軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 村の英雄

ミズトたちが『トゥルガイ』の集落を発ってから、十日が過ぎていた。

「お二人さん、そろそろ次の村が見えてくる頃です。名もない小さな村で、田畑を耕し細々と暮らしているという話です」

馬車を操る御者が、ミズトとウィルに言った。

これで、立ち寄る町や村がいくつ目かも分からないが、『トゥルガイ』の集落を出発してからは二つ目だった。

当然、正義の味方ウィルが、人々を救うために寄り道するのだ。

「すまない、馬車を止めてくれ」

先ほどからずっと馬車から顔を出して、辺りの様子を見ていたウィルが言った。

「はい、ただいま」

御者はすぐにウィルの指示に従った。

村までまだ距離があるが、馬車が停止すると、ウィルはミズトを連れて降りた。

「ミズト、すまないが、あれを落としてくれないか?」

ウィルが空を指さした。

「?」

ミズトは空を見上げると、遥か上空にドラゴンが飛んでいる姿を目にした。

どうやらウィルはあれを倒したいらしい。

しかし戦士系のウィルには、空飛ぶドラゴンを攻撃する術はない。

いや、弓使いや魔法使いでも、あれほど上空を飛ぶドラゴンに攻撃を当てる手段はない。

「承知しました、あのドラゴンを撃ち落とします」

ミズトは断る理由もないので、パーティ仲間の依頼通り、上空のドラゴンに魔法を放った。

「ストーンバレット」

障害物もなく、周りに被害が及ぶことも考えにくい。

ミズトは、あまり加減を気にせずストーンバレットを唱えた。

すると、発射された小石は瞬時に極超音速へと加速し、火球のように燃え上がりながら空を裂いた。そして、回避も防御も許さぬ一撃はドラゴンを容易く貫き、消滅させた。

「なっ……!?」

ウィルが驚いた声をあげた。

(あれ? もしかして、倒せってことじゃなく、言葉通り地面まで落とせって意味だったか……?)

【おっしゃる通りです。ウィルさんは攻撃が届かないため、ミズトさんに撃ち落としてもらってから、自分で退治するおつもりでした】

エデンが答えた。

(なんだ……悪いことをしたかな)

「申し訳ございません、倒してしまったようです」

「はははは、まさか倒してしまうとはな! 今のは世界の厄災と言われる古龍、エンシェントファイアドラゴンだ! 世界騎士団が手を出してきてもいい相手だぞ?! いくらミズトでも、この距離だと撃ち落とすぐらいだと思ったが、まさか今の俺の想像を超えるとは。さすがミズトだ!!」

ウィルは嬉しそうにミズトの肩をポンポンと叩いた。

それから村を訪れると、村人たちが入り口に集まりミズトたちを迎えた。

「名もなき我が村へ、ようこそいらっしゃいました。どうか、英雄様方のお名前をお聞かせください」

村の代表と思われる老人が、馬車に向かって頭を下げて言った。

「俺たちは英雄ではない。冒険者のウィルと、こっちがミズトだ」

ウィルは馬車を降りると、自分とミズトを指しながら答えた。

「何をおっしゃいますか、英雄ウィル様、英雄ミズト様。我が村を悩まし続けたドラゴンを、いとも簡単に討伐してくださいました。村を放棄すべきか決断を迫られていた折に、まさか救いがあるとは夢にも思いませんでした。このご恩、感謝してもしきれるものではございません。英雄と呼ばずに、なんと呼びましょうか」

(村を放棄?)

ミズトは老人の言葉を聞き、村の様子が荒れ果てていることに気づいた。

朽ち果てたというより、荒らされた様子だった。これが先ほどのエンシェントファイアドラゴンの仕業なのかもしれない。

「そういうことなら、感謝はそっちのミズトに言ってくれ。あれを討伐したのは、そこの英雄ミズトだ」

(ちょっと!?)

ミズトはウィルの言葉を思わず否定したくなった。

「おおぉ……英雄ミズト様。我が村をお救いくださり、感謝申し上げます!」

老人はミズトの元で膝をつき、改めてそう頭を下げた。

続いて現れた女性は、

「ああ……ありがとうございます、英雄ミズト様……。夫を失ったうえに、この村まで失ったら、力のない私たちはどうやって生きればいいか、途方に暮れておりました……。本当に……ありがとうございます……」

小さな子供を連れ、涙を流しながらミズトに近寄り感謝を述べた。

「ママぁ、泣かないで。ママ、悲しいの?」

小さな子供は、不安そうに女性を見上げて言った。

「違うの、嬉しいの。このお兄さんが、ママたちを救ってくれて、嬉しいの」

「このお兄さんが? お兄さん、ありがとう!」

屈託のない子供の笑顔が、ミズトに向けられた。

それから次々と村人たちがミズトの元を訪れ、感謝の言葉を述べる。

ミズトはとても気恥ずかしく、戸惑っていたが、拒絶することはできなかった。

彼らがどれほど苦しい思いをしていたのか想像すると、それはできないのだ。

その後、ミズトとウィルは、その名もない村に二日ほど滞在した。

力自慢のウィルは、荒れた田畑を耕しなおし、壊れた塀や建物を片付け、様々なことを手伝った。

子犬のようなクロは、子供たちの笑顔を取り戻すために抜群の貢献を見せた。

そして英雄ミズトは、料理用のゴーレムを召喚で呼び寄せて、数ヶ月は要するであろう村の再建をまたたく間に終わらせ、自慢の料理を振る舞った。

「英雄ミズト様、ウィル様には、感謝してもしきれません。これほどまでお世話になるとは」

人々の感謝は収まることを知らなかった。