軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十一話 黒き鴉の届け物

言葉にしてみて、改めて実感する。

この状況はおかしい、明らかに納得がいかない。

それは帝国で起きた革命、その前の、国が傾いていく様子をつぶさに見ていたミーアだからこそ、ルードヴィッヒに一つ一つ嫌味交じりに解説してもらっていたからこそ気づけた違和感。

レムノ王国で目にしてきたことと、かつてのティアムーン帝国の置かれていた状況は全く違う。

にもかかわらず、内乱が起きた原因も、その後の流れも非常に似通っているのだ。

ルドルフォン辺土伯とダサエフ・ドノヴァン宰相。

民の味方である貴族が害されたことで、内乱が起きる。そして、どちらも、圧政に苦しむ民衆を救うのはサンクランド王国だ。

条件が全く違う二つの場所で……そんな偶然がありえるだろうか?

――絶対に、そんなことありえませんわ。

これではまるで、何者かがサンクランド王国を正義の執行者に仕立て上げようとしているかのようではないか。

何者か……、運命の神か、はたまた残酷な悪魔の……、

「狡猾な企みのよう……ですわね」

そこまで考えて、ミーアははたと気づく。

――あら? でも、これ……、どうやって説明すればよろしいのかしら?

そうなのだ、すべては、ミーアの前世の知識を前提にしたこと。ミーアは自らの違和感を説明する術をもっていないのだ。

――ど、ど、どうすればっ!?

焦るミーアだったが、すぐそばで、意外な人物が納得の声を上げた。

「狡猾な企み……。なるほど、もしや、姫殿下はこの反乱を何者かの 奸計(かんけい) であると考えているわけですか。我が国を分断するための反乱であり、その者の思惑に踊らされて、同胞同士で血を流すのは『馬鹿らしいことだ』と……姫殿下はそう言いたいわけですな?」

ベルナルドは、先ほどの剣呑な気配とは打って変わって、興味深げな視線をミーアに向けていた。

「はぇ……?」

「さすがはミーア姫殿下。やはりお気づきでしたか」

「さすがです、ミーアさま!」

ぽかん、と口を開けるミーアを、ルードヴィッヒとアンヌの忠臣二名が感嘆の声ではやし立てる。

唯一、ディオンだけは腕組みして、じっと成り行きを見守っていたが……。

「ということは、もしや、シオン王子が体を張ってアベル王子を止めようとされたのもそういう事情があったからですかな?」

ベルナルドがシオンの方に視線を向ける。シオンはゆっくりと首を振り、

「いや、俺は……」

――なっ、なに丸くおさまりそうなのに、馬鹿正直に否定しようとしてますのっ!?

ミーアは大慌ててシオンの口を塞いだ。

シオンとしては、自分の譲れないものがあったからこそ戦ったわけで、戦った相手であるアベルもまた、そのはずで……、それを誤解されたままにすることは、アベルにも失礼になるとかなんとか、いろいろ考えて口を開いたわけだが……ぶっちゃけ、そんなこと知ったこっちゃないミーアである。

口を塞いだ上で、なんとかシオンを納得させる論理を組み立てる。

この時、ミーアの脳の回転は過去最速を誇っていた。

「よっ、より正確を期するならば、半分正解ですわ」

「半分?」

怪訝そうな顔をするベルナルド。同じく首を傾げるシオンにミーアは素早く耳打ちする。

「あなたは、わたくしを守るためにいらっしゃったわけですから、わたくしの目的がその狡猾な企みとやらを解決することであるならば、少なくとも半分はそのために来たと言えるのではなくって? と言えますわよね?」

というか、それで納得しやがれ、という意思を込めて、ミーアはシオンを睨み付ける。

「まぁ、そう言えないこともないとは思うが……」

「と、言うことですのっ!」

強引に言い切り、ミーアはギンっと周りを見回した。

――これでどうですのっ!? きっ、切り抜けたのではなくってっ!?

誰も口を開かぬことに安堵して、ぱぁっと顔を輝かせかけた、まさにその時!

「しかし……」

重々しい口調で、ベルナルドが言った。

「残念ながら、姫殿下、それでは我々が帰る理由にはなりませぬ。姫殿下のおっしゃることの根拠もお聞きしたいところではあるが……。仮に、そのような思惑を持つ者がいたとしても、我々としては反乱軍を解体して、当地の治安を回復せねばならぬのは変わりませぬ」

――ああ、やっぱり……、そう簡単にはいきませんでしたわ。

がっくり肩を落とすミーア、であったが……

「連中とて税の引き下げがかなわぬとなれば、そう簡単には矛を収めるつもりはないと思いますが……」

その言葉に、再び息を吹き返す。

「あら、それは間違いですわ。反乱軍、つまり、蜂起した民たちが求めているのは、宰相ダサエフ・ドノヴァン卿の解放ですわ」

ミーアはリンシャが言っていたことを一字一句違わず伝える。

すると……、反応は劇的だった。

「……アベル王子、ドノヴァン伯を牢に捕らえたという話を、陛下から聞いておられますか?」

「いや……、そのようなことは聞かない。陛下は言っておられなかったし、ボクも初耳だ」

話を振られたアベルは、驚いた顔で首を振った。ちなみに、すでに手当はすんでいる。どうやら、大きなケガはなさそうで、ホッと安堵の息を吐くミーアである。

「なるほど……、どうやら、姫殿下の言には聞くべきところがありそうだが……、それもドノヴァン伯がどこに捕らえられているのかわからなければ、意味がありませぬな。ドノヴァン伯を助け出すことができれば、確かに反乱軍の連中を納得させられるでしょうが……」

ベルナルドの言葉に、ディオンが首肯する。

「そう、僕もそれに興味があったんだ、ミーア姫殿下。当然、囚われている場所の見当もついているのだと思うけど、しかし、そもそも殺されているんじゃないか?」

宰相ダサエフ・ドノヴァンは人質ではない。

民衆を蜂起させる、そのきっかけにさえなればいいのだから、何も生かしておく必要はない。

現に帝国革命のきっかけとなったルドルフォン伯は殺害されていたのだ。

ディオンの質問は、当然のものであったが……。

「はぇ……?」

当たり前のことだが、そんなことミーアに答えられるはずもない。何しろ……、すでに話は、ミーアの制御を完全に失っているのだ。

「え? あ、や、それは、その……」

けれど……、助けはまたしても、意外な方向からもたらされた。

「それは、俺の方からお答えした方がよさそうですね」

聞き覚えのある声、視線を転じれば、赤い髪をかきつつ困ったような笑顔を浮かべる青年、キースウッドが立っていた。

そして、その肩には黒く美しい羽根をした鳥がとまっていた。

「キースウッド、無事だったのか? というか、なんだ、その鴉は……」

シオンのその問いに、キースウッドは小さく肩をすくめた。

「吉報の使いですよ。いや、我々には悲報かもしれませんけどね」

ミーアが蒔いた種は遠き異国の地できれいな花を咲かせ、その地に住まう黒い鳥を魅了した。

鳥は、種をまいた者に、自らの持つ新たな希望の種を届ける。

かくて、モニカの託した希望は黒き鴉とともに届いた。

帝国の叡智のもとに集いし悲劇を覆す種子。

その芽吹きの時は、間近に迫っていた。