軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話 はじめてのお友達!

「あの、ラフィーナ様、少しよろしいでしょうか?」

昼休み、緊張にコチコチに固まりながら、ミーアはラフィーナの教室を訪ねた。

「あら、ミーアさん、なにか御用かしら?」

顔を上げたラフィーナはいつもと変わらない涼しげな笑みを浮かべていた。が、それでミーアが安心することはない。

聖女と謳われるラフィーナは、基本的に笑顔なのだ。顔のデフォルトが笑顔なのだ。笑いながらミーアをザックリ切り捨てることだってあり得る。

油断はできない。

「折り入ってお話があるのですけれど……」

恐る恐る、ミーアは上目遣いにラフィーナを見つめた。

「そう。ならば、そうね、ちょうどお昼を食べようと思っていたところだから、ご一緒にいかが?」

ラフィーナは、普段と同じおだやかな声で、ミーアを自室へと案内した。

「ああ、そうだ。ご挨拶の品をありがとう、職員の皆が喜んでいたわ」

ぽん、と手を打って、嬉しそうに話をするラフィーナ。

アンヌから報告を受けていなかったミーアには、なにがなにやら、と言ったところだったが、とりあえず、ラフィーナの機嫌が良さそうなことに安堵して、笑みを浮かべる。

――よかった、これならば……、なんとかなりそうですわ!

席につき、机の上に二人分の昼食が並んだところで、おもむろに、ミーアは頭を下げた。

「このたびのこと、申し訳ありませんでしたわ」

ギロチンがかかっているので、躊躇は一切なかった。

「頭をあげてください、ミーア姫。別にあなたがしたことではないのでしょう?」

「いえ、帝国貴族のしたことは、皇女たるわたくしの責任ですわ」

ミーアは言った。できるだけ健気に見えるように。

実際には、はい、わたくしの預かり知らぬところで行われたことですわ! などと主張したいところだが、ここは我慢だ。

「それで、処分はどのように?」

「はい、直接関与した従者は本国へ帰還させましたわ。主である生徒たちは、関与がはっきりいたしませんので、謹慎といたしました」

「それは、少し処分が甘いのではないかしら?」

すぅっとラフィーナは瞳を細める。

――ひぃいっ!

その冷たい視線に、ミーアは震え上がった。

やはり、主の方にももっと重い処分を下すべきだったかと後悔するが、もはや後の祭りだ。

なんとか、彼らを軽い処分で済ませたことの、正当性を訴えなければならない。

「ミーア姫、あなたは、ずいぶんと慈悲深い方のようですね」

――どどど、どうしましょう、どうすればっ!?

さながら、のっそりと起き上がったライオンににらまれた猫のように、ミーアは懸命に逃げ道を探す。

けれど、すでに知恵熱気味の頭では、なにも考えることができなくって……。

そんな時、ふと、目の前に置かれたスープが目に飛び込んできた。黄色い野菜の入ったスープ、それは、懐かしい黄月トマトの入ったスープだった。

ふと、帝国の料理長の顔が思い浮かんだ。

ミーアが嫌っていた黄月トマトを、工夫して料理してくれた、あの頑固な男の姿が……。

「……黄月トマトをまずいと言って残すことが罪深いことだと気づくのは、食べるものがなくなった後のこと……」

転生した後に食べた黄月トマトの味を思い出す。

あんなにも丁寧に作ってもらっていた料理を残していたのだと思うと、いかにかつての自分がひどいことをしていたのかがわかる。

――って、現実逃避してますわ! いまはそれどころではなくって……。

「つまり、悪いことをするのは、それが悪いことだと知らないからだ、ということかしら?」

「……へ?」

「さしたる被害もなかったから、被害者に対する配慮も容易。なるほど、それを見越して、腹心のアンヌさんを送りこんだのですね……」

先ほどとは打って変わって、ラフィーナはやわらかな笑みを浮かべた。

罰には二つの側面がある。

一つは被害者の心を慰めるため。もう一つは加害者に反省を促すため。

そして、今回の場合、アンヌの活躍により被害は軽微に抑えられているのだ。

「となれば、加害者の側に反省を促して、それで成長を期待する……確かに、その方が学び舎に相応しいやり方なのかもしれませんね」

「まさに、その通りですわ!」

ミーアは……乗っかった。よくわからないが、ともかくこの場をやり過ごすことができれば、この際なんでも良い。

「ミーアさん」

改めて、ラフィーナはミーアの手を取った。

「悪人さえも更生を促そうとするその慈悲深さは、私にはないものです。さすがは帝国の叡智、感服いたしました」

「こっ、光栄ですわ」

そんなに感心されると、さすがに居心地が悪い。ミーアは若干引きつった笑みを浮かべる。

「それで……、その、ミーアさん、えっと……」

ふいに、ラフィーナの歯切れが悪くなった。

――ま、まだなにかありますの?

思わず逃げ出したくなるミーアに、ラフィーナは思わぬことを告げた。

「あの、私とお友だちになってくれませんか?」

「へ……?」

この日、ミーアはラフィーナ公爵令嬢と友だちになった。

ラフィーナと別れて自室に帰ってから、ミーアは改めてアンヌを心からねぎらった。

恐縮するアンヌを無理やり連れて街に繰り出したミーアは、褒美と称して、楽しくスイーツめぐりをするのだが……。

それはまた別の話である。