軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

392.むしろ望むところ

玉座の間から退出したシーラは、 俺(魔剣リアム) と一緒に歩いていた。

通常、剣と言えば手に持ったり腰のあたりに下げたり背中に背負ったりして、持ち主が「持って」移動するもんだが、俺は自力で飛んでいた。

柄が上で切っ先が下、その向きでシーラの真横にぴったりとついていくように飛んだ。

『あれでよかったのか?』

「ええ、最後に退出していく彼らの表情をご覧になって?」

『まあ、かなり怯えてはいたが』

「それで充分ですわ」

『ふむ』

シーラに相づちを打って、さんざんに脅した男達が玉座の間から逃げ出すように去って行った時の光景を思い出す。

全員が全員、顔は青ざめてて、逃げ出す足ももつれてスッ転びそうになった。

あれはあれでちょっとかわいそうだが、シーラのもくろみが成功したという意味でもある。

『って事は成功でいいのか』

「ええ」

『このあとどうなるんだ?』

「そうですわね。主導権を握っているものの芸風にもよりますのでなんともですわね」

『芸風?』

「ええ。例えば兵や民に大規模な恐怖が蔓延しているのでしたら、わたくし個人に暗殺者を送ってくる可能性もございますわね。恐怖に対抗できる少人数での一発逆転、そういう意味では王道ですわね」

『ああいや、そういう意味では――なるほど』

困惑しつつも、納得した。

シーラが使う「芸風」という言葉そのもの、表現に引っかかりを覚えたんだが、シーラは俺にその内容を懇切丁寧に説明してくれた。

たぶん言葉遊びの類かなと思った。

なんとなくラードーンと似てる感じがした。

そういうのは面白いとは思うけど上手い返しが思いつかない。

これがシーラと、仮に「魔剣ラードーン」とかだったらそのやり取りも面白いのかもしれない、とちょっとだけ思った。

それはそうと――と、思考を戻す。

『暗殺をしかけてくるのか』

「その可能性がありますわね」

『わかった、警戒しておく』

「あら、よろしいんですの?」

『暗殺なら最終的には魔法で対処できる。さっきのああいう脅しよりはやることがはっきりしててやりやすい』

「それもそうですわね」

『暗殺者はどうする? やっぱり殺さないで返すのか?』

「そうですわね」

シーラは歩きながら考える。

「その手のものならメッセージボードとしての使い道がよりありますが」

『メッセージ……ボード?』

何で板? と不思議がる俺。

「例えば両国の間を行ったり来たりする公式の使者。これはよほどの事でもない限り、たとえ戦時中であっても使者なら生かして返すというのが暗黙の了解ですわね」

『そういうものなのか?』

「ええ。使者を斬って首にして返すのは『最後まで交渉の余地はない』というメッセージになりますわ。ですのでよほどの事が無い限りは使者に手は出せませんわ」

『ふむ』

「ですが暗殺者ならいかようにもできますわね。伝えたいメッセージの強さ次第では、とことんむごたらしい状態にして返す、ということもできましてよ」

『……じゃあ、シーラを狙ってくる暗殺者を捕まえたら、今までよりもよりつよい恐怖を覚えるような感じにして返すのがいいってことか?』

「そうであればいう事はありませんわね。戦とはいってもそれなりの暗黙のルールというものもございますし、中々何でもありとはいきませんわ」

『そうなのか!?』

これにも驚いた俺だった。

戦争というのはつまり殺し合い、殺し合いというのならルール無用だと思っていたのだからかなり驚いた。

「わかりやすい所では、投降をする時は白旗をあげる、いったん白旗を揚げた相手には攻撃はしない」

『なるほど』

「もちろん、場合と目的、狙いによっては破ることもありますわ。でも、破るのにはリスクがつきまといますわね」

『なるほど、その点暗殺者相手ならそういう暗黙の了解はほとんどないからやりたいようにやれるってことか』

「ええ。むしろ死して屍拾うものなしがそういう裏稼業のものの宿命。捕まった暗殺者には何をしてもいいという、こちらもまた暗黙の了解として成り立っているのかもしれませんわね」

『そうか。だったらそれも何かを考えたほうがいいか』

「あら、やって下さいますの?」

『魔法を考えるのは好きだ。それに』

「それに?」

『シーラが今やっているような――なんていうんだろうな、自分に本来いらないような制限を課すような状況は魔法の 考え甲斐(、、、、) がある』

「ふふ、あなたらしいですわね」

俺は考える事にした。

まず前提として殺さない、生かして返す。

なにをどうやったら生かして返すのがより恐怖を与えるか。

それを考えた。

その日の夜、シーラの寝室。

月光を反射した斬撃の銀光が煌めいたあと、全身黒ずくめの男が音もなく床に倒れ伏した。

「早速ですわね」

寝間着姿で魔剣をふるってそれを撃退したシーラは、倒れた男の姿を見下ろしながら、口角を冷たい笑みの形にした。

『間に合ったから別に構わないが』

「あら、もうですの?」

『ああ』

「さすがですわね。で、何をすればいいんですの?」

『あんたの悪名が更に上乗せになるけどいいか?』

念の為に聞くが、シーラはにやりと笑う。

「むしろ望む所ですわ」

そう話すシーラの表情は、言葉通りむしろワクワクしている感じだった。