軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270.アメリアのお願い

宮殿の応接間のなか、88弦琴のために集めてきた糸と木、その両方を並べて、ブルーノにいった。

「じゃあ、これとシルクベアの糸、両方とも兄さんに預けるよ」

「はい、お任せ下さい。責任を持ってお預かりします。命に替えても必ずや最高の職人の元までとどけます」

「命かけるほどのことじゃないけど――ちょっとまって」

俺はそう言い、気負うブルーノにいったん待ったをかけて、魔法を使って呼び出しをかけた。

それからわずか十秒、部屋の外からものすごい勢いの足音が大きくなって、近づいてきた。

「これは……?」

「はやいな、呼んで十秒もたってないのに」

不思議がるブルーノに、驚く俺。

その直後、ドアがパン! とめちゃくちゃ乱暴に開け放たれた。

ドアと壁、両方にヒビが入ってしまうほどの勢いとともに現われたのは三幹部のうちの二人、ガイとクリスだった。

「ご主人様呼んだ?」

「それがしにしかできない事とはなんでござろうか!」

普段から「元気」な二人は、いつにもましてさらにハイテンションなまま室内に飛び込んできて、俺にせまった。

俺は慣れたもんだが、ブルーノは二人の勢いに明らかに気圧されていた。

「どーどー、まずはおちつけ」

「そうだそうだ、おちつきなさいよ脳筋」

「イノシシ女こそやかましいでござるよ」

「なにおー」

「ガルルル……」

二人は鼻先がくっつくほどの勢いで、面と向かってにらみ合った。

相変わらず仲がいいなあ、と思った。

「話をしてもいいか?」

「あ」

「無論でござる」

俺の一言で二人はにらみ合うのをやめて、こっちを向いた。

「二人に護衛を頼みたい」

「護衛……でござるか?」

「ご主人様のお兄さんの?」

「厳密にはそこにあるものをな」

俺はそういい、ブルーノの側に置かれている糸と木を指した。

「あれを兄さんが職人さんのところに運んでいって、加工して持って帰る――で、いいんだよな? にいさん」

言いかけて、そこは確認してなかったという事を思い出して、ブルーノに水を向けた。

「そのとおりでございます」

「うん。というわけで、護衛をお願いしたい」

「あたしとこいつが一緒にいくの?」

「仲間も必要なだけつれてっていい」

俺はクリスの疑問に答えてやった。

「大丈夫だよご主人様、あたし達だけで充分、脳筋とその部下とかいらないって」

「いや――」

「イノシシ女は思慮が浅いでござるな」

「なんですって!?」

「主がわざわざそれがしら二人、しかも仲間たちも連れていくだけ連れていく、それの意味をもっとよく考えるでござる」

「え? それだけ大事なものなの?」

クリスはこっちをむいた。

俺ははっきりと頷いた。

「ああ」

「わかった! 絶対にまもる」

「不心得者には指一本触れさせないでござる」

「たのんだ。兄さんもよろしく」

「お任せ下さい。ガイさんとクリスさんがいるのは心強いです」

俺は頷き、彼らを送り出した。

そこまでする必要もないし、シルクベアの糸も雷斬木もその気になれば追加で調達できるけど、余計な回り道をしないですむようにガイとクリスをつけた。

ガイとクリス、そしてギガースと人狼たち。

これだけつければ護衛は万全だろうと思う。

さて……次は。

宮殿を出て、アメリアが宿泊している迎賓館にやってきた。

迎賓館にはいって、メイドに頼んで、アメリアと応接間で顔を合わせた。

俺は材料をそろえて、ブルーノに制作を発注したことを告げた。

「ということですので、そう遠くないうちにできると思います」

「ありがとうございます。リアム様のお手を煩わせて……なんとお礼を申し上げれば」

「いえいえ! こっちがすきでやってるんですから」

俺は慌てて手をふってそう言った。

最高の楽器を作るのは本当に俺の自己満足にしか過ぎない。

むしろそれに付き合ってくれているアメリアに申し訳ないやら感謝やらだ。

「それでも……ありがとうございます」

「あ、うん……えっとその……」

俺は少し考えて、話を逸らすようにきりだした。

「他になんかありませんか?」

「他に、ですか?」

「はい。アメリアさんの最高の歌を聴きたいです。そのためには他に何かできることはありませんか?」

「……」

いったあと、アメリアは無言で俺をじっと見つめてきた。

まっすぐに、じっと俺をみつめた。

「か、顔になにかついてますか?」

俺は慌てて、自分の頬をべたべた触ってみた。何かついている様子はない。

「すごく失礼だとはおもいますが」

「失礼な事は何もないです! なんですか? 俺に出来る事ならなんでもします!」

「リアム様のお側にいさせてもらえれば」

「俺の側……?」

「はい。丸一日、お側にいさせてもらえれば。私のことは気にしなくてもかまいません、いないもの、空気のようなものと思って頂ければ」

「どうしてそれを?」

「もうしわけございません」

アメリアは静々と頭をさげた。

「事前に話すと効果が薄れてしまいます。演奏が終わった後にご説明します」

「わかった」

そういうことならば、と、俺は首を縦にふって、アメリアの要望を受け入れた。

なんでもするつもりでいる。これより百倍、いや万倍難しい事だったとしても普通に受け入れる。

丸一日一緒にいさせろ――なんて、簡単すぎて逆に「そんなのでいいの?」と不安になるくらいだ。

だが、アメリアのことだ。

ラードーンがいつもアドバイスすることと同じように、俺は魔法のこと以外はからっきしだ。

最高の演奏をするためにアメリアがすることなんて想像つくはずもない。

だから俺はすべて任せて、言う事をすべて受け入れることにした。

後日、アメリアから種明かしされたときはめちゃくちゃびっくりして、終わった後なのに大慌てしてしまうのだった。