軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 役者はそろいて……

シオン・ソール・サンクランドは、サンクランド王国国王の長子として、この世に生を受けた。

「民の上に立つ者、常に正義を愛し、公正を重んじよ」

幼い日に父から言われた言葉……。それが彼の信条となり、事実、今まで彼はそのように生きてきた。

王族や貴族、民の上に立つ者は、常に誇り高く、自らを律し、その生き方をもって人々の模範とならなければならない。そう思ってきたのだが……。

成長するにつれて、嫌でも見えてきてしまう。

貴族にも色々な人間がいて……。父の言うように生きている者は、必ずしも多くはない、ということに。

それでも、セントノエル学園には期待していたのだ。

なんと言っても優秀な貴族の子弟が集まる学校である。そこには、自分が今まで会ったことのないほど立派な、それこそ、人の上に立つにふさわしい人間がたくさんいるのだろうと……。

そんな彼だったから、湖を渡る順番待ちなどと言うつまらないことでもめる生徒たちを見て、早くも嫌気がさしていた。

そして、その直後、彼はまたしても、貴族にふさわしからぬ場面に出会ってしまう。

粗相をした使用人と、それをかばった貴族の少女とを、三人の貴族の娘たちがイジメていたのだ。

「……はぁ、ここも同じか」

「残念ながら、各国の王侯貴族の腐敗は進む一方。国王陛下やシオン殿下のような志を持った人なんて、なかなかいるもんじゃないさ」

かたわらに控える執事、キースウッドが、肩をすくめながら言った。その顔にはいつも変わらない皮肉気な笑みが浮かべられていた。

シオンとキースウッドは、幼い日からともに育てられた幼馴染だった。

もともとは戦災孤児だったキースウッドだが、国王に引き取られてからは、実の息子のようにして育てられた。

それゆえに、二人の間には兄弟にも近い信頼の絆が結ばれていた。

「で、どうする? 面倒くさいことになりそうだけど、助けに入る?」

「当然だ」

一切の躊躇なく、シオンはうなずく。

一方的に罵られる少女を放っておくことが、正義に反することは明白だからだ。走り出そうとした、そんな彼らの視界に、突如として、一筋の光が舞い踊った。

「あなたたち、なにをしておりますの!?」

まるで、月の光をそのまま溶かしこんだかのような、淡く輝く髪を揺らし、傲然と言い放つ少女。

その美しい顔にあふれる怒りの表情を浮かべて、少女、ミーア・ルーナ・ティアムーンは、現れたのだ。

「あれが、帝国の 叡智(えいち) とうたわれるミーア姫、か」

その光景を、どこかぼんやりと、シオンは見つめていた。

弱き者が虐げられている場に、敢然と乗り込んだこともさることながら、彼は、ミーアが怒りにかられていることに、思わず感心してしまった。

義憤、悪が行われていることに、正当に怒れるということ、それは、民の上に立つ者として、持っていなければならない資質だとシオンは考えている。

けれど、はたしてどれだけの者が他人の苦しみにより添い、あまつさえ自分のことのように怒ることができるだろうか。

シオン自身ですら、助けに入ろうと思ったのは、義務感からなのだ。

不正に対して心から怒れるミーアに、シオンは自らの理想とする、王としての姿を見たような気がした。

……人間とは、どこまで行ってもわかり合えないことがよくわかる光景である。

「聞くところによれば、彼女の手配で貧民街に病院を作ったとか」

「ああ、あの話を聞いて以来、会ってみたいとは思っていたんだが……」

シオンは、改めて、ミーアの方を見た。

「てっきり、物の価値がわかっていない箱入りか、あるいは慈悲しか持ち合わせていないお人よしかと思っていたが……」

お人よしな無能であっても、積極的に悪政をなす権力者よりは全然マシと、シオンとしては一定の評価をしているつもりだったが、今の状況に出会ったことで、彼はその評価を大きく修正する。

「自分からかんざしを差し出したこと、おそらく、その効果を見越しての行動だったんだろうな」

ただのお人よしには、自分から騒動に首を突っ込み、悪を一蹴することは不可能。

彼女には、帝国の皇帝に連なる者にふさわしい叡智と、正義を愛する心があるに違いない。

「彼女と 知己(ちき) になれるだけでも、セントノエルに来た甲斐があったというものだ」

ハイパーインフレ気味の評価を下しつつ、シオンの機嫌はたちまちに良くなるのだった。

一方、ミーアは、おろおろしていた。

つい先ほどまで、嫌味を言っていい気分だったのに、ティオーナを泣かしてしまい、途端にじくじくと罪悪感に責め苛まれていたのだ。

――こんなに簡単に泣くなんて、想定外すぎますわ!

もともと、小物なミーアである。暴君としての資質に著しく欠ける彼女には、小さいながらも中途半端な良心があるのだ。

「あ、ああ、えっと、わ、わたくしも言い過ぎましたわ。その、泣きやんでくださいまし」

などと、わけのわからないことを言って、それからハンカチを押し付けるようにしてティオーナに渡して……。

「そっ、それで顔を拭きなさい!」

逃げるように去っていった。