軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十五話 優しい信念

「あ、あのー、シオン……」

苦悶の表情を浮かべるシオンに、ちょっぴり心配になってミーアは声をかけた。

「ミーア、礼を言う。君は確かに帝国の叡智だ」

神妙な顔でお礼を言うシオンにミーアは…………若干引いた。

――こ、こいつ、蹴られてお礼を言うって、どういうことですの? もしかして、痛くされると嬉しくなってしまう、ティオーナさんのお父さまと同じ類のアレなんじゃ……。

「君に言われなければきっと気づくことができなかっただろう」

――ひぃっ! きっ、気づく? なっ、なにに? なにに気づいてしまったんですのっ? それに帝国の叡智とか、蹴るのに知恵は関係ないんじゃ……、つ、強さとか、角度が大事ということですのっ!? 蹴るのが上手いから、また今度、蹴ってくれとか頼まれたら、どうすればいいんですのっ!?

ミーアは、ひきつった笑みを浮かべて、

「そ、そう、それはよかったですわね」

それだけ言うと、どこかすっきりした顔をするシオンから、すすすっと視線をそらした。

なんだか、自分が取り返しのつかないことをやってしまったような気がしたが、考えないようにした。

そして、

「と、ところで、ダサエフ宰相が囚われている場所は分かったんですの?」

話を変える。問題の棚上げはミーアの常套手段である。

「ああ……、キースウッド、説明を」

シオンの言葉を受けて、キースウッドが頷いた

「情報によると、どうやらドノヴァン卿は、この町、セニアに監禁されているようです」

「なんですってっ!?」

驚愕に目を見開くミーア。

「アベル王子、この場所なのですが、わかりますか?」

キースウッドの問いかけに、アベルは静かに首を振る。

「いや、だが兵士の中に知っている者はいるかもしれない。聞いてみるか……」

「あら、それならリンシャさんに聞くのがよろしいんじゃないかしら」

ミーアはふと、思い付きを口にした。

――そもそもわたくしにだけ面倒ごとを押し付けてご自分は何もしないというのは、ちょっと甘いんじゃないかしら?

そんなことを考えながら、ミーアはちょーっぴり意地の悪い笑みを浮かべるのだった。

なんとも可愛らしい、輝くような笑みを浮かべるミーアに、アベルは一瞬、見とれそうになる。

それでも、何とか視線をそらし、咳払いしてから、改めて疑問を口にする。

「リンシャ? それは誰だい?」

「ああ、実は、反乱軍のリーダーの妹と知り合いになりましたの。その方がリンシャさんといいまして……」

ミーアの説明を聞いたアベルは、思わず感嘆のため息をこぼす。

「そうか……。そんなことが……」

それだけで、アベルにはミーアの考えがわかったような気がした。

それは……、

――減刑を願ってのことか?

先ほど、ミーアが言っていたことを思い出す。

人は誰しも過ちを犯すもの。ゆえに、やり直す機会を与えてやれ、と。

いかに他国の間諜に乗せられたからと言って、反乱軍の参加者、特に中心となった者たちについてはお 咎(とが) めなしとはいかない。

このままいけばおそらく極刑は免れないところだろう。

けれど元を正せば、彼らは重税に不満を持つ民衆なのだ。原因は王家の側にもあって、それを承知しているミーアは、彼らを憐れんだのではないか。

少しでも刑を軽くするために、彼らに機会を与えようと、そういうことなのではないか。

例えば、もしも、ここで少しでも事態の解決の役に立ったとすれば、あるいは情状酌量の余地は出てくるかもしれない。

――サンクランドの間諜に騙されたが、途中で心を入れ替え、姑息なる陰謀を妨害するためにレムノ王国軍に協力……などと言えば、父上のことだから、案外、納得なさるかもしれないな……。

レムノ国王は単純な男なのである……。

さらに、そこにティアムーン帝国の姫であるミーアの口添えがあれば、さらにその可能性は高まる。

――確実に、そのぐらい先のことまでは見通しているのだろうな……。

アベルは、感心すると同時に、少しだけ嬉しくなった。

彼女の叡智が、過ちを犯した者たちへの憐れみに向けられていることが、なぜだか、無性に嬉しくって……。

それは、慈悲深いというよりは甘い考え方だ。統治者にあるまじき考え方のはずだった。

にもかかわらず、アベルの胸にあるのは 憧憬(しょうけい) だ。

なぜなら、ミーアのそれは甘いだけでなく、しっかりとした合理性に固められた考えだったからだ。

リンシャという少女がこのあたりに住んでいるのであれば、地理に詳しいだろう。

反乱軍の関係者であれば、監禁場所についての知識もあるかもしれない。

それに加えて、後処理のこともある。

仮にも民の代表者である革命派のリーダーを処刑したのであれば、相応に 軋轢(あつれき) も生まれる。少なくとも、国王に反対する勢力には攻撃の材料を与えてしまうことになる。

かといって、体制を維持するためには厳罰を与えること、少なくともその姿勢を示すことは絶対に必要だ。正当な理由なく、それを怠れば、権力の維持に支障をきたす。

そう、正当な理由がない場合は……。

だからこそ、それをしないで済む、あるいはさせない理由を作ることこそが、ミーアがしようとしていることだ。

そして、無数の理によって固められてはいても、その中心にあるのはミーアの優しい信念だ。

――さすがはミーアだ……。今は無理でも、ボクもいつかは……。

……アベルがミーアの優しい信念とやらの正体に気づく日は……残念ながら来そうになかった。