軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四話 最後のオトモダチ

さて……ところ変わって、セントノエル学園でのこと。

尊敬するミーアお祖母さまや、アンヌ母さま、さらにルードヴィッヒ先生がいろいろと苦労しているころ、ミーアベルはなにをしていたかというと……。

「ああ、やっぱりここって夢の中に違いありません。幸せすぎて怖いぐらいです……」

満喫していた……学園生活を。

どのぐらい満喫していたかといえば、朝は、甘いパンケーキで始まり、夜は寝る前の甘いココアで終わる生活と言ったら、大体、想像はつくだろうか。

もちろんミーアと違い、そこそこに勤勉なところがあるベルは、きちんと運動も欠かさない。美しい学園の中を散策し、時に湖の浜辺を走ってみたり、ちょっぴり泳いでみたり……。実に健康的に、理想の学園生活を満喫していたのだ。

まぁ……、そもそも夏休み学園に居残ることになった原因である勉強に関しては若干アレな部分はあったが、リンシャにしっかりと監視されている手前、サボりきりにもなっていなかった。

もともと、頑張ればそこそこのところまではいけるのが、ミーアの血筋である。

一歩一歩ではあっても着実に、その歩みは前進していた。

そんなわけで、今日も今日とて、ベルは学園の図書室を訪れていた。

夏休み中ということもあって、中に人はほとんどいない。

というか、ベルとお付きのリンシャ、あとは司書の教師しかいなかった。

ベルはお気に入りの窓際の席に陣取ると、うーんっと思い切り伸びをしてから、机の上に突っ伏してスヤスヤと……。

「ベルさま……、勉強のために訪れたのでは?」

ベルの目の前の席に座ったリンシャがじっとりした視線を向けてくる。ちなみに、そのリンシャは、ベルが勉強している間、自分も勉強する気満々で、本を持ってきている。

兄があんななので、彼女は彼女で大変なのだ。

「あはは、冗談です。もう、リンシャさん、目つきが怖いですよ」

ベルは笑って、ひらひらと手を振った。が、リンシャは手綱を緩めない。

「今日の課題はきっちりとやってもらいますよ。逃げようとしても無意味ですよ」

うぐぅ、っとうめき声を漏らしてから、ベルは再び机の上に突っ伏した。

ぼんやりと、机の上に積まれた課題の山を見て、

「ああ、なんか、幸せだな……」

小さな笑みを浮かべる。

それから一時間ほど、じっくり勉強した後、ベルは図書室の中の散策を始めた。

決められた課題をやった後は、本を読んでもよいことになっているのだ。

作家であるエリスのもとで育てられたベルは、本に慣れ親しんでいた。焚書の横行していた世界しか知らないベルにとって、セントノエルの図書室の充実ぶりは、天国のようなものだった。

「えへへ、今日はなにを読もうかな……。やっぱり動物図鑑がいいかな、それとも可愛らしい植物の図鑑とか……」

「ねぇ、あなた、もしかして、ミーアさまと仲良くしているっていう子?」

本棚の前で、じっくり背表紙を眺めていたベルに、話しかけてくる声があった。

きょとんと首を傾げつつ、視線を転じると、そこにはこちらを興味深げに見つめている少女がいた。

年の頃は、ベルと同じぐらいだろうか。

ふわふわの輝くような金髪と、人形のように綺麗な灰色の瞳が印象的な少女だった。ニコニコと華やかな笑みを浮かべる少女は、ベルの返事を待つように、小さく首を傾げた。

「あ、はい……。ミーアおば……お姉さまは、ボクの尊敬する人です」

「え? ミーア、お姉さま……?」

不思議そうにつぶやく少女。頬に指をあてたまま、もう一度、小さく首を傾げる。

ふわりと髪が揺れた途端に、ベルはかすかに香る花の香りに気づく。思わず、頭がぼーっとしてきそうな、綺麗な香りだった。

「まぁ、いいや。それより、あなた、最近ずっと図書室でお勉強してるけど、夏休みは帰らないの?」

「そうなんです。恥ずかしながら、夏休み前のテストの点が悪かったので……」

「ふーん、そうなんだ。ふふ、そんなのどうでもいいのにね」

少女はニッコリ笑みを浮かべてから、言った。

「ね、よかったら、あなた、リーナとお友だちにならない?」

大きな瞳に、キラキラと笑みを輝かせながら、彼女は言った。

「リーナ?」

「ん? ああ、名前よ、名前」

そうして、少女は、一歩下がり、ちょこん、とスカートの裾を持ち上げる。ちらりと覗いたその脚の、透き通るような白さがベルの目に焼き付いた。その白さは、どこか病的なようにすら見えてしまって……。

「以後お見知りおきを。シュトリナ・エトワ・イエロームーン。あなたと同じ一年生よ、ミーアベルちゃん」

そう言って、少女、シュトリナは可憐な笑みを浮かべる。

「仲がいいお友だちは、リーナって呼んでくれるわ。だから、あなたもリーナって呼んでくれると嬉しいな」

「なるほど。わかりました。それじゃあ、ボクのことは、ベルって呼んでください。リーナちゃん」

ベルも、スカートの裾を持ち上げつつ言った。

「うふふ、わかったわ。ベルちゃん。リーナと仲良くしてね」

小鳥がさえずるように、可愛らしい笑い方をする女の子だな……、とミーアベルはなんとなく思うのだった。