軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十六話 ミーアの提案、小驪、鋭く洞察してしまう!

小驪たちの後ろ姿をとらえたところで「ここだ!」と直感し、一気に加速。距離を詰めるのは……東風だった。

相手のすぐ後ろについていったほうが、有利と考えたようだった。

一方、ミーアはと言えば、無邪気に追いついたことに喜びつつ、小驪に声をかける。

「やっと追いつけましたわね。小驪さん」

ニッコニコと嬉しそうな笑みを浮かべるミーアに、小驪は、ムスーッとした顔で言った。

「ミーア姫、ずいぶんと楽しそうにしている、ですの。そういえば、出発前にも、そんなことを言ってたな、ですの。楽しく馬に乗るとかなんとか……」

「……楽しそう?」

楽しそう……楽しそう…………っ!

その言葉に「ここだ!」と直感し、一気に思考を加速。小驪との距離を詰めるべく動き出したのはミーアだった。

相手の言葉を巧みに取り込み、状況を有利に持っていくべく、ミーアは口を開く。

「まさにその通りですわ。小驪さん。わたくしは、楽しく馬合わせができればと思っておりますの」

ミーア、渾身のアピールである。

決して、敵対するものではありませんよ! と。仲良く、和気あいあいとしましょうよ! と……ミーアが訴えかけたいのは、それである。

そうして、勝ち負けが決まればノーサイド。恨みっこなしで互いに健闘を称えあいましょう、と言いたいのだ!

そのような共通認識があればこそ、負けても安心と言えるのである。

「二人で仲良く途中まで行って、それで、最後の最後で勝負をすればいいですわ。そう思いませんこと?」

ミーアは、そう提案する。

なにも二日間もしんどい勝負をすることないじゃない?

最後だけ、ちょこっと本気で馬を走らせればいいじゃない?

途中までは仲良く楽しい遠乗りでいいじゃない!

ニッコリ友好の笑みを浮かべつつ、力強く訴えかける。

馬を速く走らせると、いろいろ大変だし疲れるから、のんびり行こうよと主張するのだ。

ちなみに、今のミーアに、馬を速く走らせてハードに運動しようという考えは、すでにない。

そうなのだ! ミーアはすでに最初の目的である「いい運動をする」というのを達成したつもりになっているのだ!

――今夜は親睦を深めるために、一緒に美味しいものをたっぷり食べるというのはどうかしら?

などと、そんなことまで思う始末である。

――やはり、共に食事をすることこそ、分かり合うための第一歩ですし……。

同じパンを分け合ってこそ、分かり合うことができる。それは、ミーアが大切にしたい信念の一つである。

「それで、どうかしら? 小驪さん」

ちょっぴり媚びるような笑みを浮かべて、ミーアは言った。

「最後の最後で勝負を……?」

小驪は、ミーアの口から出た言葉を吟味する。

それは、途中の勝負所での駆け引きの一切を否定する提案だった。

乗馬に慣れていないであろうミーアの提案としては、なるほど、とても妥当なものだった。

今回の馬合わせのコースは、最も簡単なコースが選ばれている。けれど、それでも難所がないわけではない。ゴール前の坂はもちろんだが、それ以前にも勝負所が何か所かある。

そして、それらの場所は、乗馬技術が問われる場所。そこで勝負を仕掛けられては不利とミーアは考えたのだろう。

だから、それらの場所でも仲良く一緒に行きましょう、と誘いをかけているのだ。

だが、同時にそれは小驪にとっても検討に値する提案だった。なぜなら、落露は紛れもない駿馬だ。速力勝負であれば、それも、ゴール付近の短い距離であれば負けはしない。絶対にだ。

見たところ、ミーアの馬は、どちらかというと体力勝負の馬のはず。本来、ミーアは最後の坂の前に、勝負を仕掛けなければならないはずだった。

にもかかわらず、ミーアは終盤の速力勝負を挑んできたのだ。それをどう考えるべきか……?

――よほど、馬の速さに自信がある……っ!? まさか……だから、スタートでは、私に先行させたということ、ですの?

自らの馬の速さを隠すために、あえてゆったりしたスタートを切ったということだろうか? 最後の最後、速さ比べに引きずり込むために……。

――大した自信、ですの。この落露に勝てると、本気で思っているんですの?

小驪はミーアの顔を見る。ミーアは……きょとーんっと、不思議そうに首を傾げていた。

不安そうな様子は微塵も感じられなかった。

――私のことナメてる、ですの。ものすごーく馬鹿にしてる、ですの。

腹の底からふつふつと怒りが沸き上がる。が……同時に冷静な部分が告げる。

相手は帝国の叡智……油断は禁物である、と。

聞けば、レムノ王国で起きた、例の革命未遂事件を解決したのは、このミーア姫であるという。ならば、何の根拠もなく、最後の勝負を挑んできたりはしないだろう。

勝てるという確証が、おそらくはあるのだ。

裏を返せばそれは、途中途中での勝負を挑まれたくないということでもある。

――そういえば、この位置……。

唐突に小驪は気付く。

ミーアの位置取り。小驪よりやや後方に走らせるというこれは……?

――私に先行させて、様子見をしよう、ということ、ですの?

そこで、小驪の背筋に冷たい戦慄が駆け巡った。

最後の最後で勝負をすること、途中途中での勝負を放棄すること、それは、地の利を手放すことだった。

もしもミーアの話に乗れば、馬合わせ、この草原を知る者としての地の利を手放すことに繋がるのだ!

危うく思考を絡めとられそうになっていたことに驚愕しつつも、小驪は、辺りを見回し……、あるものを見つけた。

それは勝負所の一つである場所で……。

「ついてきたいなら、そうするといい、ですの。もっとも、ついてこられるものならだけど……ですの!」

言うが早いか、小驪は落露の馬首を翻した。