軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十三話 進め! 帝国の叡智の照らした道を!

「どうかしましたの? シオン、なんだか、顔が怖いですわよ」

まぁ、いつもですけど、と軽口を叩こうとするミーアだったが、寸でのところでその言葉を飲みこんだ。

なぜならシオンの顔は怖いというよりも蒼白で、なんとなくだが生気がないように思えたからだ。

「シオン、いったいなにが……」

ミーアの問いかけに答えずに、シオンはアベルの方に近づくと、地面に膝をつき、そのまま手をついた。

「ひぃっ!?」

あまりの予想外すぎる行動にミーアは息を呑んだ。それから、慌てて空に目を向ける。

槍でも降ってこないか、と心配になったのだ。

なにしろ、あの、シオン・ソール・サンクランドが、臆面もなく土下座をしているのだ。

こんな光景、滅多に拝めるものでもない。

ミーアは、それを見てスッキリする……というよりは、むしろ不気味さに鳥肌が立った。

――これは、不吉ですわ。この男が土下座なんて、何か恐ろしいことが起こらなければよろしいのですけど……。

などと若干失礼なことを考えつつ、ミーアはその光景を見守っていた。

「シオン王子、これは、いったい……? とりあえず、顔を上げてもらえるかい?」

アベルは驚きつつも、シオンのそばに膝をつく。

けれど、シオンは顔を上げようとしなかった。

「すまなかった、アベル王子……。俺は、謝らなければならない」

「どういうことなのかね?」

厳しい顔をするアベルに、隣にいたキースウッドが代わりに答える。

「我が国の諜報部隊≪風鴉≫の中の一部隊が暴走して、このような事態を巻き起こしてしまったらしいのです」

そうして、キースウッドの口から語られた事実に、ミーアは口をあんぐり開けた。

それは、いささかお 淑(しと) やかさに欠けるというか……、ちょっぴりおバカに見える顔だったが、そのようなことにかまってはいられなかった。

――なっ、なっ、なっ……なんですってー!

混乱に頭がグルグルしてしょうがなかった。

――たったったしかに、そうですわ。帝国とレムノ王国、どちらの内乱でも美味しいところを持っていくのはサンクランドですし、全部、サンクランドが仕掛けたことと言うのであれば納得はいきますけど……。

ふいに、まぶたの裏にあの日の光景が甦ってくる。

赤い夕陽、死の恐怖に震えながら上がる断頭台。

それが、裁く側の手によって引き起こされていたというのだ。

地に頭をつけるシオンを見下ろして、ミーアは思う。

――ああ、これは、わたくしが頭を下げられているのと同じですわね……。

これは、ある種の意趣返し、復讐の結末。本当ならば……、それは快いはずの光景のはずで……、なのに、

――あんまり、見ていて気持ちのいいものでは、ございませんわ。

ミーアの胸には、なんとも言えない苦みが走る。

それは恐らく、シオンの首を断罪の刃で切り落としても同じことだろう。

ミーアはそれを不思議なことだとは思わなかった。同じ学校に通い、ともに旅をした相手が裁かれるのを見て気持ちいいと感じるような者は、きっと嫌な奴に違いない。

――シオンは頭が固いから、いろいろ縛られてるみたいですけれど……、わたくしまでこいつの哲学に従う必要はございませんわ。

嫌なものは嫌、どんな時でも自分の感性ファーストなミーアなのである。

――ですけど、アベル王子は、どうされるつもりかしら……?

不安なのはアベル王子だった。彼にはシオンを断罪する資格があるし、それはほかならぬシオンが貫いてきた態度でもあるのだ。

権力を持つ者は責任を負うべきで、罪があれば裁かれるべき。

厳密に言えば、レムノ王国を陥れたのはシオン個人ではない。責任を負うべきもまず第一に、サンクランド国王であるべきだ。

しかし、シオンはそれを潔しとはしない。

彼が教え込まれ、彼自身を縛るルールに照らし合わせれば、そこに罪がないとは絶対に言えないのだ。

固唾(かたず) をのんで見守るミーア。その目の前で、アベルは一歩、シオンに近づく。

「顔をあげたまえ、シオン王子。君にそのような態度は似合わないだろう」

「……しかし」

「頭を下げるのも、まぁ、いいが……。あえて言うならば、王族には王族の責任の取り方があるはずではないかね?」

「責任の取り方……」

「我らがなすべきは、民を安んじて治めること。そのためにボクはこの戦を『武』によって平定すべきだと思った。けれど……この争いを止める術を示してくれた者がいるのだ。そう、この『馬鹿げた争い』をね……」

それから、アベルはミーアの方を見て、ふっと表情を和らげた。

「進むべき道を光で照らしてくれた者がいる。ならば、我らがすべきことは、その道を突き進むことだ。違うだろうか?」

「なるほど、その通りだな」

シオンは、小さく息を吐き、それから立ち上がる。

「頭を下げ、許しをこうても……、裁かれることを望んでも、それは自己満足に過ぎない、そういうことか」

「救われたのだよ、ボクも君も。民の上に立つ者として正しきことができる。その機会を与えられたのだから、それに感謝して力を尽くすべきだと、ボクは思うよ」

「帝国の叡智が照らしてくれた道を今は行くのみ、か」

そうして、二人はミーアの方へと視線を向ける。と、ミーアはとても満足そうな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。