作品タイトル不明
210.あく抜き
放ったのはパワーミサイル、そしてその源流となるマジックミサイル同様、純粋な魔力の塊だった。
しかし目的が「竜の巣」の入手であるため、余分な破壊を避けるべくアレンジした。
針のようで糸のような、細い魔力の糸が雨あられの如くラードーンジュニアの偽物に降り注ぐ。
次々と肉体を貫通するそれは、貫通して 向こう(、、、) にでてすぐにすっと消えた。
最低限、貫通できる程度の力をもたせた。
貫通した後は力を使い果たしてきえる、そういう風に加減した。
結果、ラードーンジュニアの偽物は全てハリネズミになり、火口の地形には一切影響がなかった。
『ふむ、加減がすばらしいな』
「純粋なエネルギー体に近いから、パッと見ただけでどれくらいでいいのかすぐ分かったよ」
『魔力も着実に成長しているようだな』
「それは詠唱のおかげだな。……詠唱の有り無しで差が段々広がってきてるのが気になるけど」
俺は少しだけ考え込んだ。
ここしばらく気になっていたことだ。
魔法は詠唱の口上ありと無しとで、威力に違いが出る。
最初に詠唱の口上のことを教わったときは、詠唱をしてワンランク上の威力と数をうてた。
しかし最近は2ランク、場合によっては3ランクくらい上のがうてる。
出来る事は純粋に嬉しいのだが、この開きはなんだろうかと不思議に思うこともある。
「おっと!」
突如、地面が揺れてバランスをくずして転びかけた。
慌てて踏みとどまると、目の前の情景が一変する。
なんと、【パワーレーザー】に撃ち落とされたラードーンジュニアの偽物がうごめき、一カ所に集まっていく。
それがかなりの重さをもっているのか、集まって重なっていく度に地面が大きく揺れた。
「なんだこれは」
『うむ、ただの悪あがきだな』
「悪あがき?」
どういう事かと不思議がっていると、すぐにラードーンがいう「悪あがき」の意味がわかった。
ラードーンジュニアの偽物は全て重なった後、溶けて、混ざって一つになり、自らが粘土のように姿形をかえていった。
そうして出来たのが、ラードーンそっくりの巨大なドラゴンの姿だった。
ただし色合いが薄く、およそ生命力というものが感じられない。
なるほど悪あがきか、と納得した。
そういうことならば遠慮はいらないな、と、俺は地を蹴ってラードーンの偽物に肉薄する。
反応の鈍いそいつの懐に潜り込むと、したから手を当てて。
「ふっ!」
と、相当の魔力を込めて、飛行魔法を応用した物をそいつにかけた。
意志があるかどうかも怪しい残滓の塊、知性などあるはずもない。
飛行魔法の逆かけで真上に吹っ飛ばされた。
「……消えろ」
手を真上に突き出し、全力を込めた【パワーレーザー】一発。
ラードーンの偽物――ラードーンの躯体よりも一回り巨大なパワーミサイルが猛然と放たれ、偽物を飲み込んだ。
そのまま空中で「ジュッ」という音が聞こえてきそうな光景のあと、偽物は跡形もなく消滅した。
手応えがあったし、完全に消えただろうと確信する。
少し溜飲がさがった。
順番がおかしいかも知れないが、一発で消し飛んだ後ますます腹が立って、それが一瞬でおさまった。
ラードーンはあんなもんじゃない。
俺の一撃で消し飛ばされる程度の残骸がラードーンの姿になるなんて許せないし、それを一撃で消し飛ばすことですっきりした。
「……さて」
俺はぐるり、とあたりを見回した。
一掃した火口を見回して、目当てのものをさがした。
だが、そもそもよく考えてみたら。
「竜の巣って……どういうものなんだっけ」
俺は困った顔でラードーンに聞いた。
ラードーンから話は聞いたが、よくよく考えたら聞いた話の中に見た目とか特徴とか、そういうのはなかった。
『うむ』
短い相づちのあと、俺の体の中からラードーンが出てきた。
いつもの人型、可愛らしくも威厳のある幼げな老女の姿だ。
でてきた彼女は、腰を当ててさっきの俺と同じように、ぐるっとまわりを見回した。
「我がよくいたのは……このあたりだな」
