軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

018 失った感覚

復讐の始まりを告げるシンと、その足元に横たわる上半身だけのセドリック。

誰もが状況を呑み込めず、つかの間の静寂が訪れる。

その静寂を破ったのは、1人の少女の悲鳴だった。

「――っ、きゃぁああああああああああ!」

クリムにとって、それはあまりにも衝撃的な光景だった。

2年間、共に旅をしてきた仲間が突如として殺されるなどという悲惨な経験は、彼女にとって初めてだったからだ。

そんな彼女の悲鳴は、周囲の者たちにも強く響いた。

「っ! 貴様、よくもやってくれたな!?」

遅れて我に返ったアルトは、剣先をシンに向けながら糾弾を試みる。

しかし――

「黙れ。 お(・) 前(・) た(・) ち(・) は(・) 後(・) だ(・) 」

「――――くっ!」

睨み一つで、その気勢を 殺(そ) がれることとなった。

ただ雰囲気に圧されただけではない。

もっと具体的に、青年の体から放たれた魔力の圧がアルトたちの体を抑え込んだのだ。

全員がその場に膝をつく中で、アルトは困惑していた。

(なんだこれは!? 魔法やスキルでもなく、ただの魔力圧で俺たちが身動きもできないだと!? ありえない! こんなことはSランク冒険者でもできないはず……コイツはいったい何なんだ!?)

いつ命を奪われてもおかしくない状況に、冷や汗を流すアルトたち。

しかしシンはそんな彼らを一瞥した後、すぐにセドリックへ視線を戻した。

すると、その直後。

「あり、えません……なぜ、私が横たわって……貴方はいったい、何をしたのですか……?」

上半身だけになってなお、セドリックはゆっくりと言葉を紡いでいた。

保有する魔力を総動員して、かろうじて延命しているのだ。

シンは率直な感想を告げる。

「……想定通りとはいえ、さすがだな。体を半分にされても延命できるのは、この中で賢者のお前だけだろう」

とはいえ、それは決して死の運命から逃れられるようなものではない。

シンの無限再生とは違うのだ。

それでも知的好奇心に満ちた賢者セドリックにとって、死ぬ前に残されたこの時間は価値あるものであり、最後に自分の疑問を解消しようと試みているのだ。

その様子を見たシンはわずかに目を細める。

「見ての通り――いや、見えなかったのか。ただこの剣でお前を斬っただけだよ」

「……分かり、ません。貴方は、何者……なのですか? これほどの実力者に恨まれる覚えなど、私には一切ありません……」

ここに来てもなお、セドリックはシンの正体を疑っていた。

恐らくそれはアルトたちも同様なのだろう。

「……仕方ないか」

これでは復讐を進めることができない。

そう考えたシンは小さくため息を吐いた後、その場にしゃがみ込み……セドリックに向けて か(・) つ(・) て(・) の(・) 笑(・) 顔(・) を(・) 浮(・) か(・) べ(・) た(・) 。

そして、

「さっきの言葉は嘘じゃない。 僕(・) は(・) シ(・) ン(・) だ(・) よ(・) 、 セ(・) ド(・) リ(・) ッ(・) ク(・) さ(・) ん(・) 」

「――――!」

その笑顔には効果があったのか。

セドリックは驚愕したように目を見開いていた。

「そん、な……本当に、あのシンだと言うのですか……? ですが、理解できません! それならどうやって、貴方はあの場所から生き延びて……そして何より、それだけの力を得たというのですか!?」

死に際とは思えないほどの勢いで、セドリックは次々と言葉を紡いでいく。

青年の正体がシンであると認めたことで、さらに幾つもの疑問が生まれてしまったからだろう。

「………………」

そんなセドリックを見下ろしながら、シンは彼との思い出を遡っていた。

賢者セドリック。

【黎明の守護者】に所属する魔法使い。

シンにとっては、比較的関わりの薄い相手だった。

というのも、だ。

基本的にセドリックは他人に興味がなく、自分の知的好奇心を満たすことだけにエネルギーを費やしていた。

休養日は魔導書を読むか、魔法の実験をすることがほとんど。

シンだけでなく他のパーティーメンバーに対しても似たような対応だった。

その程度の関わりしかないセドリックだが、それでもシンが知っていることは幾つかある。

まずは上述のように、何よりも知識を大切にしていること。

そして知識を持った者としての、ふさわしい振る舞いをすることに誇りを持っていることだ。

シンに対してもよく、『思考することだけは止めてはいけない』と言っていた。

そんなセドリックは2年前の別れ際、シンに対して言った。

『何も知らないまま無垢に笑う貴方は、とても惨めでしたよ』――と。

パーティーの全員から騙されていることに気付いていなかったシンを、そう嘲笑ったのだ。

だからこそ、シンは考えた。

セドリックに対して、最もふさわしい復讐の手段は何か。

――そして、答えは出た。

しばしの思考の末、シンはセドリックに告げる。

「……安心してください。僕が今日までどうやって生きてきたか、ちゃんと皆にも説明するつもりでしたよ」

「っ! そう、ですか……ならば早く、教えてください! 私の命が、尽きてしまう前に――」

そして、同時に剣を二度振るった。

セドリックの知識吸収を支えた、 2(・) つ(・) の(・) 耳(・) が(・) 宙(・) を(・) 舞(・) う(・) 。

併せて放った魔力の余波により、鼓膜ごとその機能を奪った。

「――へ?」

突如として音を失い、困惑するセドリック。

シンはそんな彼に対し、 届(・) く(・) こ(・) と(・) が(・) な(・) い(・) で(・) あ(・) ろ(・) う(・) 言(・) 葉(・) を(・) 送(・) っ(・) た(・) 。

「もっとも、それを聞けるのはお前を除いて――だけどな」

訪れる数瞬の間。

状況を理解したセドリックが絶望の表情を浮かべるまで、そう時間はかからなかった。