軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第228話 出発準備

ミズトとウィルが千年王国ハイデルンへ向けて帝都を出発する日は、冒険者ギルドで『洗礼の儀』の話を聞いてから一週間後のことだった。

移動はブルクハルトたちが手配した馬車で行くことになっていた。

(なあ、エデンさん。他に行く方法はないのか?)

到着まで二か月ほどかかると聞いたミズトは、馬車へ荷物を積み込むウィルの姿を見ながら、モチベーションが下がったままエデンに尋ねた。最初の勢いはすでにない。

【ウィルさんと共に短時間で千年王国ハイデルンへ行く方法は二つ挙げられます。ハイウィザードが習得する魔法『テレポート』を使用するか、ワイバーンなど飛行系のモンスターをテイムすることです。ただし『テレポート』の魔法書は極めて入手が困難で、冒険者ギルドでも入手方法を把握していないうえ、テレポート先は一度行ったことのある町だけですので、現状では使用できません。また、飛行系のモンスターをテイムすることができるのは、ミズトさんを除くと世界騎士だけに許された特権になりますので、後者を選ぶとかなり注目を受けることになります】

(なんで世界騎士がテイムできるねん……)

ミズトは大きなため息をつきながら、長旅の覚悟を決めた。

「なんだミズト。帝都を離れるのがそんなに寂しいのか?」

そんな様子を見ていたウィルが、冗談交じりに笑った。

「いえ、そういうわけでは……」

「はは、タクマの料理を長い間食べられないんだ。俺にもお前の気持ちは分からなくもないさ!」

「はい……」

ウィルの言う通りだった。

ミズトにとって、タクマの料理が食べられないことほど、大きな問題はなかった。

この世界の料理は、全体的にミズトの口に合わない。不味いとまでは言わないまでも、タクマの料理に慣れると、満足感が全く足りないのだ。

ミズトは帝都を離れる期間があまりにも長いので、エデンに料理はできないか尋ねてみたところ、調合と違って、料理は材料を渡せばポンと作れるものではなく、肉体のないエデンでは作れないようだった。

【『ヒヒイロカネ』の在庫がありますので、料理用ゴーレムを生成して同行させるのはいかがでしょうか?】

そんなエデンの代替案は申し分のないものだったが、理想的なものではなかった。

ミズトが生成したゴーレムなので性能は抜群だ。しかし、この世界に存在しない『和食』は作れないようなのだ。

たしかに試しに何を作らせても美味しいのだが、あくまでこの世界にある料理しか作れなかった。

それでも携帯食よりは遥かにましなので、同行させることにした。

「それにしても、ミズトがゴーレムの生成者だったとはな!」

ウィルは静かに立っているゴーレムを見上げて、帝都内を徘徊しているゴーレムを思い出しながら言った。

「はい、私は家事が苦手なので、ゴーレムに行わせていました」

「はははは、ミズトらしくて面白い! こいつも料理のためだけに作ったんだろ? 世界中のウィザードが聞いたら驚いてひっくり返りそうな話だな!」

(俺だって、エデンさんに言われなきゃ思いつかんけどな)

ミズトは、ウィルの笑顔を苦笑いで返した。

ウィルが積み込みを終えると、ミズトとウィルは馬車に乗り込んだ。

馬車を操作するのは二人ではなく、冒険者ギルドが馬車とあわせて御者も用意してくれていた。

そのため二人は、テントの屋根がある幌馬車で座っていれば良かった。

料理用のゴーレムは、さすがに馬車に乗せるわけにはいかなかったが、どこにいても召喚して呼び寄せることができると分かったので、適当に物陰に隠れさせて置いていくことにした。

「お二人さん、かなりの長旅になるけど、よろしく頼みますね!」

出発の直前、御者がミズトたちにそう挨拶した。

四十歳ぐらいの人間男性。クラスは『御者』なので、正式に馬車を操作する仕事のようだ。

「運転を全て任せて悪いが、こちらこそよろしくな!」

ウィルが気さくに答えた。

「いえいえ、こっちは仕事ですんで! それで、目的のハイデルンには北回りでいいですよね?」

「ああ、遠回りだが、結局は早く着くだろうからな」

レガントリア帝国の帝都オルフェニアから、千年王国ハイデルンへ行く経路は主に二つ。

最短だが紛争地域と小国がひしめき、治安が最悪な『南回り』。

そして、世界最大の国土を誇る農業大国『アルカナス連邦』を抜ける『北回り』である。

北回りは広大だが通過する国家が一つのため、手続きも手間も少ない 。

ミズトたちの実力なら南の紛争など誤差のようなものだが、わざわざ火中に飛び込んで面倒を増やす趣味はなかった。

「それではお二人さん、出発しますね。まずは帝国内で二つの都市を通り、アルカナス連邦の最初の街、交易都市ヴァル=ミルザンを目指します。ハイヤー!!」

御者が手綱を操作すると、馬車が動き出した。