ラードーンはそう言って、特に何の変哲もない、岩肌の地面の場所に移動して、つま先でとんとんとそこを叩いた。
「そこを……掘ればいいのか?」
「うむ、なるべく慎重に、土だけ掘り起こす感じでな」
「それなら簡単だ――【ノーム】!」
俺は召喚魔法を唱えて、精霊ノームを召喚した。
可愛らしいマスコット人形のような、土の精霊ノームが姿を現わした。
「この真下にある、岩とか土とか、そういう自然物だけ取り除いてくれるか?」
俺の頼みにたいし、ノームは可愛らしい仕草で応じた。
そして、その可愛らしい見た目とは裏腹に、土の精霊らしく大地を「操作」しだした。
大地に連なる岩とか土とかがかなりの勢いで取り除かれていく。
しばらくして、ノームが動きをとめて、こっちを見てきた。
土が取り除かれて出来た穴の中をのぞき込むと、そこに手の平サイズの石、黒曜石のような黒い石があった。
穴の中に飛び込んで、腰を屈んで石を拾い上げる。
今まで地中に埋まっていたのというのに、それは不思議と人肌のような「温もり」が感じられた。
俺はそれを持ったまま顔を上げて、穴の上からのぞき込むラードーンに見せた。
「これなのか?」
「うむ」
「よし」
肯定をもらった俺は、それをもったまま穴から飛び出して、ラードーンのそばにたった。
「これが『竜の巣』か」
「うむ」
「へえ……」
改めて、まじまじとその石を見つめた。
人のぬくもりが感じられるのは不思議と言えば不思議だけど、こんな物が贈り物としてかなりの価値があるもの……というのがちょっと信じられなかった。
とは言え、世の中は俺が理解できない事の方が多いんだ。
ラードーンが「竜の巣で間違いない」と太鼓判を押す以上、何も考えずにこれを持って帰るのが一番だろう。
「せっかくだ、『あくぬき』でもするか?」
「あく抜き? 料理のあれか?」
「うむ、大昔に人間がそう例えたのが面白くてな」
「へえ」
「これにはまだ不純物が混ざっている。それを抜いた方が人間からみて価値があがるようなのでな」
「なるほど、話はわかった。その『あく』ってのはどういうものなんだ?」
「さっきみたばかりではないか」
ラードーンはにやり、と口角をゆがめて笑った。
幼げな見た目と相まって、いたずらっぽい笑みにみえた。
「さっきみた……ああ、あれか」
俺はラードーン達の偽物の事を思い出した。
「うむ。あれはこれから漏れ出してあつまったものだ。年月とともに少しずつ漏れ出す、それで『熟成』させた方が高値がつくそうだ」
そういいながら、ラードーンはくつくつとおかしそうに笑う。
「面白いたとえをするんだな」
「うむ、それを初めて聞いたときは腹を抱えて大笑いしたよ。我にゆかりのあるものを『あく抜き』だの『熟成』だのと言われたのは後にも先にもこれしかない」
「なるほど」
俺は微笑みかえして、自分が持っている石をみた。
「わかった、じゃあそれを抜こう」
「そうだな、ならそのやり方を――」
「いや、大丈夫、やれる」
「――探そう、って、ふむ?」
「みててくれ」
俺はそう言い、持っている石にむかって、空いているもう片方の手をかざした。
触れるか触れないか程度の距離で、手の平を近づける。
そして、目を閉じる。
目を閉じて、他の感覚を研ぎ澄まして、感じ取る。
そして――抜く!
カッと目を見開いて、石の中から感じ取った「あく」を抜き取った。
抜き取られたものは空中で集まりだしたが、パワーミサイルでそれを即座に消し飛ばす。
「……よし」
石は真っ黒になった。
漆黒よりも更に黒、黒なのにそこには何もみえないほどに真っ黒。
闇。
最初に闇という言葉を作った人間はきっとこれをみたんじゃないか、って思ってしまった。
そんな事を思いながら、闇となった石をみていると、横からラードーンが少し驚いた顔で聞いてきた。
「いまのは……前にやったことがあるのか?」
「いや、された事があったから」
「されたことが?」
「離昇の手伝い。あれと理屈は一緒だって思ってね」
「ふははははは、さすがだな」
ラードーンはそういい、めちゃくちゃ愉しげに笑ったのだった。