軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

327.臨死体験

「今……なんとおっしゃいましたの?」

鳩が豆鉄砲食った後は、自分の耳を疑う顔にそのまま横滑りしていった。

さすがにこれだと突拍子がなさ過ぎるのが俺にもわかった。

「走馬灯が見たい」

「走馬灯……ですの?」

「ああ、死ぬ間際に見るというあの走馬灯だ」

「それをみてどうするつもりですの?」

「新しい魔法のためにその感覚を実際に体験したい」

「……だから半殺し、ですのね」

「ああ」

「わかりましたわ」

シーラは頷き、魔剣クリムゾンローゼを再び手に取った。

彼女が準備をしている間、ラードーンが俺の中から出てきた。

顕現した神竜ラードーンを前に、シーラはわずかに表情が強ばった。

「どうしたんだ?」

俺はラードーンにきいた。

「その娘の護衛だ」

「護衛?」

「お前が何をするのかはまだわからんが、その現場をもしアヤツに偶然見られでもしたら、その娘は一瞬でこの地上から消滅だ」

「……あぁ」

なるほど、と思った。

まったく考えが及ばなかった事だが、言われたらわかることだった。

デュポーンの事だ。

デュポーンは俺の事を「ダーリン」と呼んで好意を向けてきている。そして彼女はラードーンと同格の存在で、かつ直情径行な一面をもつ。

シーラが俺に攻撃をして、文字通りの半殺し、瀕死に追い込んだ場面をもし目撃したら怒り狂って一瞬でシーラを殺してしまうだろう。

そうなったら誰も止められない。

全力を出せば俺はどうにか止められるかもしれないが、そうなったとき俺は瀕死の状態だからとてもデュポーンのことは止められない。

俺よりも遙かにデュポーンのことをよく知っているラードーンが前もって出てきて、デュポーンが来た時のための備えをしてくれるというのだ。

「ありがとう、助かる」

「ふふっ、なんのなんの。面白そうなことを特等席で見させてもらうのだ、これくらいはことはやってやるさ」

面白い、という理由で協力してくれるラードーンを有難く思いながら、シーラの方を改めてむいた。ラードーンとのやり取りを聞いていたシーラも理由がわかって、わずかに見えていた顔のこわばりがすっかり取れた。

「具体的にはどうすればいいんですの?」

「腹だ」

横からラードーンが指示をだした。

俺とシーラは一斉にラードーンの方を向いた。

「走馬灯を堪能したいのだろう?」

「生まれて初めて聞く言い回しですわね」

「なら剣で腹を貫通すればよい、なんなら腰から両断して上下泣き別れでもいい」

「なるほど、腰斬刑は絶命まで十数分はかかるとききますわ」

「うむ。出血でじわじわと死ぬることが出来る。まさにいま欲している状況だ」

「分かりましたわ。準備はよろしくて?」

シーラは再び俺を向いて、聞いてきた。

俺が「ああ」と頷くと、シーラは魔剣クリムゾンローゼを構えて、彼女にしては遅すぎる位の速度で、中腰に構えた魔剣を突き出すように一直線にまっすぐむかってきた。

俺は避けなかった、魔法障壁も張らなかった。

シーラの切っ先が迷い無く俺の腹を貫通した。

「ぐっ!」

「……」

「ぬ、抜いてくれ」

「ええ」

貫通した刃が抜かれた。

腹を貫通した傷を中心に、灼けるような痛みが全身に広がっていく。

思わずふらつく、どうにか踏みとどまる。

「ふむ、来たか――」

ラードーンが何かをつぶやいた直後、遠方から大きな力がぶつかりあった時特有の爆音と衝撃波が俺を襲う。

それに吹っ飛ばされて、地面に転がる。

腹を刺された傷と、吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた痛み。

それが合わさってか、早くもまわりの景色が歪んで見えて、声もなにか耳に入ってきているが頭の理解が追いつかなかった。

そして――来た。

狙い通りの走馬灯が見えた。

リアムになる前からの人生が一瞬で脳内を駆け抜けていく、リアムになってからの人生はそれまでのに比べて数倍は遅く流れる。

それでもものすごい速さの走馬灯で、それが見えている間はまわりの時間の流れがめちゃくちゃに遅く感じた。

不思議な感覚だ。

時間が流れているのが分かる、それがめちゃくちゃ遅いのが分かる。

たまにある何もすることのない日が、その時間の流れがやたらと遅く感じることがあるが、それと似ているようで圧倒的にスケールの違う感覚。

その感覚の中で走馬灯を見ていた。

やがて、リアムの人生も一巡しようかというところで、時間感覚が急速に戻ってくる。

終わりが近づいているのがわかった。

そして、欲しているイメージをしっかりと体感出来た。

そう思った俺は、感覚が戻ってくるのと同時に回復魔法を自分にかけた。

力を振り絞って自分にかけた回復魔法が急速に腹の傷を塞いで、同時に意識が戻ってきた。

「ダーリン!?」

目の前にデュポーンのすがたがあった。

俺はまわりをみた。

どうやら俺は地面に仰向けで倒れていて、デュポーンは俺の真横にぺたりと座って、真上から顔をのぞきこんできている。

俺は体を起こす――のと同時にデュポーンが抱きついてきた。

「ダーリン――ぐえっ!」

首にしがみつくような抱きつき方をするデュポーンだが、それが実際に抱きつかれる直前にラードーンに引き留められた。

「ちょっと! なにするのよ!」

「今はやめておけ、まだ完治していない」

「うっ……」

「どうだ? しっかりと体感できたか?」

「ああ、イメージは掴んだ。ありがとう――って、シーラ?」

まわりを見回して、シーラの姿を探してお礼をいったが、少し離れたところでシーラの顔が引きつっていた。

「どうしたんだ?」

「なんでもありませんわ」

「きにするな、こやつの殺気を真っ向からうけただけ。必要経費というやつだ」

「ああ……」

なるほどとおもった。

よくよくまわりをみると、さっきまでに比べて軽く地形が変わっていた。

それは見たことがあること、ラードーンら三人が本気で殺し合いをする時の、地形をも変えてしまうほどの力のぶつかり合い。

ラードーンが宣言通りデュポーンを止めたが、デュポーンの殺気をシーラがもろにうけてしまったわけだ。

「わるいな、変なことを頼んで」

「な、なんのことなのか分かりませんわ」

シーラは強がった。

相手が神竜デュポーンとはいえ、殺気だけで怯えてしまうのが恥ずかしくて強がった、ってところか。

ラードーンも目配せしてきている。それで推測が正しかったことがわかって、同時にそれ以上触れないでおこうとおもった。

「にしても……ふふっ」

「なんだ?」

「言い出したお前も面白いが、理屈が分かったからと言ってためらいもなくお前の腹をさせるその娘も面白いとおもってな」

「おもしろいのか」

「うむ」

「全然楽しくないわよ! ダーリン! もうこんな危ないことはやめてね」

「ふふっ、無駄だよ無駄。魔法の事になればこやつは今後いくらでも同じような真似をする。この手の男は止められんよ」

「何分かったような顔でいってんのよ」

「この手の男と番うのなら諦めて見守るしかないということだ。それともやめさせたいのか?」

「……ふん!」

デュポーンは唇を尖らせて、いかにも拗ねた顔でそっぽ向いてしまった。

とりあえずはデュポーンも引き下がってくれたので、俺は今し方体験してきた走馬灯、そのイメージがまだ鮮明に頭に残っているうちに、魔法の製作にかかった。