軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十二話 策謀家は混乱した!

――どうしてこうなった!?

その男、レムノ王国では、グレアムと名乗っている男は焦燥の極みにあった。

帝国に潜伏中の仲間からの連絡。

帝国への破壊工作の失敗と、それに伴い、レムノ王国への計画を早めよという指示。

――冗談ではない!

本来、レムノ王国を革命の騒乱の中に追い落とす計画は、帝国が滅びた後に動き出すはずのものだった。

少なくとも十年以上の時を経て、国土を荒廃させ、権力を腐敗させ……。醸成された腐葉土に多くの民の血を注ぎ、ようやく革命の内乱を萌芽させる。

そうして、その実りを得る、そのはずだったのだ。

それを今すぐにやれなど、無茶が過ぎるというもの。

――だが、やるしかない。やるしかないのだ。

今すぐにでも動き出さなければ、企てを帝国の叡智に潰される。せっかく王政府に潜り込んだ自分も、革命派に潜入している仲間も。

いずれ根付いてこの国を枯死させるはずだったすべての種が、根こそぎ一掃されてしまう。

彼は焦っていた。

いったい、なにが彼をこんなにも追い詰めたのか?

それは、夏休みに入ってから密かに始まった……そう、ミーアとアベルとの「文通」だった。

グレアムと彼の仲間は、王国政府のかなり深い部分にまで食い込んでいた。

正式な親書ならばともかく、王子と皇女の私的な手紙であれば中身を確認することなど容易い。

そうして文面を確認した彼らは、首をひねった。

そこに書かれていたのは、他愛ない、そう、実に他愛ない恋文だった。

いや、恋文以前の、こう、甘酸っぱい、何かだったのだ……。

それを確認した彼らはひとまずの安心を得た……わけがない。

彼らは一層深刻な疑問に囚われたのだ。

「あのミーア姫が、こんな他愛もない恋文など送るだろうか?」

それも、これほど頻繁に、である。普通の少女であればいざ知らず、相手は帝国の叡智だ。

そこに書かれているものが、普通の恋文であるなど、とても信じられなかった。

彼らは躍起になって、その文に含まれる暗号を探した。

しかしながら、いくら分析しても、それはただの恋文なのだ。

あぶり出しなどの方法も考えられるが、さすがに、それを試してみるわけにもいかない。

自分たちの正体が露見して、レムノ王国に浸透してきた労力が無駄になってしまう。

それで何も見つからなかったら悲惨なこと極まりない。

さらに、アベル王子の送ったプレゼントが、彼らの混乱に拍車をかけた。はたして、年頃の少女に馬用の洗髪薬などプレゼントするだろうか?

これは騎兵をどうにかするとか、早馬を用意するとか、何か意味があることなのではないか? あるいは、この洗髪薬をかけると文字が浮かび上がるとか?

そんなことまで考えてしまう始末である。

彼らが、セントノエルに潜む協力者から、二人が馬術部であること、割とイチャイチャしていたことを聞いていれば、その判断は変わったかもしれないが……。

いずれにせよ、彼らは二人が何をやり取りしているのか、まったくわからなかった。

「いや、だが少なくとも、これは一つのことを明確に物語っていることだけはわかる」

それは極めて 秘匿性(ひとくせい) の高い情報を、ミーア姫がアベル王子とやり取りしているということ。

そして、そのミーア姫こそが、綿密に長い年月をかけて計画されていた帝国崩壊の企みを、完全無欠に打ち砕いた人物なのだ。

「今やらなければ……、動き出さねばならない。そうしなければ、帝国の叡智にすべての企てを潰される」

なにかに追い立てられるようにして、彼らは動き出した。

計画の第一段階は、民衆の代弁者、擁護者を拉致、あるいは暗殺することだった。

ティアムーン帝国においては、ルドルフォン辺土伯が担うはずだった役割は、レムノ王国においては、良識派として知られる宰相ダサエフ・ドノヴァン伯が担うことになった。

この年、六十歳を迎える老練の政治家は良心的な人として知られ、先日来、国王によって発令された軍備増強と、それに伴う税の引き上げにも反対していた。

そのドノヴァン卿を拉致し、同時に国王が自らに逆らった老政治家を監禁したという噂を流す。

その後、前もって目をつけておいた王国政府に不満を持つ者たちを焚きつけて蜂起を促すのだ。

はじめは、王国政府の転覆などという大それたものを目標にする必要はない。

「自分たちの大切な領主を取り返すため。代弁者を取り返すため」

そんな大義名分を与えた上で、人々を扇動し、ドノヴァン伯の地方都市を占拠させる。

当然、レムノ王国は、乱を治めるために軍隊を派遣するだろう。

そこでの戦いで、革命派が勝てば簡単だ。戦果を高々と誇り、各地の民衆に反乱軍に入るように訴えればいい。

逆に王国軍が勝った場合には、酷い弾圧を行った王国政府を糾弾すればいい。

王国各地に憎悪が醸成されていれば、自然と革命の火は飛び火し、各地で延焼を始める。

そうして、計画の第二段階、すなわち、町の占拠までは実に上手く行った。

「……いや、本当に上手く行ったのだろうか?」

グレアムは、仲間からの報告書を見て、微かな違和感を覚えた。

「政府施設を無血開城……、戦うことなく、守備兵を武装解除……、理想的な展開だが……」

何かが……、何かが間違っているような……。

自分たちが、何者かの手の平の上で踊っているような気がしてならなかった。