軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 記録

「しっかりと、承ったわ。ソフィア様」

アイリーンは渡された記録用の魔法具――記録魔法機をもってソフィアに言った。

その言葉に、ほっとする。

さすがにソフィアは跡取り教育を終えているとはいえ、この本邸から頻繁に離れる訳にいかない。

そこで、アイリーンに代理を頼み、彼女にはこの作戦の最重要任務を担ってもらうことにした。

少し、引っ込み思案なところもあるアイリーンだが、やるときはきちんとやる子だ。

彼女になら任せられる。

「お願いしますわ。アイリーン」

「ええ。……それにしても記録魔法機なんて初めて触ったわ。王城の舞踏会で魔法使いが使っているのを見たことはあったのだけれど……」

言いながらアイリーンは記録魔法機をローテーブルの机に置いて観察する。

「魔法使いでもないと触る機会が無いというのはその通りね。わたくしも今回初めて触ったもの」

「とても精密な作り…………丁寧に扱わないとだめね」

「……父には公爵家の催しの記録用として購入を打診しましたから……破損にだけは気をつけてくださいませ」

「……ちなみに、どの程度、かしら」

ソフィアが言うと、アイリーンは緊張した面持ちで、記録魔法機をなでながら問い掛けた。

どの程度というのは、金額のことだろう。

皆まで言わないが察した。

ソフィアは言うべきかどうかと少しためらったが、隠してもいつか知るだろうと思うので、苦笑して言った。

「小さなお屋敷を建てられる……ぐらい、かしら」

「わぁ……こ、こんなに小さいのに……」

「それでも性能は素晴らしいわ。専用の記録石を使って一つ一つに鮮明な記録を残せるんだもの」

「記録石の記録、見たことあるわ! 絵画とは比べものにならないわよね」

「ええ、その場に、その時の時間があるように宙に浮かぶ美しい記録、初めて見たときは神の御業かと思ったわね」

そうして、華やかな催しの光景を残し、絵画のように観覧できるように披露するのが貴族の中では最上位の栄華を誇っているというアピールになる。

青い絵の具が貴重で高価だったとき、それをよってそれを惜しみなく使うことが権威の証であったように、記録魔法機もまた「富と格式を示すための芸術品」として扱われている。

「その気持ちわかるわ。まさか自分のてで扱う日が来ようとは、思っていなかったけれど」

「ふふっ、そう身構えないで気軽でかまいません。実は、記録石自体は使い回しもできてさほど高価ではありませんもの。いくつかあなたに贈るから王都で記録を残していらして」

「気軽に……お屋敷一つ分を……ああでも、家族との記録……欲しい」

「それも良い案ですわね」

アイリーンの言葉にソフィアは兄の顔が浮かんだ。

せっかく購入したのだから一つぐらいと、ふと考えてしまう。

そういう用途で買ったわけではないのに、どんなシチュエーションで、どんなふうにとついつい考えが広がる。

「ともかく、目的はきちんと果たしてくるわ。ソフィア様」

「ええ、よろしくお願いします」

アイリーンは切り替えてそう言って、ソフィアも答えた。

ソフィアは兄の自室を訪れていた。

記録石は高価なものではないが、節約できるところはするべきだ。

アルバートが記録石をいくつか持っているとのことだったので、もらい受けることになった。

父や母にも協力してくれるので数はそれなりに集まりつつある。

ちなみに、なぜ記録魔法機を持っていないのに必要ない記録石を所持しているのかと言うと、実は個人的な記録を残すために魔法使いに依頼して記録してもらうこともできる。

その時にこちらで記録石を用意する。

魔法使いに依頼して記録を残してもらうのは、魔法機を買うよりは安価だが、それでもおいそれと依頼できない値段であり、気軽にする人はいない。

年長で記念に記録を残す機会がいくらでもあった父と母と違って、兄も持っているというのは少し意外だった。

「ええと、ああ、この引き出しだったかな」

言いながらアルバートは机の引き出しを引く。

そこにはガラス張りの記録石ケースと、簡素な木箱に数個まとまっている記録石があった。

「ああこれ、たくさん買ったのに私の使えるお金だと記録してもらえる数が思ったより少なくて、余ったものなんだ」

「そう、なんですの」

「こうして使える機会が来たんだから取って置いた甲斐があったね」

アルバートは、優しい笑みを浮かべて記録石ケースをひとなでしてから小さな木箱を手に取る。

ソフィアは、そうして兄が優しい顔をして撫でる記録石を見て、少し寂しい気持ちになった。

記録石は十個ほどある。兄の言葉からして一度に記録したのだろう。そういうことは珍しいが、兄が記録をたくさん残しておきたいと思う状況は一つだけ心当たりがあった。

(きっと、元の家族との大切な記録なのでしょうね)

気楽に会えなくなるから、たくさん思い出を残したのだろう。

そう思うと切なくて、でもアルバートが言わないのだから聞かない。

「もっと必要なら、余っている分がないか知り合いに当たってみるけど――あ」

言いながらアルバートが、木箱から記録石をコロコロと手のひらに開けるとそのうちの一つがキラリと光って、丸く光が浮き上がる。

「!」

光を額縁にして、小さな女の子の記録が現れた。

ふわっとした銀髪に、サファイアの瞳をした優しい顔つきの少女。

頬がふっくらとしていて、どこかよそを見て無邪気に笑っている。

「え、あっ、あー……」

兄はしまったという顔をしている。ミスで、使っていないものの中に使用済みが紛れ込んでしまっていたのだろう。

「……わたくしの記録?」

「…………」

「お兄様?」

「…………」

兄はゆっくりと視線をそらして、ソフィアの手に使っていない記録石を渡してから、光っている記録石をそっと手で覆った。

そうすると記録は消えて、兄は黙って固まった。

しばらくそうして彼を見ていると、長い逡巡の後、少し頬を染めてアルバートは言った。

「……君が、かわいくて」

「……」

「ケースの中、全部ではないから、もちろん父上は母上との記念もあって、その上で、数個、ソフィアをね、少しだけ……」

「……」

言い訳をするアルバートはなんだかしどろもどろだった。

それにソフィアは兄が自分の記録を持っていることなんて、別に嫌というわけでもないし、むしろ嬉しいが、その様子が面白くて「本当に?」と問い掛けた。

「うっ、本当だよ」

「そうかしら」

「もちろん」

そうしてしばらく揶揄ったのだった。