軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話 手作りのお守り

「ずいぶんお世話になってしまいましたわね」

打ち合わせが終わったのは、夕食前の時間だった。

「このお礼はいずれ、必ず」

そう言うミーアに、シュトリナはニコニコと可憐な笑みを浮かべた。

可憐な……そう見えるような笑みを。

「とんでもない。リーナの方こそ、生徒会のみなさんと一緒に、キノコ狩りをさせていただくなんて、とっても光栄なことです」

セントノエル学園生徒会。その権威は決して侮ってよいものでもない。しかも、そこに集うメンバーもまた大変なものだった。

サンクランド王国の王子に、ヴェールガ公国の聖女、その二人とお近づきになれるだけでも、一般の貴族にとっては非常に意味があること。

だからこそ、シュトリナは、ミーアにお礼を求めるなんてことはしない。

その方が"自然なこと"だから……。

「あら、それを言ったら、ベルだって同じですわ。まして、あなたには、キノコの安全性を確認していただくために同行してもらうのですから、お礼はきっちりさせていただきますわ」

ミーアは、そんなことを言っている。

――お人好しの姫殿下……。評判は本当みたい。

シュトリナは、花が咲くような笑みを浮かべて言った。

「ありがとうございます。ミーアさま」

っと、その時だった。

「ふふふ、ミーアお姉さま、お礼を用意してないなんて迂闊です。ボクはきちんと用意してきましたよ」

ベルが、とても得意げな顔で言った。

想定していなかった動きに、シュトリナは少しだけ戸惑う。

ベルは、そんなシュトリナの顔を覗き込むと、得意げに、

「はい、これです。リーナちゃんにお礼」

なにか……、小さな毛の塊のような物を差し出した。

よく見るとそれは、馬かなにかの形を模したぬいぐるみだった。

「えっと、ベルちゃん、これは……?」

「えへへ。馬龍先輩にこっそりと教わった馬のぬいぐるみです。動物の毛を使って作ったもので、騎馬王国のお守りなんだとか」

―― 馬のお守り(トローヤ) ね……。確か騎馬王国に伝わる伝統的なお守り……だったかな。

シュトリナは、そのお守りのことを知っていた。

かつて騎馬王国の者に見せてもらったことがあったのだ。

動物の毛を丁寧に編み込んだそれは、作るのがなかなかに大変で……、だから、慣れていないベルが作ったものは、とてもではないが馬には見えない。

犬にも見えるし、なにか得体のしれない不気味な動物にも見えた。

もらっても嬉しいものではない。

けれど、あまりに想定外過ぎるお礼に、シュトリナの心に微かなさざ波が立った。

「ありがとう、ベルちゃん。リーナ、とっても嬉しいわ」

シュトリナは小さく首を傾けて、いつも通りの笑みを浮かべようとする。感情がこもり過ぎず、かといって、作り笑いにも愛想笑いにも見えないような笑み。

花が咲くように可憐で、そして、誰からも好かれる笑み……。

「えへへ、喜んでもらえて嬉しいです。リーナちゃん。今日も勉強教えてくれて、ありがと」

能天気そうなベルの笑みとは対照的な、計算された笑みを、シュトリナは浮かべるのだった。

二人を見送ってから、シュトリナは、ベルからもらったお守りに視線を落とした。

しばしそれを見つめて、それから無造作に放り捨てた。

バルバラは、それを無言で拾い上げる。

「どう? バルバラ、上手く誘導できたかしら?」

シュトリナの問いかけに、バルバラは生真面目な顔で頷いて見せた。

「はい、シュトリナさま。あのご様子ならば、恐らく森の奥へと足を踏み入れることはないかと……」

「そう、それなら当日はリーナも一緒に行くし、これで余計なものは見られずにすむかしら」

シュトリナは、くすくす笑う。可憐な花が、そよそよ風に吹かれるように愛らしく笑う。

その声が、不意に、少しだけ不安そうなものへと変わる。

「ねぇ、バルバラ、パパはリーナのこと、褒めてくれるかしら?」

「はい。お 館(やかた) さまは、お嬢さまのことを高く評価しておられます。計画をきちんと達成すれば、必ずやお褒めの言葉をいただくことができるのではないかと……」

「そうよね。リーナはきちんとやり遂げるもの。だから、きっとパパは褒めてくれるに違いないわ。うふふ、今から楽しみね」

くるり、くるり、シュトリナは、ダンスをするかのように、部屋の中を回った。

そんなシュトリナを黙って見つめていたバルバラだったが、ふと思い出したように口を開いた。

「ところで、お嬢さま……」

バルバラは、先ほど拾った 馬のお守り(トローヤ) を差し出しながら言った。

「こちらは、処分してしまってもよろしいでしょうか?」

「捨ててしまうということ? うーん……」

可愛らしく首を傾げて、シュトリナは言った。

「それはもったいないんじゃないかしら?」

「は? もったいない、でございますか?」

怪訝そうな顔をするバルバラに、シュトリナはあくまでも笑みを崩さない。

「お守りなんて、別に信じていないけど、あの子を通してミーアさまとお近づきになるには、十分に使える道具だと思うわ。だから、きちんととっておいて」

「……そうですか」

バルバラは、じっとシュトリナを見つめていたが、それからゆっくりと机の引き出しに 馬のお守り(トローヤ) を入れた。