軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 白き砂浜の天然小悪魔! ミーア姫!!

砂を巻き上げながら、アベルが踏み込む。

「はぁっ!」

裂帛(れっぱく) の気合を込めた一撃を、シオンは正面から受け止める。

響きわたる 剣戟(けんげき) の音を聞きながら、キースウッドはため息を吐いた。

――アベル王子はまた実力をつけたな……。

以前まではシオンの方が圧倒的に上回っていたものの、今ではアベルの腕前もかなり迫ってきている。上段からの斬り下ろしという必殺の一撃を手に入れたことで、それ以外の剣技も全体的にレベルアップした印象だ。けれど……、

「まぁ、そんなことで満足はしないかな、どちらも」

レムノ王国での事件。その際に見た帝国最強の騎士ディオン・アライア。

剛鉄槍の槍を涼しい顔で斬り飛ばし、笑みすら浮かべていたあの男。

その凄まじい剣を見てから、シオンはさらに剣術の鍛練に力を入れるようになっていた。

どうやらそれはアベルも同じらしく、最近二人はともに剣術の研鑽に勤めている。

互いに高みを目指すために。

「まぁ、それはいいんだけどね。なにもこんな暑い日に暑い場所でやらなくっても……ん?」

その時、キースウッドの目が一人の少女の姿をとらえた。

さくさく、と小さな裸足で砂浜を踏みしめる少女。

――これはこれは、相変わらずの美しさだな。

キースウッドは一瞬見とれつつも、かろうじてミーアに声をかけた。

「おや? ミーア姫殿下」

「あら、こんにちは。キースウッドさん、ご機嫌いかがかしら?」

そう言って、ちょこんとスカートの裾を持ち上げる。

輝くような笑みを浮かべるミーアに、キースウッドは思わず考え込んでしまった。

――ミーア姫殿下……、これは、わざとやってるのか?

それほどまでに、今のミーアは可愛らしかったのだ。

その理由は、この砂浜という場所にあまりにも似合いすぎるその格好だった。

白く美しい砂浜に、ジャストフィットした裸足。

それは、そのまま波打ち際まで走っていって無邪気に水かけに興じるような、どこか無防備で、それゆえに保護欲を刺激されるような、そんな魅力をミーアに増し加えていた。

――普通、姫君というのは肌の露出を嫌うもの。先日のダンスパーティーの時は効果的な演出だったが、靴を脱いで裸足で外を歩くなんて、下手をすればはしたないと思われてしまいそうなものだ。

けれどこの砂浜という場所が、そんなミーアを極めて魅力的なものにしている。

「ん? どうかしましたの?」

きょとんと首を傾げ、上目遣いに見つめてくるミーアにキースウッドは苦笑いを浮かべた。

――俺が年下に興味がないから良いようなものの、これは聡明なシオン殿下でもクラッとやられてしまいそうだな。

などと思いつつ、キースウッドは口を開いた。

「ところでどうしたんですか? こんなところに」

「ええ、少しシオンにお話ししたいことがありまして……」

「お話ですか?」

「ええ。でも、ちょっぴり許せませんわね。わたくしが来ているのに気づきもしないなんて」

ミーアは、未だに鍛練を続けるシオンとアベルの方に目を向けて、

「あ、そうですわ。いきなり声をかけて、驚かせてやるというのはどうかしら」

ちょっぴり悪戯っぽい笑みを浮かべた。

――これ……意識してやってるなら小悪魔だけど、もし意識してないんだったら天然の小悪魔だな。将来が恐ろしい限りだ。

こうして、キースウッドの中のミーア評は『小悪魔』から『天然小悪魔』に格上げされたのだった。

ちなみに、なぜミーアが裸足で砂浜に来たのか……。その残念極まる事情をキースウッドが知ることはなかった。

ミーアは、そーっと砂浜の上を歩く。

二人の王子は鍛練に夢中で、ミーアの方に気づくことはない。

ある程度まで近づいたところで、ミーアは少し大きめの声で言った。

「精が出ますわね、お二人とも」

「え? あ、ミーア? いつの間に?」

先に気づいたのはアベルだった。ミーアの方を見て笑みを浮かべたものの、すぐに頬を赤らめて、視線をそらした。

――あら? どうかしたのかしら?

首を傾げつつ、ミーアは汗拭き 布(タオル) を手渡した。

『運動をした後の殿方には、良い匂いを付けた汗拭き用の布を渡すこと!』

アンヌの教えを忠実に守っているミーアである。

「あ、ああ、すまない。ありがとう」

アベルはちらちら落ち着きなく視線を惑わしつつも、ミーアから受け取った布で顔を拭う。それを横目に、シオンはキースウッドの方に向かおうとした。ちょっぴりその背が寂しげだ。

そんなシオンにミーアはニッコリ笑みを浮かべて、

「シオンも、汗を拭かないと風邪をひきますわよ」

珍しくシオンにも優しいミーアである。

それもそのはず、なにしろミーアはシオンにお願いに来たのである。

必要とあらば愛想笑いはもちろん、頭を下げることも辞さないミーアである。

「ああ、すまない」

シオンはちょっと意外そうな顔をしてから、汗拭きを受け取った。

「ところで、どうかしたのかい? ミーア、こんなところに。まさか、ボクたちの剣術の鍛練の見学というわけでもないんだろう?」

「ふふ、そうですわね。それも楽しそうですけれど、実はシオンにお願いがあってきましたの」

「俺にお願い?」

「シオン、あなた、生徒会長選挙に立候補するつもりはございません?」

「はぁっ!?」

シオンは、彼にしては珍しく素っ頓狂な声を上げた。