軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164.立場が人を作る?

父上を一旦待たせて、俺はスカーレットの家に来て、彼女の意見を聞いた。

ジャミール王国の事は、王女の彼女の方がよく知っていると思ったからだ。

スカーレットは少しだけ考えた後、答えた。

「もっとも簡単な方法は、主が妹の事を妃に推挙することです」

「俺が妹を妃に?」

「はい、それが現状もっとも簡単で、もっともすんなり受け入れられる方法です」

「……それがあったか」

俺ははっとした。

目から鱗だ。

「主のご実家の事は少し調べています。お父上がそれを望んでいますが、まだそうはなっていないようです」

「なってなかったんだな」

思えば、俺がリアムになったのは、妹が生まれたパーティーが最初だったな。

妹――つまり娘が生まれて、王国で立てられる一番簡単な功績の、国王の妃にするという可能性ができたためのパーティーだ。

あのパーティーで、俺はリアムになった。

それから大分経つ、経つが――妹はまだまだ赤ん坊のままだ。

そりゃ……まだだろうな。

「今の主なら、推薦をすればすぐに受け入れられるでしょう」

「そうなのか?」

俺はちょっと驚いた。

スカーレットの口ぶりに迷いは一切無くて、かといって過度に力説しているわけでもない。

淡々と、ただ事実を述べている、という感じの口調だ。

「はい。ジャミール王国と致しましても、主との関係を今よりも更に良くしておきたいと思っています。元からそうで、ここ最近ますますそう感じるようになりました」

「ますますって、どうして?」

「デュポーン」

スカーレットはシンプルに、その名前だけを口にした。

「デュポーン?」

「ラードーンと同じ、三竜戦争の主役の 一頭(ひとり) 。そのデュポーンが主に心酔している。その事はまだ庶民には伝わっていませんが、各国の首脳達は間違いなく掴んでいます」

「そうなんだ」

それはなんか……恥ずかしいな。

「そうなると、三竜戦争の三竜のうち、 二頭(ふたり) までもが主に好意的となりました。その戦力は、最大まで評価した場合、国が滅びるものです」

「最大まで……」

ラードーンとデュポーンが力を合わせて、全力で敵に回った、って意味か。

うん、それは……国が滅びかねないな。

「そうなると、主とますます友好を結んだ方が得だし安全だ、と普通は考えます」

「なるほど」

「従って、今の主が『妹を妃に推薦したい』という話は120%通るかと」

「そっか」

納得だし、スカーレットが言うのなら間違いないだろう。

「なるほどわかった。それをすれば良いんだな」

「はい。ただし形としては、主のお父上が望んで、主が推薦状をつける、という形に留めておくべきかと」

「ああ、そりゃそうだな」

俺は深く頷いた。

当然の話だ。

父上の功績にするんだ、俺がメインに動いたんじゃ意味がない。

あくまで父上が申し込んで、父上が俺を動かした、という形にしなきゃいけない。

「それと、もうひとつ。もしも可能であるのなら」

「なんだ?」

「デュポーンを使者に使うと、より効果的だと思います」

「デュポーンを?」

「デュポーンが主にぞっこんで、伝説の竜なのに使いっ走りさえもやってしまう。というアピールになります」

「そっか……」

それはどうなるか分からないけど。

「わかった、頼むだけ頼んでみる」

俺はそう言い、スカーレットにお礼を言って、彼女の家から立ち去った。

迎賓館に戻ってきて、再び父上と向き合う。

スカーレットに出してもらったアイデアをそのまま父上に伝えた。

「ということなのだけど、どうかな父上」

「もちろん!」

言い終えるや否や、父上はものすごい勢いで食いついてきた。

「この上ない、ありがたい話だ」

「そうなんだ。それだけで良いのかって思わないこともないんだけど」

「そんなことはない。……私はな、リアム」

「え?」

テンションがいきなり下がって、自嘲気味に語り始める父上。

「人には、分相応というものがあると考えている。かつての私は身の丈に合わない、邪竜討伐をやろうとして、失敗した。身の丈以上のことを望んだからだ」

「父上……」

「今の話が私にとって丁度良いところだろう。それに――なぁに」

一転、今度はふっ、と朗らかに笑った。

「どんな功績であろうと三代延長だ。ならばあえて危険な橋を渡ることもない」

「そうか」

そういう考えもあるのか。

俺は頷いた。

スカーレットから話を聞いた時、別の案が頭に浮かんだ。

妹を、俺の妻にするというパターンだ。

スカーレットが今俺の元にいるのと同じように、ハミルトン家から魔物の国の王の妻を出す。

それは政略結婚として、ジャミールとの結びつきを強くする。

ハミルトン家の功績になるのは間違いないはずだ。

ただ、その発想は俺が「転生した人間」で、ハミルトン家の者とは血が繋がっている感覚が無いから出てくるもの。

王族同士ならともかく、貴族レベルで妹と結婚することはない。

「だから……改めて頼めるか、リアム」

「わかった。それじゃデュポーンを使者としていかせるよ」

「……デュポーン? ……それって!」

数秒、首をかしげてから、ハッと気づく父上。

「邪竜――ああいや、もう一頭の方の神竜か!?」

父上は慌てて言い直した。

向こうの知識や常識では邪竜扱いだけど、デュポーンは今や俺の味方だから、そういう言い方をしちゃいけないんだと思い出して、慌てて変えた感じだ。

そういう言い間違いもあるんだろう、と、俺は特に気にしないで話を先に進めることにした。

「ああ」

「そ、そんなことができるのか?」

「多分な、今から聞いてみるつもりだ」

「ああ……」

父上は見るからに落胆した。

もう話がついてるんじゃないのか、って顔だ。

「デュポーン、どっかにいるか?」

俺は天井に向かって、「遠くに向かって」話しかける感じでデュポーンの名前を呼んだ。

数秒ほどして、ごごごごごご――って地鳴りのような音がした。

直後――ドーン!!!

