軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十四話 ルードヴィッヒ、スカウトする

「お呼び立てしてしまい、申し訳なかったですわね、ディオン隊長」

「いえいえ、姫殿下の御意にあらせられれば、我ら末端の兵士、どのような時であっても参上するは、当然のこと」

片膝をつき、頭を垂れるディオン。自身の部下たちの命を救ってくれた姫殿下に敬意を払い、彼にしては珍しく殊勝な態度であった。

もっとも、それでも「慇懃」というよりは、そのあとに「無礼」をつけたくなってしまうような雰囲気ではあるのだが。

「そっ、そうですの? なんだか、あなたからそんなことを言われるのは、少し気味が悪いですけれど……、まぁ、いいですわ。実はお願いしたいことがございますの」

なぜだか、やたらと警戒した顔で見つめていたミーアであったが、気を取り直したように一度咳払いをして話し出した。

「かんざしを取り戻しに森に行きたい……ですか」

事情を聴いたディオンは、思わず首を傾げた。

――よほど高価なもの、ということか? しかし、あまりそういう価値に固執するようにも見えないが……、それとも、だれか特別な相手からのプレゼントか?

などと推測するディオンだったが、詳しく聞いてさらに混乱を深めることになった。

「貧民街の子どもからもらったもの、ですか……」

いくらその子どもの母親の形見だといっても、そんなもののためにわざわざ森まで戻ろうというのは理解できなかった。

「わがままだということは、存じておりますわ。ですが」

「別に構いませんけどね」

「……へ?」

「姫殿下には、兵を引くきっかけを作っていただいた恩がありますからね。このぐらいのわがままなら聞きますよ」

それに、どうせ、ただのわがままじゃないんでしょう? と心の中で付け加え、ディオンは躊躇いなく言った。

「まぁ、兵は動かせませんがね、僕一人でよろしければ、お連れしますよ」

「あ、あなたと二人きり、ですのっ!?」

ミーアは一瞬、顔を真っ青にさせたが……、

「やっや、やむを、えませんわ……」

絞り出すように言った。

その声は、なぜだか、泣き出しそうなぐらいに震えていた。

「ディオン隊長」

部屋を出たところで、呼び止める者がいた。

「ああ、ルードヴィッヒ殿か」

立っていたのは、ミーアの腹心、ルードヴィッヒだった。

「どうか、くれぐれも、ミーア様のことをお願いしたい。ミーア様は、これからの帝国に必要な方ですから」

「まぁ、最善を尽くすよ。姫殿下には恩義があるからね」

軽く言って 踵(きびす) を返そうとするディオン、だったのだが……。

「もう一つ、お願いしたいことがあるのだ」

そのどこか決意のこもったような視線に、ディオンはわずかに表情を引き締める。

「なにかな? ルードヴィッヒ殿」

「今回のことが無事に片付いたら、あなたにも姫様の協力者になっていただきたいのだ」

「協力者? それはまた思い切ったことを言うね。僕はあまり、姫殿下に好かれてないと思ってたんだけど……」

腹心の部下が来た以上、そんなことはないのだろう。

「でも、協力って言ったってねぇ。近衛兵団にでも入って、姫殿下を守り奉ればいいのかな? まぁ、それも楽しそうだけど」

「あなたの剣の腕を持ってすれば、誰よりも頼りになる守り手となれるだろうな。それは確かに魅力的な提案ではあるが、そうではない」

小さく首を振った後、ルードヴィッヒは思わぬことを言った。

「あなたには、将軍になっていただきたい」

「は? 僕が? しょ、将軍?」

さすがのディオンも、ぽかん、と口を開けて固まる。

「私は、金月省や内政を司る省には働きかけることができる。知人もいる。しかし、軍部、つまり黒月省には残念ながらツテがない。ミーア様のやりたいことのためには、私のような文官だけではだめなのだ。軍部にも協力者が必要になる。それも実力があり、姫殿下の胸の内をわかっている人物が……」

「そのために、僕に軍で出世して、その上で協力しろと?」

それは、ある意味で、近衛になって命をかけて守れ、という以上に困難なことだった。出世にまるで関心がないディオンにとっては、面倒この上ない話でもある。

だから、

「そうだねぇ。それも楽しそうかもしれないな」

そう答えてしまった自分が、ディオンには意外だった。

だが、少なくともミーアの指示のもとで剣を振るっていれば、どこぞのわけのわからない貴族の命令で死地に送りこまれるよりは、良い死に場所を得ることができるように、彼には思えたのだ。

「まぁ、なんにせよ、今なにを言っても無意味だね。森から無事に生きて帰ってこれる保証もないし、上手くことをおさめる保証も……、って、なにを笑っているのかな?」

「いや、なに。大したことではないさ」

「姫殿下なら、確実に上手くやるだろうから、心配するだけ損とか、もしかして、そういうこと思ってる?」

「それもあるが。なにより、そう思っているのはほかならぬディオン殿のように見えたのでね」

指摘され、ディオンは少しだけ驚いた。

なるほど、確かに自分は不安を感じていない。それは、自らの剣の腕を信じるが故だとばかり思っていたが。

――姫殿下に任せておけば、そう悪いことにはならないと、僕自身も思ってるのか?

それは、なんだか、業腹だなぁ、などと思うディオンだった。

この日の夜の密談は、後世の歴史書に載る出来事となる。

後に、ミーア四天王と呼ばれる名宰相ルードヴィッヒと、同じく四天王の一角を担うことになる大将軍ディオン・アライア。

盟友にして親友、生涯をミーアに捧げることになる男たちの、それが初めての出会いだった。