軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211.これが終わったら仔作りするんだ

スカーレットの屋敷、そのリビング。

火口から戻ってきた俺は直でここにやってきて、彼女に「竜の巣」を渡した。

テーブルの上に置かれた闇色の石。

空間がそこだけぽっかりと空いてしまったかのような闇を見つめ、スカーレットは目を丸くさせていた。

「これが……竜の巣」

「そうらしい」

「……っ」

スカーレットはおそるおそる手を伸ばして、竜の巣に触れた途端ビクッと引っ込んだ。

「どうした?」

「い、いえ。不思議な見た目でしたもので……」

「ああ」

俺は小さく頷き、微苦笑する。

「よく分からないし、触るの怖いよな」

「は、はい……」

「でも大丈夫だ、俺が保証する。というか、本当に危険なものだったらスカーレットに頼むようなことはしない」

「ありがとうございます……」

スカーレットは感激した表情で軽く頭を下げた。

そして、表情を引き締める。

「では、こちらをもって交渉の詰めを行って参ります」

「たのむよ」

「お任せを。……主様、一つお聞きしてもいいでしょうか」

「どうしたの? 改まって」

俺は小首を傾げて、聞き返した。

問題があったような感じでもなく、スカーレットは真顔で俺を見つめていた。

「竜の巣を入手されたことはさすが主様と感服致しましたが、そもそもここまで用意する必要はなかったのでは? と、思いまして」

「ああ」

俺は小さく頷いた。

確かにスカーレットのいうとおりかもしれない。

交渉を担当していたのが彼女なんだから、ここまでやる必要はなかったと肌で感じているんだろう。

「まあ、感謝の気持ちも少しはあったから」

「感謝?」

「魔法をもらうから、感謝の気持ち」

「そのようなこと――」

スカーレットは何かを言いかけて、ハッと口をつぐんだ。

どうしたんだろう、と思っていると。

『真っ向からお前の意見を否定することにはばかられたのだろう』

ラードーンの指摘で得心した。

なるほどスカーレットらしいと思った。

そう、納得している間に、スカーレットの表情が更にガラッと変わった。

「さすが主様。向こうもきっとのその善意にひれ伏し、相応に答えてくれる事でしょう」

「ひれ伏す必要まではないんだけどな」

「微力ながら、最善の結果を引き出せるよう交渉をして参ります」

「うん、本当にお願い」

死霊魔法がかかってるんだから、と、俺はまっすぐスカーレットの目を見て、いった。

「はい!」

スカーレットの屋敷を出て、王宮に戻ってきた。

これで一通り出来る事は済んだ。

果報は寝て待て、とばかりに俺は自分の部屋に戻った。

死霊魔法の為にいろいろやって、つかれた。

しばらくは自分の部屋でのんびり魔法の研究をするのも悪くないと思った。

そうやって部屋の中にもどってくると、デュポーンがやってきた。

「ダーリン!」

「うおっ!」

腰にタックルしてしがみついてくるデュポーン。

ベッドの上だったから、俺は無理にこらえずにベッドの上に倒れ込んだ。

「ねえねえ、ダーリンもうお休み? お休みならあたしも一緒にやすむ」

「休みって言うか、まあ魔法の練習は続けるけど」

「じゃあ一緒にいる!」

デュポーンはそういい、更に俺に強くしがみつき、頬ずりをしてきた。

今回の一件、順番が後先になってしまったけど、デュポーンにもかなり協力してもらったことを思い出した。

「デュポーン」

「なあにダーリン」

俺にしがみつきながら見あげてくるデュポーンに対し、感謝の言葉を口にした。

デュポーンは一瞬だけきょとんとして、目を丸くさせていたが、やがて更に感激した様子でしがみついてきた。

「ダーリン! ダーリン! 大好きだよダーリン!」

「やれやれ」

いつの間にかラードーンが俺の中から出てきて、ベッドから少し離れたソファーに腰を下ろした。

少し考えて、理解した。

このまま夜になれば【オーバーソウル】でデュポーンを俺の中に受け入れる時間帯になってくる。

