作品タイトル不明
391.恐怖恐怖また恐怖
「わ、我々はっ」
跪いている男の中、リーダー格らしき男がまた代表するように口を開く。
シーラの脅しがよほど効いているようで、その声は完全に上ずっている。
「決して大公陛下に歯向かう意思はもっていません」
「あら、そうなの?」
シーラはそういって、わざとらしく脚を組み替えた。
口元に手をあてて、クスクスとわらった。
そういう振る舞いをすればするほど、男達の顔色が青ざめていく。
こうなってくると俺でも分かってくる。
シーラはネコ、そこにいる男達はネズミ。
ネコが袋小路に追い込んだネズミをじわじわといたぶっている様子に見えてくる。
「は、はい。どうか信じてください」
「……遅参の処罰ならば」
リーダーの一つ後ろにいる男が意を決した顔を上げて、シーラをまっすぐ見つめ、切り出す。
「甘んじて受け入れます」
そう話す男。
他の男は最初「何を言い出すんだ」という顔をするが、やがてそれぞれのタイミングでハッとして、不揃いながらも「うけいれます」と唱和した。
「その処罰だと恭順していると、うけいれている事が前提でしてよ」
『あぁ……』
俺の疑問を察知して、先回りで説明してくれたシーラの言葉に納得した。
『なるほど、賢いな』
「ええ、こざかしいですわ」
『こざかしい?』
「無理矢理既成事実化を迫られているのですわ」
『なるほど』
そりゃそう感じてしまうって事か。
シーラの口調から若干の怒気が感じられる。
謁見の直前まで――いや、既成事実化の直前までにはなかった怒気だ。
直前まではむしろ楽しんでいたぶっていたのが、逆鱗に触れられて――って感じだ。
シーラの唇が動きかける。
このままだとかなりきつめの 追い込み(、、、、) がかけられる感じだ。
何となくそれは良くないって思った。
『待って』
「――」
俺が待ったをかけると、シーラが開きかけた唇を止めて、そのまままた閉じた。
そして俺――玉座にある魔剣リアムを見つめた。
『よく分からないけど、それは寄り道なんじゃないのか?』
「……私の目的に対する?」
『ああ』
「…………おっしゃる通りですわね」
数秒ほどの間を開けて、シーラはフッ、と微笑んだ。
俺の制止を聞き入れた、その証拠にシーラの笑みから直前までに膨れ上がっていた怒気が綺麗さっぱり消えていた。
俺はもう大丈夫だと思った。
が、男達にはそうは映らなかった。
シーラの表情の変化、 その理由(俺の制止) が分からないから恐怖のようなものが増しているように見える。
シーラはまた、俺だけに聞こえるようにささやいてきた。
「お名前をもう少しお借りしますわ」
『ああ、好きなだけ使ってくれ』
シーラが 元に(、、) 戻ったと確信している俺はそういった。
言われたシーラはにこり、と、またちょっと違う種類の笑顔をつくって男達の方を向いた。
「あなた達は何かを勘違いしているのではなくて?」
「いえ、私達は本当に心の底から――」
「先ほどから誰に何を話してますの?」
シーラは有無を言わさない口調で男達の反論をぴしゃりと遮った。
「誰に……何を……?」
「ずっと、わたくしに向かっていいわけをしているようですけれど」
そう言いながら、今度はあきれ顔を。
普通の判断力があれば誰が見てもわざとらしいあきれ顔を作った。
「わたくしの主、魔王様をないがしろにしすぎではありませんの?」
「……え?」
「それ……は……」
男達はまだ、意味を理解し切れていない、と言う顔をした。
俺も実はよく分かっていない、が。
「周りを出来るだけ破壊してくださいませ」
と、シーラがまた俺だけに聞こえる小声でささやいてきた。
こっちはすぐに理解できた。
脅し――つまりは恐怖だ。
シーラが一貫して与えようとしていたもの。
そして俺の指摘で、またそれに 戻って(、、、) 来たもの。
魔王(俺) が無視されていて、それで怒っている――という演出。
ならば――。
俺は魔法を唱えた。
シーラを巻き込まないように、シーラの玉座ぎりぎりまで消滅魔法を放った。
玉座はもとより、 魔剣リアム(俺) のまわりがごっそりと「消滅」した。
玉座もその下のじゅうたんもその更に下の床も。
全てが消滅魔法に飲まれて消滅した。
それをみた男達が一斉に青ざめた。
この日一番の青ざめた表情になってしまった。
「も、申し訳ございません!」
「決して魔王様の――」
「ばかっ! 魔王様のご不興を買ってしまい誠に申し訳ありませんでした!」
中には言い訳をしようとする男もいたが、そのものはまわりの仲間に止められ、全員で俺に平謝りした。
全員がものすごく怯えている。
見ていてちょっとかわいそうになるくらいの怯え方だ。
かわいそうではあるが――俺は更にそれを「足して」やる事にした。
恐怖を増幅する魔法、それを男達にかけた。
「さすがですわ」
目的にぴったりあっている追撃だからか、シーラはまた俺だけに聞こえる小声で、心からの称賛をむけてきたのだった。