軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196.死んでみようか

「では、私は戻ります」

ブルーノはそう言って、立ち上がった。

「戻る?」

聞き返すと、ブルーノは俺に向かって恭しく、微かに微笑んだ表情を浮かべ、言った。

「この先、パルタ公国との交渉がより大事になってきます。情報はあればあるほど良いかと存じます」

「あっ……」

「得られた情報は逐次お送りします」

「うん、ありがとう兄さん」

ブルーノはふっと微笑み、最後に一度大きく頭を下げてから、退出した。

「では主様、私も」

「スカーレットはどこに?」

「使節団の所です。まずは正使のマーティン・ハイモアと会って、打診と探りなどを入れてきます」

「大丈夫なの? それ」

「お任せ下さい」

スカーレットは自信たっぷりに言った。

その表情は頼もしかった。

打診と交渉は得意じゃないというのもあるが、そんな頼もしい表情をするスカーレットを見ると全て任せるしかないと自然に思えた。

「分かった。任せる」

「はい」

(伝言を)

「え? あっ……ちょっと待って、ラードーンから伝言があるって」

「――っ! はい」

スカーレットはビシッと、背筋をピンと伸ばして、緊張した顔つきに変わった。

もともと「神竜」を敬い畏れていたスカーレットだ、普段はあまりない、神竜=ラードーンからの伝言に顔つきが真剣になった。

(来るはずの嵐はデュポーンが吹き飛ばした、安心して滞在するといい――と伝えるといい)

「――だって」

「承知致しました! お心遣い感謝致します」

スカーレットはそう言って、もう一度頭を下げて、それから部屋を出た。

さっきまでブルーノとスカーレットがいた部屋が俺 一人(たち) だけになった。

「ラードーン、今のは?」

(ただの脅しだ。嵐が消えた理由が伝わっておらぬ可能性もあるのでな、せっかくだし交渉材料に使えばよいと言ったのだ)

「……うん?」

(神竜を操り、天候さえも意のままにする力があるぞ、ということだ)

「あっ、なるほど」

そういう事だったのか。

うん、確かに。

嵐を吹っ飛ばした直後は、使節団達は大事な客人だし、無駄な心配とか掛けさせないように、そもそも嵐が来そうだった事さえも伝えなくていい、と言った。

どのみち嵐は消えたんだし、よほどの漁師でも「嵐が来る」と言ってはずれる事も珍しくない。

天候というのは、ほとんど神の気まぐれのようなもので、前の晩まで兆候があっても翌朝起きてみれば何もなかったというのも珍しくない。

嵐は来なかった、それだけの事なら何も伝えなくても大丈夫だ。

でも状況は変わった。

スカーレットが持ってきた情報、パルタ公国が所有している死霊魔法の存在。

それが欲しくなった俺のために、ラードーンはスカーレットに交渉材料に使えるというアドバイスをした。

「さすがラードーン。俺はもう嵐の事はすっかり忘れていたし、交渉に使うって発想もなかった」

(お前は……好きな魔法の事だけを考えていればよい)

「ありがとう」

ラードーンの言葉に甘えて、俺は魔法の事を考えることにした。

「死霊魔法、か……死者の魂を捕まえて、使役する魔法のことだよな」

(死霊魔法と一言で言っても、大別して二種類ある)

「二種類?」

(うむ。魂のまま使役するのと、肉体を用意してそれを使役するといった、その二種類だ)

「あっ、なるほど」

俺は頷き、考えた。

ラードーンが教えてくれた二種類の形を頭の中で想像する。

「あれ?」

(どうした)

「肉体を用意して使役するのって――いや、そもそも魂のままでも本質は同じことなのか?」

(ふむ?)

「それって、【ファミリア】と似ているよな」

ラードーンから聞いた話で俺はそう思った。

【ファミリア】

この街――いや国の魔物達みんなにかかっている魔法。

アスカやジョディなど、一部の人間にもかけている魔法。

使い魔にする魔法で、俺はそれを行使したことはないが、【ファミリア】で契約を交わすと、強制力をもって相手に絶対遵守の命令を下すことが出来る。

「生者と死者の違いはあるけど、本質的には一緒だよな」

(ふふ、さすがだ。お前はやはり魔法のことになると頭の回転が速い)

「じゃあ合ってるってことか」

(うむ)

ラードーンは心の中で、まるで頷いたのが見えそうな位の勢いで肯定してきた。

(その一面は確かに同じだ。ただし違う所もある)

「違うところ?」

(生者と死者の差だ)

「生者と死者の差?」

……。

どういうことなんだろう。

生者と死者の差って……いや差はもちろんあるだろう。

むしろありすぎて――。

「どれのことなんだ?」

とラードーンに聞き返した。

(ふふ、そうだな、我が悪かった。魔法に絞って考えるといい。それでも少し遠いのかもしれないがな)

「…………」

俺はラードーンに言われたとおり、魔法に絞って、生者と死者の差を考えてみた。

ここで聞き返してもラードーンはあっさり教えてくれるだろう。

だけど、ちょっと意地がある。

ラードーンは「魔法に絞って考える」といった。

つまり魔法のことだ。

魔法のことなら――自分で解き明かしたい、そのクイズを解きたいという意地がある。

だから俺は考えた、他の事だと「分からないしいいや」ってあっさり諦めてたのが、魔法のことだから一生懸命に考えた。

(少し遠いからわからんか。ヒントをやろう、死者がなくした――)

「魔力、か?」

(ふむ?)

「【ファミリア】と死霊魔法の違い。【ファミリア】は生きてる相手にかけるもの、命令を下し使役しても相手は生きてるから自分の力で活動する。でも、死者はそうじゃない、死んでいるから……活動させるためのエネルギーは魔法を使った人間が与えなきゃいけない、じゃなきゃ動けない」

(満点だ)

ラードーンは優しい口調で褒めてきた。

俺は嬉しかった。

魔法の事だったから、自分で解き明かせてよかった。

ラードーンがヒントを出す直前に解き明かせてよかった。

(さすがだな。少し魔法の事から離れているから難しいとは思ったのだが)

「なんとかな」

(さて、それを解き明かしたお前に一つやらなければならない事がある)

「やらなきゃいけないこと?」

(うむ、死霊魔法を使うにあたって大事なことだ。これを体験していなければ事実上無理だろうな)

「何をすればいいんだ?」

俺は、自分の心の中にいるラードーンに、まるで食ってかかるように聞いた。

ラードーンから微笑むような感情が伝わってきた、その直後。

(まずは、死んでみようか)