軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

328.修行部屋

「……ふぅ」

肺にたまった空気をまとめて吐き出し、手の甲で額の汗をぬぐった。

拭った傍から手の甲から滴り落ちるほど、大量の汗をかいていた。

それを見てデュポーンが心配そうな顔で俺に寄ってきた。

「ダーリン大丈夫? つかれてない?」

「大丈夫だ……わかるのか?」

「なにが?」

「魔法が出来たの」

「うん、もちろん!」

「そうか、すごいな。さすが神竜様ってところか」

俺は心底すごいとおもった。

瀕死になって、走馬灯をみた感覚を忘れないうちに急いで新しい魔法を 改良(、、) していた。

いつもより時間と労力はかかったが、どうやら出来た事はデュポーンにしっかり見抜かれていたようだ。

「ううん、ちがうよ」

だからそのことに俺は心底すごいなとおもったが、どうやら少し違ったようだ。

「え? ちがうってなにが?」

「神竜とかじゃなくて、ダーリンの事をよく見てるからわかったの」

「俺の事?」

「出来た時ダーリンの顔がすっごく嬉しそうだったから」

「ああ……なるほど」

てっきり神竜として、魔法的ななにかをかんじとっての事だと思っていたが、そうじゃなくて俺の表情をずっとみてるからその違いで察したんだという。

なんとなく自分の頬をべたべたと触ってみた。

自覚はないが、そんなに違いがあったのかとちょっと驚いた。

「して、何をどうするのだ?」

少し離れた所でラードーンが聞いてきた。

俺と一緒にそっちを向いたデュポーンがするどい目つきと不機嫌な表情をむけて、ラードーンは風に柳のごとしで動じなかったが、シーラはわずかに顔が強ばった。

「ああ――シーラ」

「なんですの?」

「魔剣をもってついて来てくれ」

「わかりましたわ」

「そして――『アイスニードル』」

初歩的な魔法を使って、地面に氷柱を突き立てた。

風にふかれ、道ばたにおちている枯れ木程度の細さの氷柱は、突き立てた直後から解け始めて水が滴りだしていた。

「よし……次は――」

つららを確認したあと、深呼吸して、意識を集中し、魔法を唱える。

直後、目の前の空間に裂け目のような「扉」が出現した。

「ふむ……【アナザーワールド】か?」

裂け目をしばらくじっと見つめたラードーンがそうきいてきた。

「それをベースに改良した」

「ほう」

「シーラ、一緒に来てくれ」

「分かりましたわ」

「二人は外でまっていてくれ」

「よかろう」

「ガンバってねダーリン」

ラードーンとデュポーンに快く送り出してもらって、俺とシーラは【アナザーワールド】によく似た「扉」をくぐった。

中にはいると、これまた【アナザーワールド】のような、何もなくてだだっ広い空間だった。

「ここは……?」

「外から隔離された魔法の空間だ、よほどのことが無いかぎりここでのことは外に影響が出ない」

「いろいろと都合がいい空間ですのね」

「シーラ」

彼女から少し距離をとって、振り向いてまっすぐむきあった。

「なんですの?」

「攻撃をしてくれ、全力で」

「それは構いませんが……なぜですの?」

「後で説明する」

「……分かりましたわ」

少しばかりの逡巡を経て、シーラは持ち込んだ魔剣クリムゾンローゼを構えてとびかかってきた。

目にも留まらぬスピード、そして躊躇のない魔剣のキレ。

それらは前よりも更に一段と上がっているようにかんじた。

しかし今回は真っ向からのぶつかり合い、奇襲を受けたわけじゃない。

心も魔力も万全の準備が調っている俺は真っ向からシーラと渡り会えた。

互いに手の内がわかっている戦いのようなものは小一時間ほどつづいた。

数十度に亘る打ち合いのあと、距離をとったシーラは魔剣を構えたまま聞いてくる。

「これは何が狙いですの?」

「あー……」

「このままでは今までと何も変わりませんし、得るものに限りがありますわ」

「それはそうだ……よし、じゃあそろそろ戻ろうか」

「戻る?」

魔剣を下ろしたシーラは美しい眉をひそめた。

訝しみと、不快感。

彼女にしては珍しい、穏やかだがじとっとするタイプの不快感だ。

なんのためにこんなことを――といっているようだった。

「なんのためにこんなことをさせましたの?」

言われてしまった。

「説明するよりも外にでれば分かる」

「……わかりましたわ」

渋々と引き下がってくれたシーラと一緒に空間からでた。

外にでると、そこにラードーンとデュポーンがいた。

「ほう、もうもどってきたのか」

「お帰りダーリン!」

落ち着いた様子で俺を出迎えるラードーンと、まったく正反対に愛情表現を全身で表現するように抱きついてくるデュポーン。

そして、俺の後に空間からでてきたシーラが不機嫌を残したまま聞いてきた。

「これで何がわかるんですの?」

「あれを見てくれ」

俺はそういって氷のつららを指さした。

空間に入る前につくったつららは大きさほぼそのままで解け続けていた。

「これは………………とけていませんわ?」

しばらくなんの事か分からずにつららを見つめていたシーラだったが、やがてきづく。

俺達は空間の中で小一時間にわたる戦いを繰り広げてきた。

なのにもかかわらず、外に置いてきたつららはほとんど解けていない。

「……まさか」

「ああ――ラードーン、デュポーン。俺達が出てくるまでどれくらいかかった?」

「十秒もかかっていないな」

ラードーンがそうこたえるとシーラはますます驚いて、大きく見張った目で俺をみつめた。

俺は頷き、答える。

「走馬灯のイメージでつくった、人が入っても大丈夫な、中と外の時間の流れが違う空間」

【ダストボックス】とは逆な上、人が中に入ることを前提とした空間。

「走馬灯をみるイメージだから、さしずめ精神と時の空間ってところか」

それがあれば、シーラも思う存分中で魔法を覚えられる、そのためのまほうだった。