軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十八話 エメラルダの作戦

エメラルダ・エトワ・グリーンムーンは、ミーアたちに先駆けてガヌドス港湾国にやってきていた。

国の重鎮たちの挨拶を面倒くさげに聞き流しつつも、優雅な毎日を過ごしていた。

そもそもが国力でいえば帝国の足元にも及ばず、財力に至っては四大公爵家にも劣る弱小国である。それでも、唯一見るべき点があるとするならば、それは船舶建造の技術だった。

グリーンムーン家が保有する帆船、エメラルドスター号は、この国で建造された船だった。毎年、夏にエメラルダが使う以外、ずっと港に停泊したこの船は、極めて美しく、優美な姿を誇っていた。

鮮やかな緑に染め上げられた船体、二本の立派なマストと船首に取り付けられた芸術的な 船首像(フィギュアヘッド) 、その完成されたシルエットは、さすがのエメラルダといえども文句のつけようもないものだった。

そのエメラルドスター号の船長室で、エメラルダは上機嫌に鼻歌を歌っていた。

「ほほほ、まんまとはまってくださいましたわね、ミーアさま」

自身の企みが上手くはまったのが嬉しくてたまらないエメラルダである。

ゆらゆらと揺れる船体さえ、なんだか楽しくって、笑いが止まらない。

そんな彼女のもとに、一人の少女がやってきた。それは、幼き日より、ずっと身の回りの面倒を見てくれている、エメラルダより二歳年上の少女で……。

「失礼いたします。エメラルダさま」

「あら、何か御用かしら……。えーっと……」

「ニーナです。エメラルダさま」

表情を変えることなく、ニーナは自らの名前を告げる。

「ああ、そう。ごめんなさいね、いちいち使用人の名前は憶えないようにしておりますのよ」

それを当然のこととして、エメラルダは思っている。

あたかも、味さえ良ければ紅茶の産地など興味を持たぬかのように。

自分は選ばれた者で、最良のものを与えられるのも当然で……。

だから、それは使用人も同じこと……。身の回りの世話を完璧にするならば、誰であれ関係ない。

高貴な者はかくあるべしと、エメラルダは教え込まれているのだ。

「はい。存じ上げております。エメラルダさま」

「それで、何かあったの?」

「はい、ミーア姫殿下が港に到着されたのですが……」

ニーナは、困惑した様子で続ける。

「少し、気になることが……。姫殿下がお連れの護衛のことなのですが……」

「護衛……?」

「はい。皇女専属の近衛兵団を帯同されておられるのですが……」

「あら、それは当たり前のことではなくって? 皇女殿下なのですから、驚く必要はどこにもございませんでしょう。高貴な血筋なのですから、そのぐらいの意識でいてくださりませんと……」

なんでもない、といった様子で首を振るエメラルダ。だったが……、

「船遊びにも、五人ほど帯同されたいとのことですが……」

「あら、そんなに?」

これにはさすがに、眉をひそめる。

「一人、二人であればわかりますけれど、五人は少し多い気がいたしますわね。当家でもきちんと護衛の準備はしておりますのに」

そもそも、グリーンムーン公爵家は皇帝の臣下である。

敵対的な外国の船に乗るならばいざ知らず、乗組員全員が味方といってもよい状況のはずなのだが……。

「ははぁん、さては、海賊なり海の魔物なり、恐ろしいものが出てくると思っておりますのね。ほほほ、案外、ミーアさまもお気が小さい」

まさか、自分が疑われているなどとは、まったく思わないエメラルダである。

「まぁ、そのぐらいなんでもございませんけれど……。ああ、でも、ちょっぴり可哀そうかしら? 無様なところを自分の近しい護衛に見られるなんて……ほほほ」

エメラルダは、意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「楽しみですわ。とっても……」

こうして、ミーアはエメラルダの恐るべき企みの中に足を踏み入れることになるのだった。

ちなみに、エメラルダの恐るべき企みは二段構えになっていた。

まず、泳げないミーアの姿を見て、笑ってやること!

別に溺れさせようなどと、危ないことは思っていない。多分、水に顔をつけることもできないんだろうなぁ、などと思い、その無様を笑ってやろうというのだ……。

そして、そんなミーアに、お姉さんぶって泳ぎのレッスンをしてあげるのが企みの第二段階である!

先日、してやられた復讐をしつつ、いっしょに楽しく遊べるという素晴らしい作戦だったのだ。

基本的にはミーアの親友のつもりであるエメラルダなのだった。

ちなみに、いかにミーアといえども水に顔をつけることぐらいはできる。そう、お風呂好きなミーアが、浴槽に頭から潜ってみるという誘惑に勝てるはずもないのだ!

まぁ、そんなことはどうでもよくって……。

「おほほ、楽しみ楽しみ。とっても楽しみですわ」

歌うように笑って、エメラルダは船長室を後にした。

……さらに、ちなみになのだが……、エメラルダは、きちんと抜かりなくミーアの分の水着もきちんと用意してあった。

専門の仕立屋に作らせた最新式のデザインのもので、なんとお腹が露出しているいかがわしいやつだ!

そして、エメラルダとお揃いでもある……。

……ミーアは、ものすごーく嫌がるだろうが別に嫌がらせではない。

あくまでも、親友としての好意なのであった。