軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

277.尊敬される男

「……ふぅ」

やりたい事、そのための魔法を完成させて、俺はホッと一息ついた。

空に地上にと、高速で飛び回ったからか、額に汗がにじんでいた。

そんな汗を手の甲で拭ったところで。

「こちらをどうぞ」

と、横からタオルを差し出された。

ナイスなタイミングだった、このタイミングはエルフメイドの誰かだろうか、いやタイミングがバッチリ過ぎるからリーダーのレイナだろうなと思った。

そう思いながら、タオルを受け取った。

「ありがとう――え?」

受け取って、相手の顔を見た瞬間固まってしまった。

レイナではなかった、それどころかエルフメイドの誰でもなかった。

労をねぎらうためのタオルを差し出してくれたのは、誰であろうアメリアだった。

俺は石のように固まってしまった。

まさかアメリアがこんなことをしてくれるとは思いもよらず、驚きの余り完全に固まってしまった。

「どうなさいましたか、リアム様」

「え? あっ、その……いえ、なんでもないです」

ちょこんと小首を傾げられたので、俺はますます慌ててしまった。

理由は分からないがアメリアがやることにケチをつける訳にはいかない。

このタイミングでタオルを手渡してくれたのだから使えって意味だろう。

だから俺は余計な事を聞かずにタオルで汗を拭った。

「あ、ありがとうございます!」

お礼は言わなきゃ、と、かろうじてそれはまだ分かるからその言葉を口にした。

余りにも緊張していたから言葉が盛大に上ずってしまって、心の中でラードーンが『ぷっ』と噴きだしたのが聞こえてくる。

それで恥ずかしくなって、それをごまかすようにアメリアに話しかけた。

「あ、アメリアさんは、ここで何を?」

「リアム様の事を見ていました」

「お、俺の?」

「はい。先日お話しした――」

「……ああ」

俺はポン、と手を叩いて納得した。

先日、歌うために必要な事として、彼女は俺に丸一日くっついて、ともに行動した事があった。

なぜあの時そうしたのか、その理由は分からなかったが、俺は分からない事の方が多いし、アメリアのそれは「いい歌を歌うため」というおそらく専門的な何かの行動だったはずだ。

ならば俺に分かるはずもない、出来る事は彼女の言うとおりにすることだけ。

そうして丸一日行動した。

あの時と同じということだろうか。

「お、俺の事を観察してたんですか?」

「はい。もう少しだけリアム様の事を知りたくて……ご迷惑でしたでしょうか」

「そ、そんな事はない! 必要だったらいくらでも!」

「ありがとうございます」

アメリアはにこりと微笑んだ。

「リアム様はすごい方だと、改めて実感致しました」

「すごい?」

「今も、魔法の事を考えていらっしゃったのですね」

「ああ、うん。魔法を作ってた」

「何か一つの道を究めた方とまったく同じような、他の全てが目に入らないほどの集中力を発揮してらっしゃったのがすごいと感じました」

「そ、そうですか?」

「心から、尊敬します」

「…………」

自分の耳がおかしくなったようだ。

あのアメリアに尊敬するって言われた。

心から尊敬するって、言われた。

何が起きてるのか分からなくなるくらいの衝撃を受けた。

「い、いまなんて……」

「一つの事と向き合って、脇目も振らず一生懸命で、その道を究める。尊敬に値します」

「…………」

同じことを言われた。

耳がいよいよおかしくなったのかと思った。

……ああ、耳がおかしくなったのか。

だったらしょうがない。

耳がおかしくなって、聞き間違えた事をこれ以上聞き返すのは失礼だ、と。

俺は話題を変えることにした。

「何か必要な事はありませんか? アメリアさん」

「必要な事、ですか?」

「はい。まだ聞いてない何かがあれば。必要なものはなんでも用意しますので、なんでも言って下さい」

「なんでも……ですか?」

「はい、なんでもです」

俺は力強く言い切った。

アメリアの最高の演奏のためならなんでもする、その言葉に嘘偽りはない。

魔法で出来る事ならなんだって出来るだろうし、その他のことならブルーノたちに頼んでなんとかしてもらう。

言葉通り何でもする、という決意を込めていった。

アメリアからどんな言葉が返ってきても驚かずにただ実現に向けて力を尽くすだけ――と、思っていたのだが。

「では、その時は舞台の正面にいて下さいますか?」

「舞台の、正面?」

言われたことは余りにも予想外で、なんとも簡単過ぎることで肩透かしをくらってしまった。

「はい。リアム様に見ていただきたい。それが分かる正面にいていただきたい――」

一呼吸の間があいて、アメリアはうかがうように聞いてくる。

「だめ、でしょうか」

「そんなことはありません!」

俺はあわてて否定した。

「そんな事はありません。むしろそんな事でいいのですか」

「いいえ、一番重要な事です」

「はあ……わ、分かりました。よく分かりませんが、一番正面の……えっと、なんか偉そうな人が座っていそうな席にいます……で、いいですか?」

「ありがとうございます」

アメリアは静々と頭を下げた。

本当にそんなんでいいのかと思ったけど、アメリアが本気でそれを望んでいるっぽかった。

だからそれはきっちり守ることにした。

その後、アメリアと少しだけ打ち合わせをしたあと、彼女と別れた。

アメリアがかえった後の、建設中の会場で一人佇んで、考える。

『よいのか? 当日はお前が国境沿いで守るといっていたが』

ラードーンが聞いてきた。

「なんとかする」

俺はそう言いきった。

具体的にどうするのかはこれから考えるが、アメリアがそう望んできた以上「なんとかする」は絶対だった。

アメリアがなぜそう言ったのかは分からない、分からない以上当日会場にいるのは俺の本体じゃないといけないだろう。

契約召喚で呼び出した分身ではだめだろう。

ならばどうする?

あたらしい課題に、俺はまた集中し、没頭するのだった。