軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十三話 他人の不幸を笑うものは……ミーアの場合

神父の部屋で、しばらく歓談していると……。

「失礼いたします。ミーアさま、ルードヴィッヒさんがいらっしゃいました」

アンヌに連れられて、ルードヴィッヒが現れた。

「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。ミーア姫殿下」

深々と頭を下げるルードヴィッヒに、ミーアは 鷹揚(おうよう) に頷いた。

「あなたもいろいろとお忙しいでしょうし、きちんと話をつけておきましたから問題はありませんわ」

ふふん、っと微妙に偉そうなミーアである。

見る人が見れば、イラっとする態度だろうが……、ルードヴィッヒはむしろ尊敬のまなざしを向けていた。

「そうですか……。もう協力を取り付けられたとはさすがですね……。ところでミーア姫殿下、そちらの隣にいる方は……」

「ああ、手紙で書いたわたくしの腹違いの妹ですわ。あ、このことは絶対に他言無用でお願いいたしますわね。神父さまも」

ミーアが視線を向けると、神父は「心得た!」とばかりに頷いた。

安堵しつつ、ミーアは改めてベルの方を見て、

「ベル、自己紹介を……」

「ルードヴィッヒ先生……」

ベルのこぼしたつぶやきは、やけに大きくはっきりと、その場に響いた。

「ん? 先生?」

不思議そうに首を傾げるルードヴィッヒ。一方、ミーアも驚愕に固まっていた。

――え? いきなりですの!?

時々、ポカをやらかす孫娘だとは思っていたが……、あれだけ偉そうなことを言っておいていきなり、まずいことを口にするとは、さすがに予想できなかったミーアである。

ベルの方もすぐに自分のやらかしに気づいたか、あわわわ、などと慌てた挙句、

「な、なんでもないです」

なんの言い訳にもなっていないことを言って、黙ってしまった。

そんな誤魔化しが通じるのは、アンヌの一家ぐらいなもの。

――これは、なにか誤魔化しておく必要がありますわ。

そう判断したミーアは、素早く頭を働かせる。結果!

「えーっと……、ああ、そうですわ。わたくしがそう呼ぶようにベルに言っておいたんですの。あなたから学ぶことは多いでしょうから」

なんとか誤魔化そうと、ミーアがよいしょを始めた。

褒められて嬉しくない人間などいない。

男性は、自分の仕事を褒められることに弱い。

アンヌの言っていたアドバイスを活かして、適切に、よいしょよいしょっとやっていく。

「あなたの識見はとても貴重なもの。ですからこの子にとっても、将来きっと役に立つって、わたくしは確信しておりますの。だから先生と呼ぶように、と。あ、そうですわ。どうせならば、あなたも学園で教鞭をとってはいかがかしら?」

やたら、早口にまくし立てていく。

反論を許さないスタイルである。

「残念ですが、私などとてもではありませんが、先生と呼ばれるに値しません。どうぞ、ベル殿下。私のことは、ルードヴィッヒと呼び捨てにしてください」

「あら? ずいぶんと謙遜ですわね、ルードヴィッヒ。わたくしは、あなたの手腕をとても評価しておりますのよ」

評価しているどころの話ではなく……、ミーアがなにかやろうと思えば、一から十までルードヴィッヒの力を借りなければならないわけで……。

全面的に頼り切りなのに、なぜだか偉そうなミーアである。

「それはありがたいのですが……。我が師のことを想像すると、どうしても私には、他人に何かを教える資質があるとは思えないのです。私などが「師」と名乗って良いはずがない」

苦笑しつつ、ルードヴィッヒは肩をすくめた。

「まぁ、あくまでも個人的なこだわりなのですが……。恐らく、ミーア姫殿下も、私の師とお会いいただければ、わかっていただけるかと……」

「ふむ……、ということは、まさか……」

「はい、師匠の居所がわかりました」

ルードヴィッヒが、彼にしては珍しく嬉しげな笑みを浮かべた。

「まぁ! ずいぶんと早いですわね」

「お褒めにあずかり光栄です。実は、姫殿下をお呼びするのとともに、私の同門の者に捜索を依頼していたのです。どうやら予想していたよりも早く見つけてくれたようです」

「あら、そんな方がいらっしゃるんですのね。今度、紹介していただきたいものですわ」

思いのほかあっさりと解決しそうな状況に、ミーアはルンルンである。

教会から派遣してもらえるであろう講師と、ペルージャンのアーシャ姫、加えてルードヴィッヒの師匠と、その呼びかけに応えて集まる者たちを加えれば……。

「ふむ、この問題は解決したも同然ですわね」

などと、楽観的に考えるミーアであった。

けれど、ルードヴィッヒは一転、表情を暗くする。

「いえ、むしろこれからが大変なのです」

「ん? どういうことですの? あとは、そのお師匠さんとやらにルードヴィッヒがお願いすればよろしいだけではありませんの?」

不思議そうに首を傾げるミーアに、ルードヴィッヒは言いづらそうな顔で首を振る。

「実はその……師匠は貴族嫌いでして……ゆえに、ミーア姫殿下の学園都市計画に協力を要請するのは、簡単ではないのです」

「まぁ、そうなんですのね……」

なるほど、それでグリーンムーン家の影響を受けないのか、とミーアは納得する。

貴族が嫌いなら、裏でグリーンムーン家がいかに圧力をかけてきても関係ない。

「しかも、頑固者ゆえ、説得はなかなかに骨が折れるのではないかと思います」

苦々しい口調で続けるルードヴィッヒ。

「そう……。それは大変ですのね」

相槌を打ちつつ、半ば他人事なミーアである。いや、むしろ……、

――前の時間軸で、さんざんわたくしに嫌味を吐いたクソ眼鏡……もとい、ルードヴィッヒが師匠にペコペコするなんて、これは愉快痛快。せいぜい、その怖い師匠……教師と名乗れないぐらいに心の傷を植え付けられてしまうような、こわーい師匠に嫌味を言われるがよいですわ!

ミーアは、にっこにこと実に良い笑顔を浮かべる。

……けれど、ミーアは知らないのだ。

かつてルードヴィッヒの不幸を笑った男が、どうなったのか……。

他人の不幸を笑う者がどのような目に遭うのか……を。

その伏線は、思いのほか迅速に回収されることになる。

「ええ、私ではとても説得は不可能です。だからこそ、ミーア姫殿下に帰ってきていただいたのです」

「…………はぇ?」

「ミーア姫殿下、その叡智をもって、どうか我が師を説得していただきたい」

「…………………………はぇ?」

ぽっかーんと口を開けるミーアであった。