軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163.風格

「ご主人様」

ラードーンに褒められて嬉しがっていると、今度はレイナがやってきた。

エルフの長、レイナ。

屋敷にいると他のエルフ達とは違って、彼女はメイドの格好をしていない。

そんなレイナがやってきて、落ち着いた感じで腰を折って一礼した。

「どうしたレイナ」

「お客様がお見えです」

「客? 誰?」

「ご主人様のお父様です」

「父上が?」

それにはちょっと驚いた。

父上、ハミルトン家の当主。

正真正銘のジャミールの貴族。

そんな父上がやってくるなんて思ってなかった。

そして、俺はちょっと身構え、警戒した。

ちょっと前に、アルブレビトがやってきて、その時に少しやらかした。

あまりにもアルブレビトが アレ(、、) だったから、お灸を据えるって感じでやったんだが、あの後のガイとクリスの件は完全にやり過ぎだ。

それをとがめに来たのか? と身構えてしまった。

「いかがいたしましょう」

穏やかなまま聞いてくるレイナ。

ガイとクリスもそうだが、レイナも俺がちゃんと指示を出さなきゃなと思う事がよくある。

ガイとクリスは「まっすぐいってドーンとやる」タイプだが、レイナは「静かにネチネチネチネチネチネチ(以下無限ループ)」なタイプだ。

下手したらガイとクリスよりも怖い。

今の「いかがいたしましょう」も、俺には「排除しましょうか」に聞こえてしまった。

「わかった、迎賓館に通して丁重にもてなして。後から行く」

「わかりました」

レイナはもう一度しずしずと腰を折って、それから立ち去った。

ガイとクリスと違うのは、レイナはちゃんと指示をすればほとんど暴走する事はないと言うところだ。

そういう意味では、安心して任せてられる。

俺はその場に立ち止まって、考えた。

父上を門前払いにする事はあり得ない。

だからレイナには、とりあえず迎賓館に通してもらうようにいった。

そこまではいい、大抵の場合そこまでは一緒だ。

問題は……父上が何をしに来たのかって事だ。

「考えてても……しょうがないか」

俺はふう、とため息を吐いた。

下手の考え休むに似たり、と言うしな。

魔法以外の事で、俺があれこれ考え込んでもしょうがない事だ。

これはラードーンのお墨付きだ。

だったらあれこれここで考えてないで、会ってみて、話を聞いてから考えよう。

屋敷を出て、迎賓館にやってきた俺。

こっちに常駐しているエルフメイドに案内されて、父上のいる部屋に入った。

屋敷の応接間を更に立派にした部屋の中で座っている父上。

俺が部屋に入ると、ドアが開く音に反応してこっちを向いた。

「お久しぶりです、父上」

「リアム……か?」

「え?」

父上は俺を見て戸惑った。

そんな父上の反応に、むしろ俺も戸惑った。

なんだ、今のは?

なんで俺を見てそんな反応をしたんだ?

「えっと、はい。リアムです、父上」

「あ、ああ。そうだな、リアムだな」

「???」

俺を更に見つめながら、歯切れ悪く頷く父上。

本当に、一体何がどう見えたんだ?

