軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第199話 ウィルが辿り着いた男

「ミズト、話があるんだが、少しいいか?」

新装開店の最初の客であるミズトが、食事を終え帰ろうとすると、ウィルとタクマが真剣な表情で話しかけてきた。

「はい、別に構いません」

(なんだ? 改まって)

ミズトは疑問に思いながらも、二人に連れられ厨房まで行った。

厨房は屋敷の入口から見ると、左側の端にある。

元々右端にあった広間を中心に飲食スペースとしたため、ちょうど反対まで来たことになった。

ゴーレムの仕事は完璧で、厨房は大量の皿や様々な調理器具が、綺麗に整理整頓されていた。

「それで、お話とは何でしょうか?」

少し沈黙が流れ、ミズトの方から口火を切った。

「これは俺から言わせてもらおうか」

ウィルが、何かを言おうとしたタクマを制して、話を続けた。

「この話題は触れないままで過ごすことは出来ないだろう。ミズトにも色々事情があるのは承知しているが、どうしても言わせてくれ。ミズト、頼む! 上級ポーションを売ってくれ!」

ウィルが頭を下げた。

(やっぱりそうくるよな)

「ミズト、俺からも頼むよ!」

タクマも入ってきた。

「高品質以上の上級ポーションなんて伝説級のアイテム。そもそも存在すら怪しいと思っていたけど、もし君がそんなもの持っているなら、ウィルさんたちに譲ってほしい! 頼む!」

タクマも頭を下げた。

(ウィルがアリヤンの店に通ってたのも、アレックスの脚を治したいってことだったんだろうな)

【そのとおりです。ウィルさんもさすがに上級ポーションは諦めかけていましたが、坑道内でミズトさんが上級ポーションをお渡ししたことで、後には引けない状態になっています】

(…………)

【あの上級ポーションは、自分で飲むべきではなかった。ウィルさんは一生、そう後悔することになるでしょう】

(エデンさんが言いたいことはだいたい分かった。だが、そんな見え透いた 煽(あお) りは不要だから、黙っててくれ)

「ウィルさん、タクマさん、頭をお上げください」

「すまない、ミズト。お前が首を縦に振るまで、頭を上げることはできない!」

ウィルが下を向いたまま答えた。

「私の申し出が遅れたせいで、お二人にこのような事をさせてしまい申し訳ございません。頭を上げてください」

「ん? ミズト、まさか……?」

ウィルとタクマが顔を上げた。

「はい、アレックスさんのために、上級ポーションをお譲りします」

「本当か?!」

二人が声を揃えた。

「はい。上級ポーションがどのような意味を持つか、私も理解しているつもりです。だからこそ混乱を招くような真似は避けてきましたが、タクマさんやウィルさんのご友人とあれば、喜んでお譲りいたします。ここで使わずに、どこで使うのでしょうか」

原因が 異界人(いかいびと) となれば、ミズトにとっては尚更だった。

「そ、そうか……譲って……もらえるか…………」

ウィルはゆっくりとミズトに近づいた。

大の男が震えているのがよく分かる。

ここまで、どんな思いで彼がたどり着いたのか。ウィルの性格を知るものならば、誰でもそれが想像を絶するものだと理解するはずだ。

そして、付き合いのほぼないミズトですら、それは容易なことだった。

ウィルはミズトの元まで歩くと、震える手でミズトの両腕を掴み、

「ありがとう……ミズト……。俺はこの恩を……一生かけても……キミに返す……。ありがとう…………」

と崩れるように膝をつき涙を流した。

モンスター出現騒ぎから半月が過ぎ、帝都オルフェニアは何ごともなかったかのように日常を取り戻していた。

再開したタクマの店は、以前より立地が悪いのにも関わらず、移転前と同等かそれ以上に賑わっている。

脚が治ったアレックスは仕事を見つけ、数日前から働きだしていた。

そして、鉱夫だったウィル・バートランドは――――。

「よ、ミズト!」

昼飯時、ウィルは店内でミズトを見つけると、向かいの席に座った。

「お疲れ様です、ウィルさん……」

ミズトはタクマの店に専用席を設けられていた。

それは店の端にあるため他の客への影響が少ない位置なのだが、タクマはミズト用に六人テーブルを準備し、タクマやエイダが時間を見つけてやってくるのはもちろん、毎日ウィルが同席するようになっていた。

想像していた状況と違うため、ミズトはカウンターの端へ変更を申し出たのだが、笑って却下された。

「ミズト、お前、今日もギルドに顔を出さないのか?」

ウィルは、エイダに注文を伝えてからミズトに言った。

「ええ、まあ……。ウィルさんは積極的に行かれるのですね」

「ああ、もちろんだ! 俺は冒険者としては新人だからな! 依頼を受けられる限り、全力で取り組もうと思ってる!」

(羨ましいバイタリティーだな……)

「新人と言っても、いきなりC級なので驚きました」

「まあな! 一応、これでも元エルドー王国騎士団の一番隊隊長だ! 王国騎士として冒険者ギルドと交流もあったし、特例として認めてもらって助かったぜ!」

(ウィルは隊長だったのか)

【補足しますと、アレックスさんが一番隊の副隊長です】

(二人ともそれなりの地位だったってことか……)

「なるほど、それだけの実績があれば当然かもしれませんね」

「それだけではありませぬぞ」

冒険者ギルドマスターのブルクハルトと、サブマスターのフェルナンが隣のテーブルに座ってきた。

「よ! マスターにサブマスター!」

ウィルは気さくに手を上げた。

(また増えた……)

「特別推薦でC級からスタートなのは、エルドー王国時代の功績だけではなく、ミズト殿のご友人というのもありますぞ、ホホッ!」

ブルクハルトは大量の髭を揺らしながら笑った。

「私の……?」

「ミズト殿はA級冒険者。しかも今やギルドにとって最重要人物ですからの。そのご友人とあれば、特別扱いしないわけにはいきませぬ」

(ツッコミどころが多いんだが……)

ミズトは表情に困った。

「そういうことだ、ミズト! 俺もいい友人を持ったぜ!」

ウィルは腕を伸ばしミズトの肩を一度叩くと、嬉しそうに笑った。

(だから俺がいつお前と……)

ミズトにとって欠かせないタクマの店は誰かに囲まれる場となり、戻ってきたミズトの日常は、以前のように孤独を許すことはなかった。

そんな騒がしい中、クロはいつも幸せそうにミズトの足元で丸まっていた。

第五章 完