軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

388.これも「全力」

戦いが終わって、「制圧」したジャミール軍から100メートルくらい距離をとって、それを眺めるシーラ。

全身に返り血を浴びているシーラのことを俺は綺麗だと思った。

そんなシーラに斬られて、俺が魔法をかけて支配したジャミール軍は、今や全員がうつろな目で立ちつくしている。

正気のものが近くにいたら自動でそれに襲いかかるが、同じように正気を失っている人間は無視する魔法だから、生き残った全員がその状態では全員が「目的」を失って立ちつくしている。

それをしばし眺めて、シーラが意識を俺に向けて、形のよい唇がうごいた。

「感謝いたしますわ」

『あれでよかったのか』

「ええ、99点の結果でしてよ」

『99?』

俺は少し不思議がった。

『残りの1点はなんなんだ? 1点だけ足りないってのは不思議なものいいだな』

「よくを言えば全員生存が理想だったのですけれど、同士討ちで多少の死者がでましたわ。……ふふっ、そんなのは不可能ですわね。ならば百点満点ですわね」

『なるほど』

そういうことか、と思った。

相変わらず徹底しているなとも思った。

シーラの目的は少しでも多くの敵兵が恐怖を持ち帰ること。

だからシーラ本人は一人も殺さなかった。戦場で相まみえた敵兵だ、斬り殺そうと思えばいくらでもできた。

しかししなかった。殺しちゃったら恐怖がそのまま命とともに消えてしまうという理由から。

シーラはそうしたが、俺の魔法である意味操られた敵兵同士の同士討ちでそれなりの死者をだした。

操られている側に殺された敵兵もいれば、正気の敵兵が自衛のために反撃して――の結果もある。

さすがにそこまではコントロールできないし、重箱の隅をつつくもんだとシーラも認めた。

だから最初は99点だといい、そのあと100点だとなおした。

『……』

「この後どうすればよろしくて?」

『え? ああ、放っておけば順番で正気に返る。みんな一斉に戻るよりそっちの方が恐怖を与えられるだろ?』

「さすがですわね、そこまで考慮に入れてらっしゃったのですね」

『まあ後付けだよ』

俺は微苦笑した。

『マインドコントロール系の魔法だから、普通に順番で元に戻る。それを最初は改善しようとおもったけど、よく考えたら別にそれでも問題ないなって』

「改善。永続にすることもできますの?」

『時間をかければ』

「さすがですわね」

シーラはそういい、笑顔で身を翻した。

順番に正気に返って、その時目に飛び込んでくるのは正気をうしなった味方だけ――という、さらなる恐怖が約束されていることをしったシーラは満足げにひきあげた。

来た時とちがって、彼女は悠然とした足取りで帰路についている。

『つぎもまたこういうことをするのか?』

「いいえ、この形はあくまで前哨戦。恐怖は慣れていくもの、慣れた後は更なる恐怖を突きつけなければならないけど」

『けど?』

「青天井に恐怖をあげて行くことは不可能ですわ。必ずどこかで限界がきてしまう」

『なるほど』

「ですので、もう一度か二度は同じことをしますが、そろそろちゃんとした戦い方も考えなければなりませんわ」

『全力で殺しにいくのか』

「いいえ」

シーラはにこりと笑う。

「全力で活かしに――半殺しに行きますわ」

『半殺し?』

「あなたは人間同士の戦争にお詳しい?」

『いや、まったく』

俺は即答した。

その辺りは本当にまったく詳しくないから胸を張ってそう言えた。

「戦争――いえその中の戦闘に目を向ければ、大体は死傷者が兵数の5割に達する前にはもう戦えなくなりますわ」

『5割? 半分ってことか? なんでだ』

「死傷者がでれば助けたり、後方に下げたり、治療したり――そのケアをするために人を割かねばなりませんわ。5割も出てしまえばもう……ですわね」

『……なるほど!』

目から鱗って感じだった。

しかし言われてみればその通りだとも思った。

「ええ。魔法で即治療する事も可能ですが、戦傷は深手がおおい。その深手を即座に復帰できるまで治療する魔法使いなんてざらにいませんわ。結局は死傷者

に比例して人員が割かれる」

『なるほど』

「そして――」

『そして?』

聞き返す俺。

シーラが「そして」と言った後にめちゃくちゃ悪そうな顔をした。

「死傷者の場合は5割ですが、仮に全員が重傷者でしたら3割くらいですむ――と見ていますわ」

『……うん?』

どういう事だ? と、シーラの言葉を頭の中に広げて理解しようと試みる。

「簡単な事ですわ。死傷者は死者も含む、そして目に見えて即死すればたとえ味方であっても後回しにしてもいいという考えになりますわ」

『……ああ、後回しにされたら人員が割かれない』

「ええ。有り体に言えば死者は足手まといになりにくいのですわ。けれど、全員が目にみえての重傷者であれば」

『味方だから助けなきゃ……なるほど、理にかなってる』

「ええ、ですので。理想は倒した相手を全員重傷者に留めておく事ですわね」

『はえ……』

俺は感心した。

確かにその通りだと思って、感動すらした。

理屈ではシーラの言う通り、死者もいるよりは全員重傷者のほうが効率がいい。

『……ああっ、そうか!』

「どうかしまして?」

『味方を助ける当たり前の習性の上になりたっているから、恐怖とちがって効果が減少していくこともない』

「ええ、その通りですわ」

『なるほどな……よし』

「あら」

『それをやってみよう』

「そういうと思っていましたわ」

俺がいい、シーラはにやりと微笑んだ。