軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197.神竜の成長

「死んでみる?」

俺はさすがにビビってしまった。

今まで、ラードーンからこんな直接的な脅迫じみた言葉を向けられた事はなかったからだ。

だから、何かの冗談だと思った。

「……」

――が、すぐに思い直した。

ラードーンの口調は冗談を言っているようには聞こえないし、そもそもこういうストレートな冗談を言うキャラでもない。

ラードーンが冗談を言うときは、もっと遠回しというか、皮肉的になるものだ。

「どういうことなんだ?」

(うむ、死霊魔法を扱う前提条件だが、一度死者か、それと同等の存在になる必要がある)

「だから一度死んでみるか、なのか」

(そうだ。だがもちろん、本当に死んでしまっては話にならん)

「うん」

俺は、はっきりと頷いた。

それくらいは俺にも分かる。

「じゃあどうすればいいんだ?」

(人間の、生と死の狭間に「離昇」という状態があると死霊術士の開祖が見つけた)

「りしょう……」

(早い話が仮死――死んでいるが死んではいない状態、だな)

ラードーンはそう言い、喉を鳴らしてくつくつと笑った。

うん、やっぱりこっちだ。

死んでいるが死んではいない状態――ラードーンの冗談はこういうわかりにくいのが聞いていてしっくりくる。

「つまり……その離昇という状態でから急いで回復? 復活? をすれば、一回死んだって事になって、死霊魔法が使えるようになるって事か」

(そういうことだ)

「それはどうすればいいんだ?」

(うむ)

返事の直後、俺の体の中から光が溢れ出した。

そして光が集まって、ラードーンの姿――幼げな人間の少女の姿になって、俺の前に現われた。

「なんで?」

(理由は二つ。一つは実際にイメージを見てもらうため。もう一つは――)

ラードーンはにこり、と、楽しげに笑った。

「話を聞けばお前はすぐに試したくなるだろう。魂と肉体、そして生死の話だ。そうなった時我が中にいれば都合が悪かろう」

「なるほど」

俺は納得し、頷いた。

するとラードーンはぐるりと周りを見回した。

直前までブルーノとスカーレットと会っていた、今は二人っきりになった部屋の中を見回した。

そして何かを見つけたのか、ソファーと並んでいるテーブルに近づいていった。

手をすっと差し出すと、軽々とテーブルの端っこをへし折った。

俺の手首ほども厚みのあるテーブルだったが、ラードーンはいとも簡単にへし折った。

そして両手を合掌する形で、へし折ったテーブルのかけらを挟んだ。

幼げな少女の細腕が、まるで万力のように木材を圧縮していく。

彼女の手の中からミシミシという音が聞こえてくる。

ラードーンは指と手の平の位置を何度も変えながら、何かを微調整した。

しばらくして、両手を離すと――。

「……ブーメラン?」

「うむ」

頷くラードーン、それを無造作に放り投げた。

即席で作られた小さなブーメランが、広い部屋の中でぐるっと一周して、ラードーンの手元に戻ってきた。

形から想像出来たことだから、ブーメランがただ飛んで手元に戻ってきた――という光景はなにもおかしい所は無くて、それが逆に「何の意図なのか」と俺は不思議に思った。

「人間の魔力というのは、そのまま魂のサイズや質と繋がっている。お前の魔力が高いのもその魂の大きさが故だ」

「なるほど」

「そして人間が死ぬ瞬間、魂は急速に拡散し、肉体から離れてしまう。このわずかな一瞬の状態を『離昇』とあの死霊術士連中は名付けた」

「なるほど……」

その都度頷きながら、ラードーンの説明を心の中に深く刻みつける。

ラードーンは直接口に出さずにいたが、話の流れで分かる。

この話は、「生きるか死ぬか」の話だ。

それを理解した俺は普段よりも真剣にラードーンの話に耳を傾けた。

「やり方は簡単だ。離昇中に拡散し失っていく魂を同時に復元すればよい。魂と同じ魔力でな」

「……つまり、同時に回復魔法をかければいいのか」

「理屈はそうだが、実際は不可能だ」

「なんで?」

「さっきも言ったが、離昇という状態は死んでいるが死んではいない状態だ」

「うん」

「死んでいる状態では魔法は使えぬ。それは人間である以上不可能だ」

「じゃあ……」

俺は更に考える。

かなり真剣に考えた。

ラードーンのいう「不可能」はあえて頭から追い出すように意識して考えた。

もっと言えば、魔法は使えないかもしれないが、離昇状態からの回復は可能――という前提で考える。

ラードーンがさっきこう言った。

『我が中にいれば都合がわるかろう』

と。

つまりラードーンは「可能」だと知っていて、そして俺がすぐにでも始めるだろうと思って、あらかじめ外に出てきた。

だから俺も「可能」というのを前提に考えた。

「……時限式で発動する回復魔法をしかけておく、か?」

「半分正解――いや100点だ」

「え?」

俺はきょとんとなった。

半分正解と百点――かけ離れた二つの評価の真意を図りかねてしまった。

「ふふ、お前は悪くない。お前が想像しやすいように魔法でと言い換えただけだ」

「魔法でと言い換えた?」

「そうした方が発想――いや理解が深まるだろうとな」

「はあ……」

なんで今回だけどそんな事を? と思った次の瞬間、聞く前にラードーンが理由を話してくれた。

「命に関わることだ、万全を期すためにな」

「あっ……」

そういうことだったのか。

「ふふっ、これはお前に礼を言うべきところかもしれんな。お前のおかげで我もこうした搦め手を思いつく程度には成長――ひゃっ!」

ラードーンは小さな、可愛らしい悲鳴を上げた。

気付いたら体が動いていた。

感謝の気持ちがあふれて、気付けばラードーンの小さな体を抱きしめていた。

「ありがとう、本当に」

「ん、んむ……」

抱きしめられたラードーンは、俺の腕の中で顔を赤くさせていたのだった。