デュポーンと仲の悪いラードーンは先に外に出てきた、避難したって訳だ。

二人の仲の悪さはもう筋金入り、年季のはいった物だから、俺は理解しててもそこは触れない様にした。

「そういえば」

と、話題を別の方向に変える。

俺にしがみついてるデュポーンに目を向け、疑問をぶつけた。

「デュポーンには竜の巣はないの?」

「あっ……ごめんなさいダーリン。それ、力になれないかも……」

デュポーンはシュンとした。

それだけで「ない」という答えなのがわかったが、なぜないのか今度は理由が気になった。

「なんでないんだ?」

「前世のあたしね、一カ所でじっとしてられなくて。だからないんだ……」

「なるほど、そりゃシンプルだ」

俺はにこりと微笑んで、頷いた。

これ以上ないくらい単純明快な答えだった。

竜の巣は、ドラゴンが一カ所でじっとしてて、その場所に「色々と染みこんだ」結果出来た物。

一カ所にじっとしていられないタチなら、「竜の巣」が出来ないのも無理はない。

そしてデュポーンがそういうタイプだと言われて――うん、シュンとしている本人には悪いけど、それはすっと納得する理由だった。

「じゃあピュトーンはありそうだな。ずっと眠ってるし」

「あやつもダメだ」

今度は離れた所に座っているラードーンからダメ出しが飛んできた。

「どうしてだ?」

「あやつは確かに一カ所でじっとしてる。年単位で眠ることもある」

「うん」

俺は頷いた。

ピュトーンのそういう所を知っているから、彼女だったら「竜の巣」――金銀財宝ではないほうの竜の巣はありそうだと思った。

「あやつの近くで生き物が次々と死んでいく。それで不純物が混ざりすぎて固まらないのだ」

「不純物が混ざりすぎて固まらない……」

「小麦粉を捏ねるときに水を入れすぎたような状況を想像すれば、まあ間違いではない」

「ああ……」

相変わらずラードーンのたとえはわかりやすかった。

俺は塊にならず、どろっどろに溶けた小麦粉を簡単に想像できた。

ちなみにラードーンは「間違いではない」といった。

だからそれは厳密には違うのだろう、俺にわかりやすく説明する為の例えなんだろう。

それを理解して、「間違いではない」で、わかりやすさ優先で説明できるラードーンをますますすごいと思った。

「ねえ、ダーリン」

「うん?」

「ダーリンが最近忙しくやってる事、もう終わり?」

「ああ、もう終わり、かな?」

俺は少し考えて、言った。

「もともとはパルタとのいざこざをおさめるのが目的。近隣の国とは仲良くしたいからな。今回のことで、とりあえずは和平を結べる所まで持って行けそうだ」

現状を軽くまとめて、言葉にした。

スカーレットは死霊魔法をゲットすると息込んでいるが、それは本来の目的、和平を結ぶついでに出来る事だから、俺も止めずにさせてあげていた。

……まあ、俺自身魔法がすごくほしかったのが大きいけど。

それはともかく、これで一連の騒ぎが落ち着いてくるといいな、と思った。

「じゃあじゃあ、ねえねえダーリン」

「うん?」

「それが終わったら 仔(、) 作り、しよ?」

「子作りかぁ」

俺は微苦笑した。

デュポーンから何回も何回も言われてきたから、今さら「ええっ! 子作り!?」とはならないものの、それでもすこしこまった。

とはいえ、すごく助けになったし、好意そのものも嬉しいし。

俺は少し考えて、頷いた。

「わかった、そうしよう」

「本当!?」

「ああ」

デュポーンは一瞬目を瞠るほど驚いて、それから俺にしがみついてきた。

「ありがとうダーリン!」

「あはは」

ひとしきりに俺にしがみつき、嬉しさを全身で表現した後、デュポーンはパッとラードーンの方を向いた。

「ふふん」

「……なんだ」

「あたし、今回のやつが終わったら仔作りするんだ」

「……で?」

「あたし、今回のやつが終わったら仔作りするんだ」

デュポーンは同じ言葉を、一言一句違えぬように繰り返した。

するとラードーンはわかりにくいが、少し不機嫌になった。

子作りするのはいいけど、仲悪くされるのはちょっと困るな、と思ったのだった。