軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十九話 ルードヴィッヒ、察する

サンクランド行きを決意したミーアは、善は急げとばかりに行動を開始する。

まずはルードヴィッヒを呼んで、護衛などもろもろの手配をする。

「……わかりました。皇女専属近衛隊から、腕利きを編成いたします」

ミーアの突発的な思い付きには慣れっこのルードヴィッヒは、諦めのため息交じりにそう言った。

「よろしくお願いしますわね。ああ、それとディオンさんも護衛に連れていきたいのですけれど、大丈夫かしら?」

「ディオン殿を、ですか……」

ルードヴィッヒは、眼鏡を押し上げつつ、ミーアのほうを見た。

「なにか、そのような危険があると……」

「ああ、念のためですわ。もちろん、危険がないに越したことはありませんけれど、サンクランドに大軍を率いていくわけにもいかないでしょう? ならば、少数で強力な護衛をお願いしたい、と、それだけの話ですわ」

まさか、シオンが殺されるのを止めに行く、などと素直に言うわけにもいかない。すでに冬に、相当無茶をしているのだ。ルードヴィッヒもかなり心配していたらしいし、いかにシオンを助けるためとはいえ、絶対に止められるに違いない。

ということで、ミーアは誤魔化しにかかったわけだが……、

「……なるほど」

ルードヴィッヒは、じっと……じぃぃぃっと……ミーアのことを見つめていたが、メガネの位置を直してから言った。

「では、今回は私も同行させていただきます」

「……へ?」

「急のことですし、不測の事態も起こるでしょう。それに、サンクランドの行政官とも話がしたいと思っておりました」

「え? あ、いや、ルードヴィッヒ……」

「では、私は引き継ぎの仕事などございますので、いったん失礼いたします」

言うが早いか、さっさとミーアの前を去っていくルードヴィッヒであった。

「ふむ、まぁ、ルードヴィッヒがいるとなにかと助かりますし……、構わないかしら……?」

そもそもの話、ミーアが行ったところで陰謀を見抜けるはずもなし。せいぜいミーアは、ディオンという最強の駒をサンクランドへと送り込むための呼び水に過ぎないわけで……。

となれば、当然、知恵働きができる人間の同行が必要となるわけで……。

懸念されることとしては、これから、帝国内もいろいろゴタゴタがあるはずだが、その場にルードヴィッヒがいなくて大丈夫か……ということだが。

「それは、ルードヴィッヒならば上手く手配するでしょうし……ふぅむ」

などとうなりつつ、ミーアはとりあえず作業を進めていく。

次にしたのは、ルドルフォン辺土伯領に帰っているはずのティオーナに書簡を送ることだった。冬の時にも実感したが、ティオーナとリオラは戦闘面で、割と頼りになりそうである。

「女だけしか入れない場所というのもありますし、武力面でアンヌに頼るわけにもいきませんわ」

そして、もう一人、いざという時のために連れていきたい人材……それは……。

「ふむ……。やはり、彼女もついてきていただくのが良いですわね。アンヌ、少し出かけたいので準備をお願いいたしますわ」

「はい。わかりました……けれど、どちらにお出かけですか?」

ちょっぴり心配そうな顔をするアンヌに、ミーアは微笑みかけた。

「大丈夫ですわ。帝都の中の、貴族街に出かけるだけですから」

シュトリナ・エトワ・イエロームーンは、現在、帝都ルナティアにある別邸に滞在していた。

ちなみに、なぜミーアがそれを知っているのか、と言えば、今朝、ベルと遊ぶためにシュトリナがやってきたからである。

ペルージャンからベルが帰ってくることを聞きつけたらしいシュトリナは、意気揚々、白月宮殿に現れて、ベルを別邸に招待したのだ。

「……一応、名目上はお勉強をするため、などと言っておりましたけれど……あれは絶対に遊ぶ気ですわ」

そもそも、厳しいお目付け役がいなければ、ベルが勉強するなどとは思えないミーアである。

「リンシャさんがお国に帰っている今、わたくしがしっかりしてやらなければなりませんわね」

そんなことを思いつつ、ミーアはイエロームーン公爵家の別邸を訪れた。

他の貴族の邸宅より、一回り大きな館。壁に這う蔦、庭を彩る植物たちに、ミーアは思わず目を奪われる。

――これ、もしかして、全部、毒だったりするのかしら……?

などと思いつつも、護衛を引き連れ屋敷内へ。案内されたのは、広い中庭だった。

よく手入れされた花が、控えめに彩る庭内、その一角に設えたテーブル席にシュトリナが座っていた。そして、そんな彼女の目の前でベルが…………踊っていた!

「それで、ここを、こうして、楽器を鳴らして」

鳴子の代わりに手を、パンパン、と叩く。 どうやら、先日のペルージャンでの演舞を、シュトリナに見せているようだ……よう……なのだが……、

「それで、こうっ!」

くるくるりん、っと回って、もう一度、パンパンがパン、っと手を叩き……ドヤァっと胸を張るベル。

「って、全然違いますわ、ベル」

すかさず、ミーアのツッコミが飛んだ。

ベルの演舞はこう……なんというか、こう…………なんなんだろう?

――どこが、とは言い難いけれど、全体的におかしなことになっておりますわ。というか、相変わらずすごいですわね、あの子……。間違ったダンスをあんなにも堂々と……。しかも、なにか偉業を成し遂げたかのような、あの表情……あの度胸は見習いたいところですわね……。

感心しつつも、ミーアはベルのほうへと歩み寄った。

「あっ、ミーアお姉さまもいらっしゃったんですね」

ミーアを見つけたベルは、ニコニコと笑みを浮かべた。

「こんにちは、ミーア姫殿下。ようこそ、我がイエロームーン邸へ」

シュトリナも、すっと立ち上がり、スカートをちょこん、と持ち上げた。

それから、野に咲く小さな花のような、可憐な笑みを浮かべた。

――相変わらず、お人形さんみたいに可愛いですわね、リーナさん……。

などと感心しつつも、ミーアは笑みを浮かべた。

「ご機嫌よう、リーナさん。イエロームーン公爵はご壮健かしら?」

「はい。お気遣いありがとうございます。おかげさまをもちまして……」

「そう。あ、でも、クッキーの食べ過ぎはほどほどにするように言っておいてくださいましね。知ってまして? 甘いものの食べ過ぎは寿命を縮めるんですのよ?」

早速、タチアナから得た情報を、なにか偉業を成し遂げたようなドヤァな顔で披露するミーアなのであった。