軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193.人知を越えた速さ

夜、自分の部屋に一人でいた。

『えへへ……ダーリンの中、ダーリンと一緒……』

もとい二人――いやラードーンも入れて三人でいた。

夜になったから、約束通り【オーバーソウル】で魂の大きさを一時的に大きくして、デュポーンを体の中に迎え入れた。

ラードーンもそうだけど、彼女達が俺の中でどうなっているのかは分からないが、声を聞く限り幸せそうだから良いかなと思った。

そんなデュポーンも特に俺に向かって何かを言ってくることはないから、俺はいつものように、 一人で(、、、) いるときの感じで魔法の事を考えていた。

ラードーンのアドバイスであの場はとりあえず収まったが、やっぱりというか、今こうして幸せそうにしてるデュポーンの姿を見れば、最終的には【オーバーソウル】を常に使えるように出来たほうがいい。

だから、俺はそれを見つけるために【オーバーソウル】を一から見直していた。

ふと、ラードーンのほうから話しかけてきた。

『あまり根を詰めない方が良いぞ』

「うん? なんのことだ?」

『その魔法のことだ。一から組み直すとなると相当に消耗するはず、かといって必ず成功するとも限らん』

「それなら大丈夫」

俺はふっと笑い、【オーバーソウル】の改良を考え続けながら、ラードーンに返事をした。

「魔法ならなんでも出来るはずだ」

『むぅ?』

「魔法は奇跡の力、なんでも叶える奇跡の力だ。望んだことはなんでも出来る」

『……ずいぶんと入れ込んでいるのだな』

「だって魔法だから」

俺はまたまた笑った。

前の人生、魔法にいくら憧れても門すら叩けなかった時の事を考えれば、これだけ魔法を考えて、実現出来る力があれば絶対に魔法でなんでも叶えられるはずだ。

確かに、この【オーバーソウル】のように、突き詰めていった先は労力に見合わないかもしれないし相当な苦労もするかも知れない。

それでも、魔法ならなんでも――って俺は思う。

『……そうか。我がたわけだったようだな』

「え?」

いきなり自分を批難する言葉を口にするラードーン、一体どうしたんだろうかと俺の手が完全に止まって、首をかしげてしまった。

「どういう意味なんだそれ?」

『最初に感じた通り、体に似合わず大きな人間だったという話だ』

「はあ……」

確かにラードーンは最初に会った時にそんな事を言った。

というかそれがデュポーンも体の中に収める【オーバーソウル】に繋がったんだけど、なんで今それをまた言うのかが分からなかった。

分からなかったが、ラードーンが完全に黙る感じになった。

ラードーンとの付き合いも相当に長くなってきた。

こんな感じの時はもういくら話しかけても返事は来ないだろうと分かる。

だから俺は、ラードーンとのやり取りで生まれた疑問を飲み込んで、再び【オーバーソウル】の研究に戻ることにした。

その時だった。

目の前に魔力の光が煌めいて、はじけ飛んだ。

「手紙か?」

それはリアムネットの通知だった。

リアムネットを使って、俺に手紙が送られてきたらこういう風にわかりやすくなるようにしていた。

俺は魔法を詠唱、リアムネットを使って、俺に出された手紙を開いた。

「ブルーノか」

手紙の差出人はブルーノだった。

ブルーノはあくまで「立場をわきまえて」「へりくだる」が、今や彼は俺にとって、人間での最大の協力者になったと言っても過言ではない。

そのブルーノと連絡が取りやすいように、彼もリアムネットを使える様にした。

そんなブルーノから送られてきた手紙は、全く予想だにしなかった内容だった。

深夜の迎賓館、押しかけるような形になった俺を、マーティンとドミニクの二人が正装で出迎えた。

迎賓館の応接の間で、俺と二人が向き合う。

「陛下にわざわざお越し頂いて恐縮です。何かありましたら人を使えばいつでもこちらから参上――」

「それよりも教えたいことがある。多分大変な事だ」

「た、大変な事、ですか……?」

ごくり、とマーティン達が生唾を飲んだような声が聞こえてきそうな、二人の反応だった。

「大公殿下が暗殺未遂に遭われたらしい」

「……え?」

「な、何を」

二人はわかりやすく動揺した。

いや、困惑した、のか?

