軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話 皇女ミーアの旗のもと~結び合わされた友情~

その日、ルードヴィッヒは、ルドルフォン辺土伯の屋敷を訪れていた。

先日依頼した、辺土貴族への働きかけの状況を確認するためだった。

「これは、ルードヴィッヒ殿。壮健なようで、なによりだ」

ルードヴィッヒの訪問を受けて、ルドルフォン辺土伯は温厚な笑みを浮かべた。その笑みには親しみと、相手を気遣う心が見てとれた。

本来、平民であるルードヴィッヒと辺土伯との間には、明確な身分の差がある。

いかに、中央貴族から疎外された辺土貴族とはいえ、貴族は貴族。ルードヴィッヒが中央政府の官僚で、ミーアの信頼厚い人物であると言っても、そこには歴然とした差があるはずだった。

にもかかわらず、二人の間には奇妙な友情のようなものがあった。

それは身分の差や年齢の差を超越した感覚……。皇女ミーアの旗のもとに集いし同志の間にのみ存在する、強固な仲間意識だった。

固く握手をしてから、ルードヴィッヒは、来客用の椅子に腰かけた。

「この度は、面倒なお願いをしてしまい、申し訳ありません」

「なんの。大恩あるミーア姫殿下のためとあれば、こちらとしても全力を尽くさざるを得んさ」

「そう言っていただけると、ありがたいのですが……」

ルードヴィッヒによるイエロームーン派への分断工作、それはじわじわと一定の効果を上げ始めていた。ルドルフォン辺土伯の協力もあり、辺土貴族たちを切り離すことに成功しつつあるのだ。

そうして、ルドルフォン辺土伯のもとに集まった辺土貴族たちは、今は派閥と呼べるようなものではないが……、後々は四大公爵家いずれの勢力にも属さない新たな勢力として、まとまればいいと考えるルードヴィッヒである。そうして、それを中核としてミーア個人の派閥、いわば皇女派を形成していければ……、などと皮算用さえしてしまう。

――まぁ、そちらに関しては追い追いでいいんだが、問題は……。

「ふむ、表情が優れないようだが、なにかあったのかな?」

眉をひそめるルドルフォンに、ルードヴィッヒは苦笑して見せた。

「実は、辺土貴族以外の切り崩しが、思いのほか難航しておりまして」

普通、大きな組織であればあるほど、一枚岩ではいられない。ましてイエロームーン派には、やむを得ない事情から身を寄せてきている貴族も多いはず。

そこまでの結束力があろうはずもない……はずなのだが……。

「まぁ、そりゃあね。裏切ったら殺されるとなれば、そう簡単にこちらに寝返ったりはしないんじゃないかな?」

横で聞いていたディオンが小さく肩をすくめる。けれど、ルードヴィッヒは首を振った。

「いや、そうとばかりも言えない。恐怖によって縛られた者は、その恐怖から逃れたいという潜在意識を持っているものだ。だから、その恐怖に対抗できる力を持った者から手を差し伸べられれば、その手を取る確率が高いはずなんだ」

ルードヴィッヒは、先日、手練れの暗殺者に狙われたということをさりげなく、噂話として拡散させていた。

ミーア姫殿下の臣下である自身が”何者か”によって強力な暗殺者をけしかけられたが、仲間のディオンの手により無事に守られたということを。

それはすなわち、イエロームーン派からの攻撃を受けたとしても、退けるだけの力があるのだ、ということの表明。

肝心な部分は伏せているものの、わかる者が聞けばわかるという情報の流し方。

イエロームーン派の貴族たちにも情報は当然のように届いているはずで……、にもかかわらず、離反者は現れなかった。

「ミーア姫殿下の寛容さと、その叡智については、しっかりと周知させている。門閥貴族などから見れば目障りな存在であるだろうが、派閥から離反したいと考える者にとっては格好の受け皿となれるはず……」

そもそもの話、最近のミーアは、グリーンムーン公爵令嬢と友誼を厚くし、ブルームーン公爵令息を自らの生徒会に入れることで自陣営に取り込み、その上でレッドムーン公爵令嬢をも自らの近衛兵団に入れてしまったのだ。

なるほど、彼らは公爵家の当主ではない。されど、四大公爵家のうち三家に関しては、少なくとも、ミーアに好意的であると解釈できる状態。

加えて、少数ながら精兵の皇女専属近衛部隊もいる。

ミーアは、少数精鋭の実働部隊を自由に動かすことができ、なおかつ、三大勢力の、積極的ではないながらも支持を取り付ける、帝国の中心人物となっている。

その権勢は侮りがたいものがあるはずなのだ。

「にもかかわらず、まるで反応がないというのは、少し妙な気がする……」

腕組みし、思わず考え込んだルードヴィッヒに、ルドルフォン辺土伯が一つ咳払い。それから、

「ところで、ルードヴィッヒ殿、例の、ミーア姫殿下の予言のことなのだが……」

わずかばかり、低くした声で言った。

「どうやら、的中しそうだ」

それを聞いたルードヴィッヒは、瞳を瞬かせた。

「やはり……、そちらにもその兆候が?」

問いかけに、ルドルフォンは、一度、目の前のお茶をすすってから深々と頷いた。

「我が領内の麦の実りが悪い。他の辺土貴族に話を聞いても、どこも同じらしい。今年から来年にかけての収穫物は確実に減る。無論、それが、どれぐらい続くかはわからぬが……」

先のことはわからない。けれど少なくともミーアは、今年の小麦の実りが悪くなるという予言を的中させている。そして、そのための備えも万全にするように、と、ルードヴィッヒらに厳命しているのだ。

ゆえに……、

「最悪の予想が当たらなければ、それに越したことはない。けれど、もしも当たった時に、それに備えていなかったとあっては叱責は免れないところ、ですね」

「ミーア姫殿下は我らを信頼し、その予言を託してくださった。そして『備えよ』と言ってくださったのだ。であるならば、その信頼に応えようではないか」

こうして、ルードヴィッヒは、いざ飢饉が起きて食料が不足した場合の供給について、その護衛について、その他を事細かに相談した後、ルドルフォン辺土伯の屋敷を辞した。

その足でミーア学園都市の進行具合を確認しに行ったルードヴィッヒのもとに、一通の報せが届いた。

その送り主は……。