軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ライラの未来1

照りつけるような日差しは姿を消し、涼しい秋風が黄金色の穂を揺らす。

目の前にはたわわに実り、重たげに首をもたげた小麦畑。

夏の長雨にも関わらず、今年も豊作だ。

収穫の時期になり、私達は再びリーベル村がある山脈の麓を訪れた。今回は麓のみの視察だけれど、リーベル村の小麦畑も豊作だと聞いている。

「ここに来るまでに見た小麦畑でも、大量枯れは起こっていませんでしたね」

馬車に揺れること四日。私はひたすら窓の外を眺め続けた。報告では大量枯れが起きていないと聞いていたけれど、自分の目で確かめるまでは不安で。目の前に穂を垂れた小麦畑が見えた時は思わず歓声を上げてしまったほど。

「成功、だな」

「はい」

笑顔で答えつつも、心の底から喜べないのはジルギスタ国で作った農薬が気掛かりだから。

ジルギスタ国とカニスタ国では作っている小麦の種類が異なるので、ジルギスタ国の収穫はひと月半ほど先になる。種類が違うとはいえ、毎年両国とも同じ年に大量枯れを起こすのだから原因は同じはず。

作った農薬が湿気によって繁殖する菌を抑えることは間違いない。それは自信を持って言えるのだけれど、そもそも大量枯れの原因が菌ではないのだから、あの農薬は役に立たない。

私の顔が僅かに陰ったからだろうか、アシュレン様がくしゃりと頭を撫でてくれた。表情に乏しいと言われてきたのに、アシュレン様はそんな私の感情をすぐに汲み取ってくれる。

「さて、美味いものでも食って帰るか」

「……はい」

こうして強行突破と言える日程で私の視察は終わり、カニスタ国は無事収穫を終えた。

※※

もうすぐ、私がこの国に来て一年が経つ。

その間、両親からは一度だけ手紙が届いた。私を心配する言葉はそこになく、相変わらずアイシャと比べ不出来な私を叱責し親不孝者だと嘆く内容だった。

両親にとって私は、女性として至らないせいで婚約破棄されたのに、妹を逆恨みした挙げ句当てつけのように異国に旅立った可愛げのない娘、らしい。

私に対する評価には慣れていた筈なのに、多少なりとも心配してくれていたのだと思い開けたばかりに、その内容に傷ついた。

だから、私は再び両親から届いた手紙をまだ開けられずにいた。

味気ない白い封筒、裏にはウィルバス子爵家の封蝋。

「はぁ」

ソファの肘掛けに腕を乗せもたれかかりながら、私は大きなため息をつく。

でも、いつまでもこうしていても仕方ない。既に手紙が届いてから一週間経つし、その間何をしていても心が重かった。それなら、もう読んでしまおうと覚悟を決めペーパーナイフを手にする。

シャッと小さく短い音。

覚悟を決めて深く息を吸い手紙を取り出すと、私はそれを読み始めた。

※※

夕食が終わりすぐに部屋に戻ろうとする私をアシュレン様が呼び止めた。

「晩酌に付き合え」

そう言うとリビングに場所を移し、メイドにお酒とハーブティーを用意させた。どうしてこの人は私のことがこんなにも分かるのかと、思わず舌を巻いてしまう。

落ち着いたダークブラウンのローテーブルに、ワイングラスとティーカップが並ぶ。暖炉の横に薪は置かれているけれど、まだ火を点したことない。その代わり私の膝の上には、ふわふわの膝掛け。

「何があったんだ?」

私が注ごうとするのを制し、自分でグラスにワインを満たしながら、ごく自然にアシュレン様が聞いてくる。

「実家から手紙がきました」

だから私も自然に答える。アシュレン様はワインを飲みながら、私が次の言葉を口にするのを待ってくれた。

「妹が結婚するので式に顔を出せと言われました」

困りましたね、と苦笑いするように眉を下げ口角を僅かにあげる。間違っても傷付いていると思われたくない。だって本当に傷付いてなんかいないもの。

「そうか、それでどうするのだ」

「出席しようと思います。手紙の内容が非常識なものなら無視するつもりでしたが、妹の結婚式に出席するために帰国しろというのは真っ当な理由」

「しかし、相手はライラの元婚約者だろう? 真っ当か?」

「だからこそ。これで帰らなかったら私がまだ未練を持っていて、我儘を通しているように思われてしまいます」

アイシャを妬む気持ちはないし、あんな男喜んで譲ってあげる。当てつけでこの国に来たわけじゃないし臍を曲げて帰らないわけではない。

ただ、私は自分がしたいように生き、居場所を見つけただけ。

だから堂々と帰ろうと思う、そう伝えるとアシュレン様は分かったと頷いてくれた。そう言ってくれると思っていた。でも気になるのはニヤリと笑ったその顔。

「アシュレン様? 何を企んでいるのですか」

「どうしてそう思う?」

「腹黒の時の顔をしています」

なんだそれ、とアシュレン様は眉間に皺を寄せるも、口角が上がっているのを私は見逃さない。

「あの、もしかしてですが……」

「令嬢を一人でパーティーに出席させるわけにはいかないだろう。俺がエスコートしてやる」

いやいや、してやるって。

その顔、ぜっーたい裏がありますよね。

「……ですが、二人揃って仕事を休むのは問題があるのでは」

「ライラを一人で行かせるほうが問題だ。そんなこと母が許すはずないだろう」

頬をぴくつかせる私に、アシュレン様は余裕の笑みを浮かべる。

見ようによっては魅力的にも、悪魔にも見えるその顔に私は軽く目眩を覚えた。

こうして私は心強い味方と爆弾を抱えて、一年ぶりにジルギスタ国に旅立つこととなった。