軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.火炎魔法、始めました

「あ、あのぉ……」

書斎の中。

リアム(俺) の父親、チャールズ・ハミルトンが立派な執務机で何か書き物をしている。

俺が部屋に入ってきてからも、一度も顔を上げることなく、ずっと何かを書き続けている。

「リアムか、なんだ」

チャールズは顔を上げないまま聞いてきた。

「その、魔導書のことなんですけど」

「魔導書? 何かあったのか?」

「いや、書庫にある魔導書って持ち出してもいいんですか、と」

昨日この体に乗り移ったばかりの俺。

いきなり貴族になって、作法とかまるでわからないまま、敬語もどう使っていいのかわからないまま、たどたどしくチャールズに聞いた。

「魔導書の持ち出し? 読みたいのか」

「はい」

「勝手にしろ」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「他になにかあるのか?」

「いえ、それだけです」

「だったら下がれ、私は忙しい」

「わ、わかりました」

俺は身を翻して、書斎から立ち去ろうとする。

最後に振り向いてチャールズをみるが、向こうはずっと何かを書いていて、こっちを見ない。

廊下に出た、ドアを後ろ手で閉めた。

入室して、話して、退出した。

その間、チャールズは一度も顔を上げることはなかった。

拒絶さえもされない。

ただただ無関心。

「ブルーノの気持ちが少し分かるな」

思春期でグレて、将来に希望無しといって学ぶ事をやめた四男にちょっとだけ共感を覚えた。

許可を得た俺は、書庫から魔導書を持ち出して、屋敷の庭に出た。

この地の領主でもあるハミルトン家は、屋敷といってもちょっとした「お城」みたいな広さだ。

庭に続く裏にある林など、ちょっとした村が一つ丸々収まってしまう位には広い。

何せ、建物から出る前に、近くにいたメイドを捕まえて「どこまでハミルトン家の物?」って聞いたら。

「見えている所全てでございます」

というものすごい答えが返ってきた。

お貴族様ってやっぱりすごいんだな。

ちなみにこのまま代替わりして、平民になってしまうと、領地どころかこの屋敷さえも国に召し上げられるらしい。

そりゃあ必死にもなるな、と思った。

そんなだだっ広い、ハミルトン家所有の林に入って、ほどよく開けたところで、地べたに腰を下ろして、「初級火炎魔法」の魔導書を開いた。

両手で魔導書を開いたまま、書かれてる事を実践する。

集中して、呼吸の仕方を実践して、強くイメージする。

三分くらい集中してやり続けていると、目の前の約一メートルくらいのところに、薄く長く伸ばされた「炎」が現れた。

炎の刃、初級火炎魔法の一つだ。

魔導書が「魔導書」たるゆえんは、それが「ガイドブック」になっているという点だ。

魔導書を持ったままだと、覚えていない魔法でも使うことが出来る、魔導書がサポートしてその魔法を使えるようになる。

ただし使えるまでが長いし、魔導書を持っていない時は使えない。

実際、試しに魔導書を手放してみると、作り出した炎の刃がたちまち消えてなくなった。

「毎日こなせば、徐々に発動間隔が短くなる、最終的には本書無しでも発動できるように身につく、か」

開いた魔導書のページを読みあげる。

要するに赤ん坊のよちよち歩きの時に与える歩行器みたいなもんか。

魔導書を持ったまま魔法を練習し続けると、最終的には魔導書無しでも使える様になる。

憧れの魔法は意外と簡単だし、お貴族様達がそれを大事に財産としてしまっておく理由も分かる。

俺は、魔導書で炎の刃――フレイムカッターの練習を続けた。

他にやることはなかった。

この体に乗り移る前までなら、毎日仕事に行かなきゃならないところだが、リアムになってからはそうする必要はない。

むしろ五男とはいえ貴族だ。

あくせくと働くのはみっともない行為だと見なされる。

働く必要がなくなった俺は、魔法の練習だけを続けた。

憧れの魔法の練習が出来るのは嬉しいから、毎日毎日魔法の練習を続けた。

魔導書を持った発動の時間が日に日に短くなっていく。

それがはっきりと体感できて、練習にも身が入る。

来る日も来る日も、俺は魔法の練習を続けた。

「いたいた、こんなところで遊んでたのか」

「ん? ブルーノ兄さん」

この日、林でいつものように練習をしていたら、ブルーノがやってきた。

リアムになってから早一ヶ月、ハミルトン家の事はかなり分かってきたし、慣れてもきた。

俺は何の違和感もなく、グレかけの四男ブルーノを兄と呼んだ。

そのブルーノは「はっ」って顔で、大股で近づいてくる。

「魔法の練習をしてるんだってな」

「うん、父上に魔導書の使用許可はもらってるよ」

「そんなの知ってる、当たり前だろ。あいつは今、サラをどうにかして妃か次の皇后にする事しか頭にない、俺達のことなんてどうだっていいのさ」

「あはは……」

ブルーノのいうとおりだった。

俺が魔導書の許可をもらいにいった時もそうで、この一ヶ月ずっとそうだった。

まともに目を合わせたことは無く、会話をしてもチャールズはいつも別の事をしている。

「で、どこまで覚えたんだよ。やって見ろよ」

「うん、そうだね……」

俺は魔導書を地面に置いた。

ちなみに魔導書は特殊なマテリアルコーティングってのをされてて、よほどの魔力による攻撃でもなければ傷はつかないし汚れもしない。

魔導書を置いた俺は、目を閉じて集中し、目の前に炎の刃――フレイムカッターを作り出した。

「こんな感じかな」

「……え?」

「どうしたの兄さん」

「ま、魔導書無しで……魔法を使える?」

「へ?」

「ば、ばかな。魔法を完全に覚える、魔導書なしで使えるようになるには普通一年はかかるはず……わずか一ヶ月で覚えたというのか……?」

ブルーノは、思いっきり驚いていた。