軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話 ミーアベル、お祖母ちゃんにお友だちを紹介する!

「なっ、こっ……、ふぁぇっ?」

などと、なんとも言えない声を上げつつも、

――わたくし、一体全体、どんな死に方をするんですの?

ついつい自分の死因を確認してしまうのは、ミーアの悲しいサガである。

ギロチンに毒殺……。その後に来るのは、果たしてなにか……?

楽に死ねるのか、あるいは……。

まず一番の興味はそこだった。

ミーアは素早く皇女伝に目を通していく。その結果……、

「やっ、夜盗に襲われた挙句、殺されて……、その後、死体はオオカミにかじられる? これは、ろくな死に方じゃなさそうですわ……」

ミーア、震える。

毒によって全身血まみれで死ぬというのも結構な酷さだったが……、今回のものは、それと同じぐらいには酷そうだ。ベッドの上で死ねない分、むしろ悪化したといえるのかもしれない。

「ま、まぁ、殺されてから食べられるだけならば、それに関しては痛くもないんでしょうけれど……夜盗に殺されるっていうのは……どうなのかしら?」

ミーアは仮にも帝国の皇女殿下である。

人質としての価値は当然あるはずなのに、身代金が支払われたりした様子もない。

「……ということは、捕まる以前に殺されてしまったということですわね。弓で射られたのか、刃で突き殺されたのか……。う、ぐふぅ……、想像したら気が遠くなってきましたわ……」

ミーアは、ふらふら、っとベッドの方に歩み寄ると、そのままこてん、と転がった。

「それにしても……、わたくし、どうして、夜盗に襲われることに……?」

ミーアは、改めて皇女伝に目を通す。結果、以下のことが分かった。

まずミーアが、聖夜祭の最中にセントノエル島を抜け出したということ。

どうやら、島の外にある平原を、馬で夜駆けしている際に、夜盗に襲われたということ……。

「なるほど……、ふーむ……むむむ……」

ミーアは、二度、三度とそのページを見直した後に、深々とため息を吐いた。

「まーったく、わかりませんわ。わたくしが、いったいどうして、このようなことに?」

そもそも、聖夜祭の時にセントノエル学園を抜け出すこと自体が考えづらいことである。

いったいなぜ、そのようなことをしたのか……?

「なにやら、しょーもない目的のために抜け出した……という臭いがいたしますわね。でもまぁ……、幸いにして、セントノエル学園に引きこもっている分には問題ないはずですわ。不用意に島を離れるなんてことをしなければ、大丈夫……大丈夫なはず……」

そもそも、このセントノエル島は、ラフィーナによって築かれた安全地帯。島を渡ることも容易ではないはず……。

そうは思うのだが、ミーアの中に一抹の不安が残った。

なぜなら、その日は聖夜祭。セントノエルにおいて、最も人の出入りが激しい時期なのである。

なるほど、確かに暗殺者などの対策から、入ってくる者に対しては万全の対応を行うだろう。けれど……、では、出ていく分にはどうか?

こっそり、なにかに隠れて出ていくことは可能なのではないか?

ミーアが、こっそりお金を握らせるなどして、夜駆けに行きたいから、と、商人に声をかけることは……、もしかしたら、可能なのではないか?

もし可能だったとして、いったいなぜ、そのような事態に陥ったのか……?

「ともかく油断は命取りになりますわね……。セントノエル島に引きこもっているのが最善策。けれど、いざという時のための備えをしなければなりませんわ」

この場合、まずできるのは聖夜祭に、どのようなことが起こるのか、しっかりと事前に予想しておくこと。

「まずはラフィーナさまに聖夜祭の時にどのようなことをするのか、聞いておく必要がございますわ。情報収集ですわね」

それともう一つ……。

「馬で出かけるというのであれば……、乗馬技術を磨いておく必要がありますわ」

相手は夜盗。あるいは狼である。

自分の足で走るならばまだしも、馬に乗ってさえいれば、なんとか逃げられる可能性もあるかもしれない。

「減量のためにも、ここは、馬術部の活動をみっちりやっておかなければなりませんわね……。それにしても……」

当面の方針を決めたところで、ミーアの関心は別のものに移る。

皇女伝は、ミーアが死亡したところで終わっている。だから、学園都市がどうなるかも、新型の小麦や、飢饉がどうなるかもわからない。

そして、それ以上に気になるのが……。

――わたくしの子孫、特にベルのことは気になりますわね……。わたくしが死んでしまったなら、孫娘であるベルだって生まれてこないはずで……。それってどうなっておりますの?