「近くに居た大公夫人が身を挺してかばったから大公殿下にケガはなかったようだが。さすがに一大事だろうから、知らせにきたんだ」

「ま、待ってください陛下」

マーティンは手を突き出し、俺の言葉を遮りながら、聞いてきた。

「それは、いつの事ですか?」

「今日の昼間だ」

俺はブルーノからの手紙に書いてあったことをそのまま告げた。

事情でパルタ公国を訪ねていたブルーノが偶然その情報をキャッチして、いち早く俺にリアムネットで知らせてくれた。

さすがに重大な事だというのが俺にでも分かるから、もう深夜の時間帯だけど迎賓館に来てマーティン達に知らせた訳だ。

しかし、その話を聞いたマーティンとドミニクは視線を交換してから、苦虫を噛み潰したような顔で俺をみた。

「どうした?」

「今日の昼に起きたことがもう分かったのですか?」

「ああ」

頷くと、二人はますます複雑な表情をした。

どういうことなんだ?

『かまわん。伝えることは伝えた。今日の所は引き上げておけ』

ラードーンのアドバイスに、俺は無言で小さく頷いた。

ラードーンがそう言うのなら間違いないと、俺はすっくとソファーから立ち上がった。

「じゃあ、とりあえず伝えたから」

「あっ、少々お待ちを――」

マーティンが引き留めてこようとするが、既にラードーンからアドバイスをもらっていた俺はにっこりとほほ笑み返すだけで、脇目も振らずゆっくりと迎賓館を出た。

迎賓館を出て、夜でもなお活気づいている街中を歩いて、宮殿に戻る。

俺は歩きながら不思議がった。

「なんでいきなり暗殺なんて事になったんだろう」

『我にも理解しがたいが――似たような状況はよく見てきた』

「そうなの?」

『うむ、人間どものつまらぬ権力争いの一環であろう』

「そうなんだ」

『お前が頭を悩ます必要の無いことだ。早くて明朝、遅くても夕刻には次の進展があるが、それまで考えずとも良い』

「わかった」

俺は頷き、忘れることにした。

そういうことならば、と。

俺はラードーンの言葉に甘えて、その事を忘れて、再び魔法の事を考えることにした。

デュポーンのため、【オーバーソウル】を早くなんとかしたかった。

果たして、ラードーンの言う通りだった。

翌日の昼、迎賓館の中。

マーティンとドミニクは前の日の夜以上の、苦虫を噛み潰したような顔で顔を突き合わせていた。

マーティンの手には、公国から届いた急報が握り締められている。

「本当に……大公殿下が暗殺未遂に遭われていたとは。しかも奥様の事まで陛下の言うとおりだ」

「一体どういう事なのですかマーティンさん。この知らせは火急、最速で我々の所に届けられたものですよね」

「ああ……最速でも今、まる一昼夜だ。それをリアム陛下は昨晩には既につかんでいた」

「一体どういう事なのでしょう」

「……」

マーティンは強ばった顔で考えた。

「この事を詳細に手紙にしたため、大公殿下に報告するのだ」

「な、なぜですか――あっ、もしやリアム陛下が真犯――」

「そうであればいいと、私は願っている」

「え?」

ドミニクはきょとんとした。

上司の言葉が理解出来なかった。

「どういうことですか?」

「もしリアム陛下が真犯人なら情報を早くキャッチしたことの説明がつく……理解出来る。しかし、もしそうでないのなら」

「……なら?」

ゴクリ、と生唾を飲むドミニク。

「情報は力だ。圧倒的な速さ、我々の想像では決して及ばないような速さで情報を把握、伝達できるリアム陛下――この国とは決して敵対してはいけない」

「――っ! す、すぐに手紙にします」

マーティンは頷き、ドミニクは部屋から飛び出していった。

一人残されたマーティンが、まじまじと自分の手にある一昼夜かかった急報を見つめ、

「……化け物が」

と、呟いたのだった。