作品タイトル不明
幕間1
「はい、これで治療は終わりです。足を動かしてみてください」
「……すごい、痛みが全然ありません」
「骨をくっつけて修復しましたからね。ですが無理は禁物です。かさぶたと同じで、余計な負担をかけたら悪化しますからね」
「はい」
「では、これで失礼します。お大事に」
「ありがとうございます」
「ありがとうね」
「仕事ですから。治療費は後々請求しますね」
「オッケー」
「…………。なかなか、辛辣な人でしたね」
「そうか? 口が悪いのは元からだし、仕事は手を抜かない信条だぞ?」
「それは、はい。身を 以(もっ) て体験しましたので」
「ってことは、あれか。自分が元王太子だから嫌われてるんじゃないかって思ってる?」
「…………はい」
「正直! そして自信過剰! 彼女はそういうのまったく気にしないから!」
「て、店長、痛い! 痛いです!」
「おっとスマン。魔法の治癒師っていうのはなり手が少ないからな。それを騙る詐欺師も多いし本人たちも気を遣う。ある意味、商人よりも信用がずっと物を言う職業だ」
「そんな人を紹介して、怪我を治してくれて……本当に、店長には頭が上がりません」
「よせやい。……ただ、あんたが居辛くなっているのは確かだな。妖精新聞が例のご令嬢の家についてすっぱ抜いてくれたのはいいが、各地への飛び火がすごい。お屋敷はもちろん、学園や王城には苦情の声が殺到。そんでどっから嗅ぎ付けてきたのか、元王太子殿が働く店まで突き止めてきた。名前も髪型も変えたっつーのにねえ」
「店にもご迷惑をおかけして……」
「ありゃあ、一過性のもんだ。こっちが堂々としていればそのうち飽きる。でもその前にあんたがやられちゃあ問題だ」
「裏路地に連れ込まれて袋叩きにあったのは僕の自業自得ですよ。店長だって僕を早々に首にすれば、治療費を払わなくても済んだじゃないですか」
「ばぁか。人の命はカネじゃ救えねえんだよ。あんたがうちの店の前でボーッとしてたのも、それを見つけた俺があんたを雇ったのも、いわば縁だ。縁とカネで物を動かし、人を救う。それが――」
「――俺の商売だ、ですよね」
「知ってるじゃねえか」
「耳にタコができるくらい言い聞かされましたから」
「だな。…………。なあフィル。お前、ちょっと旅に出てみないか?」
「え!?」
「待て待て早まるな。 暇(いとま) を出すんじゃない。休暇って体でほとぼりが冷めるまでうちの本店に避難してろってこと」
「ああ……。でも、本店ってどこにあるんですか?」
「ラシガムだ」
「えっ」
「ちょうど、例のご令嬢もそちらに向かっているって情報をうちの精霊が掴んだ。ついでに腹を割って話して来い。悶々としてるの、みんな知ってるんだぞ?」
「……いまさら後を追ってきたって知られたら、ストーカー扱いで話し合いの余地なんかありませんよ。そもそも、どんな顔をして会えばいいのか」
「会うのはついでだ、ついで。本店の方には話を通しておくから、あっちで数年くらい見習いとして働いてこい。ラシガムで一番大きな店だから、お嬢さんもなにかしら買うために顔を出すことだってあるだろ。そん時にお前が店先に出られるようにも言っておくから」
「外堀がどんどん埋められていく!」
「だってよー、お前の話を聞くと、あの婚約破棄の茶番劇、不本意だったんだろ?」
「いや、あの時はそうするのが正解だと思っていたんですよ。ただ、時間が経つにつれて疑問や後悔が湧き水みたいに溢れてきて……」
「収拾がつかない、と。だったらいっそ当事者同士で腹を割って話せよ」
「そんな度胸があったら襲われる前に馬車に乗っていました!」
「わははっ、ちげえねえ。でも一番の解決方法が彼女に会うことだって気付いてるんだろ? 公衆の面前でド派手に婚約破棄を言い渡し、消えた彼女を探すこともせずにいたことも後悔してる。拒絶されるの前提で会った方がいいぜ? あっちの方は精霊って言う見えない味方も多いからな」
「シャルロットの、でしょう?」
「いいや、お前ら二人を応援するためだ」
「…………」
「なんだよ、疑ってんのか?」
「応援団じゃなくて出歯亀の集まりじゃないですか」
「わははははっ! ……で? いつ出発する?」
「行く前提ですか。さてはもう話がすでに通っていますね?」
「さあて、どうだろうな?」
「……荷造りします。今日、荷物をまとめるので、明日か明後日にでも出発します」
「よし、明日の馬車の便を押さえておこう。本店への使いってことで、小包を一個頼む」
「わかりました」
「道中、腹が減ったら開けてもいいぞ?」
「……店長」
「なんだ?」
「……いえ。ありがとうございます」