見たところ、目の前で首を傾げるベルに異変はなさそうだが、それは皇女伝の記述と食い違っているのだ。

――まさか……、ベルがウソを言っている? わたくしを騙そうとしている刺客なんじゃ!?

ミーアはじとーっとした目で、ベルを見つめた。ベルは、どうかしましたかー? といった感じで首を傾げている。頬がつやつやして、とても平和な雰囲気だ。

……とても殺伐とした刺客には見えない。

――それに、そもそもが皇女伝を持ってきたのはベルですわ。皇女伝を信じ、ベルの言葉を信じないというのもおかしな話。一つを信じるならば、もう一つも信じるべきですわね。つまり、記述が食い違うことには、やはりなにかの理由があるのですわ。

ふーむ、と唸りつつミーアは、ベルと皇女伝を見比べて……、やがて一つの結論に辿り着いた! それは……。

「ああ……なるほど。面倒くさいから、ですわね……」

すとん、とミーアの中で、腑に落ちる感覚があった。

つまりはこういうことだ。

日記や皇女伝の記述を書き換えること、それは、恐らく、そう難しいことではない。少ない労力でできることなのだ。ゆえに、ちょくちょく書き換わる。

けれど、ベル……。すなわち、人間の記憶を書き換えたり、あるいは、その人間を消したり、再び出現させたり、それをするのは、恐らく大変なことなのだ。

自身のちょっとした行動いかんで、それをいちいち修正するのは、とても疲れることなのだろう。

――だから、神さまは、ある程度、歴史の向かう先が決まってから修正をする、ということなのではないかしら?

考えてみれば、それはとても簡単な話だ。

パンに塗るジャムの種類であれば、簡単に変えることができる。けれど、ディナーのメニューをコロコロ変えられては、材料を用意する方はたまったものではない。

全部、最初に決めて、定まってから命令を下せ、と言われることだろう。

……というか、前の時間軸で、そのようなことを言われた記憶が、ミーアにはあった。その当時は、まだまだミーアのわがままが通る時だったから、とてもとても婉曲に言われたわけだが……。

――うふふ、それにしても、労力をできるだけ少なくだなんて、案外、神さまもナマケモノですわ。

勝手に推理をした挙句、勝手に親しみを感じてしまうミーアなのであった。

っと、そんな感じで難しいことを考えていたからだろうか。ミーアはベルの話を聞き流していた。

「あの、ミーアお姉さま、聞いてますか?」

「あっ、ええ、聞いておりませんでしたわ。ごめんなさいね」

ミーアは、はふぅっと小さく息を吐いて首を振った。

「いろいろありすぎて、少し考え事をしておりましたわ。それで、なにかしら?」

「はい、実はですね、ミーアお姉さま。ボク、夏休みの間にすごく仲良くなったお友だちがいて……、その子を紹介したいんですけど……」

「まぁ、ベルにお友だちが? それはぜひ、会っておかなければいけませんわね」

素早くベッドから起き上がると、にっこり、優しいお祖母ちゃんスマイルを浮かべるミーア。であったが、直後、その笑みがひきつる。

なぜなら……、

「お初にお目にかかります。ミーア姫殿下……」

部屋に入ってきた少女が……、にっこりと可憐な笑みを浮かべる少女が……、

「皇帝陛下の忠実なる臣、イエロームーン公爵家が長女、シュトリナ・エトワ・イエロームーンです」

そう、名乗ったから……。