軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271.演技じゃすまなかった

暮れなずむ頃、街が茜色に染まる中、迎賓館の前でリアムとアメリアが向き合っていた。

「それじゃ、おやすみなさい」

「お休みなさいませ、リアム様」

アメリアが嫋やかに一礼すると、リアムは未だに慣れていない様子で、やや焦りながら返礼してから、身を翻して立ち去った。

アメリアは立ちつくしたまま、リアムの後ろ姿をじっと見守った。

アメリアと別れたリアムの側に、今まで遠慮していたのが丸わかりな位、魔物達が即座に集まってきた。

ぬいぐるみのように可愛らしいスライムがピョンピョン跳ね回りながらリアムになつき、毛虫のお化けのようなフェアリーフロスがまわりをわらわらしている。

それ以外にも多種多様な魔物達が集まってきては、リアムに懐いたりしている。

アメリアはその光景をじっと見つめていた。

それは彼女が前もって聞かされていた「魔王」とはかけ離れた姿だった。

リアムに懐いている者達はモンスター、魔物である。

その国の王なのだから魔王という事で間違いではないだろう。

しかしアメリアの目には、魔物と魔王ではなく、たくさんの動物に慕われている牧場長――のような姿にみえた。

それはとても好ましく思える光景で、それと合わせて、アメリアは今日一日、ずっと一緒にいたリアムの行動を脳裏に思い起こす。

そうして、彼女は 作って(、、、) いった――。

「ねえ、ちょっといい?」

「え?」

背後から声をかけられた。

驚いたアメリアは、リアムから視線をはずし、くるりと身を翻した。

まるでいまそこから出てきたかのように、一人の幼げな少女が迎賓館の正門前にたっていた。

腰に手を当てた尊大な態度をしているが、不思議とそれに嫌みを感じさせず、むしろナチュラルで似合っている。

そう思わせる雰囲気をアメリアは感じた。

「あなたは……」

「デュポーンよ」

「デュポーン…………様?」

アメリアは名乗られた名前を頭の中で探した。

すこし時間はかかったが、それが無理矢理連れてこられたとき、前情報としてパルタ公国の人間に教えられた名前の一つと繋がった。

神竜・デュポーン。

伝説の三竜戦争の張本人の一角で、生ける伝説とも言うべき存在だ。

その名前は聞かされていた、最重要人物だとも言われた。

それでも一致するまでに時間がかかったのは、ひとえに目の前の彼女が群を抜く美少女だったからだ。

仕事柄貴族と接するアメリアであっても、ほとんどみることのないほどの美少女。

一般的には貴族の家の方が美形が生まれやすい。

それは財力と権力をもった貴族の方が、美しい女を見初めて、結果的に美形の血を一族に取り入れていくからだ。

その貴族を多く見てきたアメリアであっても、デュポーンの美しさは際立って見えた。

こんな綺麗な子が神竜……? とアメリアが密かに戸惑っていると、デュポーンがやや唇を尖らせながらいってきた。

「ダーリンを狙ってるの?」

「だー……りん?」

「ダーリンはダーリンよ」

デュポーンはそういい、視線をアメリアの背後に向けた。

その視線を追いかけて、アメリアは首だけ背後をむいた。

その先には徐々に小さくなって、遠ざかっていくリアムの後ろ姿があった。

そこでもやっぱり理解が遅れたのは、まだデュポーンが「神竜」だという意識が強いから。

が、何しろ態度があからさまだから、アメリアは程なくして理解した。

「リアム様の事を好いてらっしゃるのですか?」

「当然でしょう? ダーリンってめちゃくちゃかっこいいもん」

「そうでしたか」

「で、あんた。ダーリンの事狙ってるの?」

デュポーンは改めてそういった、さっきと同じ言葉を繰り返した。

さっきは理解できなかった言葉を今完全に理解したアメリア。

彼女は少し複雑そうな表情をした。

「どうなのさ?」

「狙ってはいません」

「うそ」

デュポーンは即答した。

「どうみてもあんた、ダーリンのこと好きになってるじゃん」

と、更に指摘した。

それはごまかしは一切受付けないという、きっぱりとした口調だった。

アメリアは驚いた、そして感心した。

神竜というのは、人間の感情の機微にまで聡い生物だったのかと感心した。

そんな気持ちをかかえたまま、アメリアは静かに答えた。

「おっしゃる通り、好きに なりました(、、、、、) 」

「ほらやっぱり」

「ですが、それは仕事のためです」

「なんですって?」

デュポーンの目尻がつり上がった。

登場した瞬間から不機嫌そうな表情でアメリアを糾弾するほどの勢いで詰めていたのが、そのアメリアの答えで一段と不機嫌になった。

殺気すら放つその目に、アメリアは背筋が凍るような思いになった。

「なんなのそれ? 納得出来ない答えなら殺すよ」

「……」

アメリアは答えなかった。

一度目を閉じ、自分の胸に出来た思いを確認した。

そうしてから、デュポーンを真っ向から見つめ返して、答える。

「私はいつもこうしています」

「いつも? どういう意味なのよ」

「仕事柄、『この人のために歌う』という事がよくあります」

「で?」

「そういう時は、相手の事を思い人だと思うようにしています」

「……どういう事?」

「その都度相手に恋をして、その気持ちを歌に乗せる――ようにしています」

「………………なんでいちいちそんな事をしているの?」

「そのやり方しかできませんので」

「…………」

デュポーンはじっとアメリアを見つめた。

アメリアはもうたじろぐことはなかった。

デュポーンという存在は今でも少し怖いが、やり取りの中である事がわかった。

アメリアはリアムに同行することを求めた。

それはリアムに密着する事で、リアムに恋しようとしたのだ。

それは彼女がいつもしている事だ。

舞台などでラブロマンスを演技する役者が、舞台上では相手の事に恋をするのと同じやり方だった。

リアムにもそうした。

彼女はリアムに感謝していた。

リアムの求めに応じ、自分が出来る事、最高の歌を聴かせようとした。

だから本気でリアムに恋しようとした。

ステージにあがり、歌い終えるまでリアムに恋する。

それがアメリアの本気だ。

そして今、リアムに恋しているから分かる。

デュポーンのそれは嫉妬だ。

女同士が一人の男を巡る嫉妬。

そう考えた瞬間恐怖はほとんど消え去って、目の前の少女と対等に張り合える勇気がアメリアの胸の中に宿った。

――が。

「うそじゃん」

「え?」

「本気でダーリンのことすきになりかけてるじゃん」

「…………え?」

その事を指摘されて、アメリアは驚いた。

何を言うのかと理解できなかった。

「あたしの事世間知らずのがきんちょだとおもってない? 悪いけど、本気で想ってもないヤツに突っかかるほど暇じゃないからね」

「…………」

デュポーンの言い分は理解した。

しかしアメリアは目を見開き、動きも思考も止まったままだ。

デュポーンの指摘――本気で好きになりかけてる。

アメリアに自覚はなかった――今の今まで。

しかし指摘されたことで、それに気づいてしまう。

そんな事態に陥ってしまうのだった。