックにできるのは――最後に残された希望は、自分の意思を言葉にして周囲に届けることのみ。

ゆえに、

「いいや、これが現実だよ」

「……ごひゅ」

シンはセドリックの声帯を踏みつぶし、その希望さえも奪った。

続けて、シンは無情に告げる。

「格下と思っていた相手に手も足も出ず、惨めに、哀れに、何も理解できないまま死んでいく――それが、知性と誇りを何より重要視するお前に対する復讐だ」

そこまでを言い切ったあと、彼は自嘲的に小さく笑った。

「――まあ、この言葉すらもう届いてないだろうけどな」

「…………ぁ、ぁぁぁ」

すると、セドリックは言葉にならない音を零す。

シンの声が届いたわけではないだろうが、直感的にどんな言葉をかけられたかくらいは理解できたのかもしれない。

もっとも、セドリックが反応を見せたのはここまで。

延命する理由を全て失った彼は、おのずと体中に循環させていた魔力を止める。

――そして間もなく、彼の命は尽きた。

こうして、一人目の復讐は終わった。

「…………ふぅ」

小さく息を吐いた後、シンは力尽きたセドリックから他の4人に視線を向けた。

「 も(・) う(・) 、 立(・) っ(・) て(・) い(・) い(・) ぞ(・) 」

「――――ッ!」

そして、ここまでアルトたちの行動を制限していた魔力圧を解除する。

彼らは戸惑いながらも、その場でゆっくりと起き上がった。

「「「………………」」」

アルト、ガレン、シエラ。

三人の表情には混乱と焦燥、そして恐怖が張り付いていた。

今のやり取りから、青年の正体がシンであるとはもう誰も疑っていない。

その代わりにはっきりしたことが一つ。

どのような手段を用いてかは不明だが、シンは自分たちを超える実力をつけ、復讐のためにこうして姿を現した。

自分たちも、セドリックのように無残に殺されるのではないか。

そんな恐怖が蔓延し、誰も言葉を紡ぐことができなくなっていた。

そのような空気の中、声を上げたのはシンにとって 唯(・) 一(・) の(・) 部(・) 外(・) 者(・) だった。

「どうして……セドリックさんを殺したんですか!?」

「…………」

赤髪の少女――クリムが、目に涙を溜めながらシンを睨みつける。

二年前の事情を知らない彼女にとって、セドリックは尊敬できる大切な先輩であり、シンは突如としてその先輩を殺した殺戮者でしかなかった。

「セドリックさんが、貴方に何をしたって言うんですか!? いいえ、何があろうとこんな、まるで人の心を弄ぶような殺し方……ひどすぎます! どうしてこんなことを……」

「お前に――」

「……え?」

少しの間を置いた後、シンは漆黒の目をクリムに向けた。

「――わざわざ、それを語る筋合いはない」

「ッ!」

「安心しろ、殺す理由もない。お前はそこで、ただ黙っていればいい」

クリムは思わず、言葉を失った。

先ほどまでのように魔力で圧をかけられているわけではない。

ただあの目で睨みつけられるだけで、意思の一切合切を押し潰されるような感覚に陥ったのだ。

震える足を必死に抑えるクリムを尻目に、シンはアルトへと向き合った。

「どうだ? もう痛いほど、これが現実だと思い知っただろ」

「……本当に、お前はシンなんだな」

「ああ、そうだ」

「っ!」

アルトが表情を険しくする。

「――だが、どうしてお前がここにいる!? お前は間違いなくあの場所で死んだはずだ! それとも、あの敵と戦わずに脱出できる抜け穴があったとでも……」

アルトの語気が、徐々に弱くなっていく。

彼の視線は、シンが握る漆黒の剣に向けられていた。

ようやく気付いたのだろう。

シンがどうやってあの地獄から抜け出してきたのか。

「お察しの通り、これはあのエクストラボスから奪ったものだ……もっとも、お前たちが戦ったのとは違う個体だけどな」

「ばか、な……」

衝撃の大きさに、アルトは思わず後ずさる。

あのエクストラボス、ネクロ・デモンは1000レベルだったとアルトは記憶していた。

それをシンのような雑魚が倒せるはずがない。そう思ったのだ。

しかし、

(先ほどまでの魔力圧に、レベル400を超えるセドリックを瞬殺する実力……今のコイツは本当に、それだけの力を持っているんだ!)

さらなる絶望が、アルトを襲う。

彼は理解した。このままではシンの言う通り、自分たちはここで殺されると。

(そんなことだけは、絶対に認められない! 何としてでもここから逃げなければ……!)

だが、唯一の出口はシンが塞いでいる。

このままでは二年前の 罠部屋(トラップ・ルーム) と同様、戦闘を回避して逃げることはできない。

そ(・) う(・) 、 通(・) 常(・) の(・) 手(・) 段(・) な(・) ら(・) ――

ここでアルトは小さな笑みを零した。

(まさか一度ならず二度までも、この保険が利くとはな)

心の中でそう告げた後、アルトはクリムに向かって叫んだ。

「コイツと戦うのはまずい! こ(・) こ(・) は(・) 全(・) 員(・) で(・) 逃(・) げ(・) る(・) ぞ(・) ! クリム、今すぐ『転移結晶』を発動しろ!」