迎賓館の壁が内側に向かって爆発して、砂煙を巻き起こした。

「げほっ、げほっ……な、なんだ?」

驚き戸惑う父上、俺は対照的に落ち着いていた。

これをやったのが誰なのかすぐに察しがついたからだ。

「呼んだ?」

デュポーンだった。

まだあどけない顔をしている彼女は、咳き込む父上など意にも介さず、俺の所に向かってくる。

「デュポーン。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかな」

「で、デュポーン? この少女が?」

父上が更に驚愕した。

するとデュポーンがじろり、と父上をにらんだ。

「なに、こいつ」

「手を出さないでくれ、その人、俺の父上だから」

「なに!?」

ぎろりと敵意を乗せた視線が、一瞬にして反転した。

これは……好意? なんで?

「お父様なんだ!」

「えええええ!? お、お父様!?」

父上は驚愕した。

「なんだ? そのお父様ってのは」

「だってあんたの父親なんでしょ? だったらお父様って呼ばなきゃ。この場合人間はそう呼んでるんだって教えてもらったけど」

「あぁ……そういうことか」

俺はとりあえず納得した。

デュポーンは、俺に子作りを迫っている。

それで俺の父親をお父様と呼んでる。

話は分かった。

納得はしてないけど、とりあえずは分かった。

「そんなことよりもデュポーン、一つお願いしたいことがあるんだ」

「何々? なんでも言って。一緒に卵温めるとかでもいいよ」

「いやそうじゃなくて」

なんで卵を? と思ったが、それを軽くスルーして、デュポーンに説明した。

デュポーンにジャミールの国王のところまで行ってもらって、俺が妹を国王の妃に推薦するっていう連絡の使者になって欲しいこと。

要するに伝言係だ。

スカーレットにされたアドバイスで、デュポーンに頼んだ。

これって使いっ走りだよなあ、怒るかもなあ、と思ったのだが。

「え? そんなことでいいの」

そんなことはまったく無かった。

デュポーンは、むしろきょとんとした様子で言った。

「やってくれるの?」

「オッケー、そんなことくらい全然やるよ」

「そっか、ありがとう」

「そ・の・か・わ・り」

デュポーンは俺に近づき、竜なのに猫なで声で上目遣いを向けてくる。

「キス」

「え?」

「キスをしてくれたら行ってきたげる」

「えっと……うん、わかった」

「キス一回で……」

横で見ていた父上は絶句した。

三竜戦争の主役の 一頭(ひとり) が、ただの恋する乙女のように俺に おねだり(、、、、) している姿は想像に絶するものだったらしい。

特に、かつてもう 一頭(ひとり) の方、ラードーンにこっぴどくやられた身としては、ますますそうなるんだろう。

俺は少し考えて、デュポーンのほっぺにキスをした。

「……」

「だ、だめか?」

「……えへへ」

予想に反して、デュポーンは嬉しがった。

これでいいのか。

『我らにとって、口つけの場所に然程の意味はない。子作りの交尾以外ほとんど同じだ』

ラードーンが心の中で解説をしてくれた。なるほど。

「じゃあこれ」

デュポーンが喜んでいるから、俺は彼女に向かって、手紙を差し出した。

スカーレットから話を聞いて、それで用意したものだ。

デュポーンはそれを受け取って。

「これを誰に渡してくればいいの?」

「ジャミールの――」

言いかけて、父上の方を向いた。

「こ、国王陛下か、宰相閣下に」

父上は言った。

「だって。いけるか?」

「人間の王に渡せばいいんだよね。楽勝楽勝。じゃあ行ってくる」

デュポーンは、入ったときにぶち壊した壁から外に飛び出した。

それを見送った後、父上の方を向く。

父上は飛び出したデュポーンの後ろ姿を見て、ポカーンとしていた。

「父上?」

「え? あ、ああ」

「これで多分大丈夫だ。父上はもどって輿入れの準備をすればいい」

「そ、そうだな」

父上は頷き、それから何故か俺をじっと見つめた。

「どうしたんですか父上」

俺は不思議がって聞いた。

昨日からちょくちょく、そんな感じの目で俺を見つめてくるけど、なんなんだそれは。

「リアム……お前」

「うん」

「ずいぶんと、王がましくなったな」

「王がましい?」

なんだそれは。

「もともとの資質か、立場がそれを作ったのか。いや」

父上は言いかけて、自分の言葉を否定するかのように静かに首を振った。

「立場でどうにかなるのなら、アルブレビトもとうに……な」

そうつぶやいて、父上は深いため息をついた。

そして、改めて俺と向き合う。

居住まいを正して、腰を九十度に折って頭を下げた。

「父上?」

「寛大なお心に感謝する。リアム……陛下」

と言ってきたのだった。