軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 世界ログ

「聞いてくれよ、なあ!」

騒がしい店内で、隣のテーブルの男が一際大きな声をあげる。

ミズトは泊まっている宿屋から、歩いて数分の料理屋に来ていた。

出された料理は、焼いた肉、炒めた野菜、具の少ないスープ。素朴な味付けで、肉なんて何の肉かも分からない。

日本で生まれ育ったミズトには美味しいとはとても言いがたいものだが、ここのところ同じものばかり食べていたせいで、それなりに新鮮で満足だった。

ただ、周りのうるささにはウンザリしていた。

学生ばかりいるファミレスにでも来た気分だ。二十代中心の客層で、どのテーブルも酒を酌み交わし騒いでいる。

落ち着いた老夫婦や、 寡黙(かもく) な独り身のオジサマは見当たらない。

とくに隣のテーブルは声も大きく、ミズトの気に 障(さわ) っていた。

「俺様があそこで斬りつけたから、お前ら無事なんだぜぇ!」

聞きたくもない隣の会話内容が、ハッキリと聞こえる。

昼間の戦闘で自分が一番活躍したと 喚(わめ) いているようだ。

「おいおい、お前飲み過ぎだって。明日も行くんだから、今日はこの辺にしといた方が」

「いいや、お前は分かってない! あそこで俺様が引いたら全滅してた! だってそうだろ? あのままだと魔法打つ前にやられてたぜ! それを俺様が適切に相手を見極めたわけよぉ?」

「分かった分かった。とりあえずいいから座れ」

必死で活躍をアピールしている男は戦士。その相手をしているのが盗賊のクラスだ。

同じテーブルには他にも魔法使いの女と僧侶の男がいる。

レベルは皆25前後。

二十歳そこそこの若者たちで、パーティを組んでいる仲間なのだろう。

「そこの少年! お前もそう思うだろ?」

(げっ! こっち来やがった!)

ミズトは巻き込まれないために、そっちのテーブルには目線がいかないよう気をつけていたのだが、向こうの目に止まってしまったようだ。

「おい、少年! 聞いてんのかぁ?」

男はミズトの席まで来ると、肩に手を回した。

「ええ、まあ……」

(うぜぇ! 酒臭え!)

「ならお前もそう思うなら、あいつらに言ってやれ! 俺様のおかげだってな!」

ミズトは男の仲間に助け舟を求めたが、まったく気に留めていないようだった。

むしろミズトに押し付けて、せいせいしているようにも見えた。

(あいつら仲間じゃねえのか? 仲間が迷惑かけてすみませんだろ? 謝るどころか何ニヤついてやがる!)

「すみません、私はこれで」

ミズトは残りの食べ物を口に放り込むと、腕を振り払いながら立ち上がり、会計に向かった。

せっかくの食事の時間が台無しになったが、何も言わずに女将に支払いを済ませ、店を後にした。

「おい、ガキ! シカトすんなよ! 次会ったらブッ飛ばすかんな!」

(お前の拳なんか当たらねえよ)

背後から聞こえる悪態を、ミズトは振り向くことなく頭の中で言い返した。

(くっそ! なんかムカつくこと多いな、おい)

ミズトは部屋に戻りベッドに横たわると、町に来てからの腹の立った出来事を思い返していた。

【ここドゥーラの町はフェアリプス王国の端に位置しており、人々が勝手に集まって築いた辺境の町です。そのため強者が弱者から搾取することは日常茶飯事であり、強者が生き残り弱者が淘汰される弱肉強食の世界となっております。すでに強者になりつつあるミズトさんは、この町で自由に振る舞うことが可能であり、誰からも 咎(とが) められることはありません】

「…………今のはエデンさんが俺をフォローしたのか?」

頭の中で呟くと、エデンは勝手に意見をしてくるので鬱陶しいことも多いが、基本的にミズトの利になる発言しかしないことが分かってきた。

もし精神面のフォローまでしてくれるとなると、喋るAIというより、パートナーのような存在になりそうだ。

「もしかして女神は、俺が間違った道へ行かないようにこのスキルを授けた、なんてこともあるんかね」

ミズトは顔も思い出せなくなった女神アルテナのことを考えた。

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日本卍会が焼肉定食に宣戦布告をしました。

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突然、視界の中に文字が現れた。

(ん? なんだ? 焼肉定食? なんの冗談だ?)

ミズトはあまりにも理解が追いつかず、上半身を起こした。

【どうやら日本卍会が焼肉定食に宣戦布告をした模様です】

(いやいや、文章の意味は分かるから。そうじゃなくて……)

【申し訳ございません、説明が不足しておりました。表示された文字は『世界ログ』です。ミズトさんたち異世界の方々にしか見えず、この世界にいる異世界の方々の大きな行動がログとして表示されます。なお、『日本卍会』と『焼肉定食』はクランの名前です】

(クラン? そういえばこの前会ったカズキって奴は、クラン『神楽』に所属してたな。チームみたいなもんか?)

【はい、クランシステムにより異世界の方々のみ結成・参加ができる組織をクランと言います。ただし、チームというには少し規模の感覚が違うかもしれません。この世界で最初に結成されたクラン『神楽』は、今やメンバーが千人以上にも及んでいます】

(千人!? つまりそんな人数が日本からこっちへ転移してるってことか! それにしてもクランの名前のセンス……。こっちに来てる奴って若い奴が多そうだな)

【はい、転移対象者はほとんどが三十歳以下で、異世界への転移に普段から興味を持っている若者たちになります】

(そんな若い日本人が千人以上…………残された日本は大丈夫か?)

ミズトはその夜、少し懐かしさを感じ始めている故郷の未来を憂いていた。