そんな疑問を抱きつつ、俺は父上の向かいに座った。

迎賓、の文字に相応しく、ブルーノに取り寄せてもらった最高級のソファーで、父上と向き合って座る。

座ると、まずはエルフメイドが入ってきた。

コーヒーとか紅茶とか、茶菓子とか。

そういうのを運んできて、父上と俺に振る舞う。

それを一通りやってくれた後。

「ご苦労」

俺はそう言って、エルフメイドの労を労った。

エルフメイドはにこりと、一礼して部屋から出て行った。

屋敷のメイドとは違って、迎賓館メイドはレイナの選抜で、落ち着いた子にやってもらってる。

「迎賓」だしな、キャピキャピして落ち着かない子とかで失礼があったらまずい。

――と、思ったのだが。

「きゃー、ご主人様にご苦労って言われちゃった!」

「いいなー、羨ましいなー」

ドアが閉まる寸前にこらえきれずにキャピキャピしだした。

丸聞こえだった。

ちょっと後で、レイナに言って叱ってもらおう。

さすがに、迎賓館のメイドでそれは良くない。

「すみません父上、メイドの教育が行き届いていなくて」

「あ、ああ。そうだな。まあ、若い使用人などそんなものだ」

上の空って感じで、父上はそう言った。

まったくメイド達の失礼を気にしてはいない反応だが、それが却って、さっきから抱いていた疑問を大きくさせることになった。

俺を見ての、父上の反応。

本当に、一体どういう事なんだろうか。

「それよりも父上、今日はなんのご用でしょうか」

「ああ、それはな……」

「もしかして兄上の件ですか?」

「アルブレビト?」

父上は小首を傾げた。

とぼけたり演技したりとか、そう言うのじゃない。

本当に不思議がってる感じの反応だ。

違うのか。

アルブレビトの件が一番可能性が高いと思ってたから、拍子抜けだった。

念の為に確認してみる。

「先日兄上がきましたが、それとは関係がないのですか?」

「いや、知らないな。また何かしでかしたのか?あいつは」

「いえ、なんでもないですよ」

そういうことなら何も言わないでおこうと思った。

あまり広げても仕方のない話だから。

というか、父上がさらりと「また」っていった。

何となく苦労が偲ばれる思いだ。

「では?」

そう言って、父上を見つめる。

話を促す。

アルブレビトの話じゃないのなら、向こうから話してくれないと何も分からない。

「う、うむ。そうだな」

父上は歯切れ悪く、目が泳ぎっぱなしだ。

「……」

「……」

沈黙が流れる。

その間も父上は言いかけては口を閉ざしたり、紅茶で喉を潤して勢いをつけたりと、いろいろやっていた。

それを見て、ふと。

俺はピーンときた。

ああ、それか……って感じだ。

「功績の件ですか」

「ーー!」

父上は盛大に驚いた。

軽くのけぞってしまうほど驚いた。

やっぱりそうか。

分かって見ると、ああこれしかないよな、って感じの話だった。

功績。

ジャミール王国の貴族は、基本三代限りだ。

最初に功績を立てて、貴族に叙勲されたのを初代と数えて、三代目までは貴族号を継ぐ事ができる。

しかし四代目からは貴族号を返上して、それ以降は平民となる。

それを避けるには、四代目が家を継ぐ前に、更に功績を立てることだ。

功績を立てて国に認めてもらえば、リセットして更に三代継ぐ事ができる。

そして、父上はその三代目だ。

父上は貴族だが、貴族はある程度の年になると、隠居して家督を譲るのが一般的らしい。

しかし父上は三代目、なにもしなかったら、四代目に家督を譲った途端に貴族じゃなくなってしまう。

四代目なんて自分が死んだ後の事だからしーらない、って訳にはいかないのだ。

だから、父上は「功績」を上げることに躍起になっている。

「……はあ」

父上はでかいため息をういた。

「やはりお前には分かってしまうか。うむ、そうだ、そのことだ」

「まだ功績を上げれていなかったのですね」

「……そのとおりだ」

父上は苦虫をかみつぶしたような感じで頷いた。

『我の討伐に失敗したのが堪えたのだろうな』

不意に、ラードーンが俺に話しかけてきた。

そうか、父上が功績として狙っていたのが、当時魔竜とされていたラードーンの討伐だったな。

そしてそれに失敗した。

『雄は失敗すると必要以上に萎縮する者がいる。この男がまさにそうだ』

ラードーンの言葉を聞いて、父上を見た。

なんとなく分かる。

失敗した後は、必要以上に失敗を怖がる人間は確かにいる。

思えば、ラードーンの件で失敗した後、父上が取った方法がまさにそれだったな。

俺は少し考えて、父上に聞く。

「わかりました、父上。俺は何をしてあげれば、ジャミール王国にアピールできる功績になりますか」

「――っ!」

息を飲んで、瞠目する父上。

その顔はまるで「なんでそれを」と言ってるような顔だ。

必要以上に驚き過ぎてる顔だ。

「父上?」

「お前……本当にリアムか?」

「え?」

またまた、戸惑ってしまう俺。

さっきも似たような事を言ってたな、いや、今日会ってからずっとそれだ。

父上は……俺がどう見えてるんだ?

「い、いや。すまない、忘れてくれ」

『ふふっ』

うん?

ラードーンは笑った。

楽しげな笑い声が頭の中にこだました。

俺は少し待った、笑い声の後の、ラードーンの言葉を。

……。

…………。

………………。

来なかった。

待ってもラードーンは何も言ってこなかった。

笑うだけ笑って、なにも言わないのは珍しいな。

上機嫌なのは伝わってくるから別に良いんだけど、こっちはこっちでなんなんだ?

「そ、それでな」

父上が動揺したままの感じで切り出してきた。

おっと、こっちのことを忘れてた。

「リアムのいうとおりだ。何か頼めないだろうか。その……ブルーノのように」

「……あー」

俺は静かにうなずいた。

ブルーノには今、この国との商売のほぼ全てを、独占権のような形で与えている。

魔晶石・ブラッドソウルを始め、この国は色々と金になる物がある。

それをブルーノが独占した形で、貴族延長に値する功績になったと本人から聞かされた。

俺は頷き、立ち上がった。

「分かった。一晩くれ父上。何かいい方法を考えてみる」

「あ、ああ。助かる」

「今夜は泊まっていってくれ。また明日」

そう言って、俺は部屋を出た。

外で待機しているエルフメイドに手招きして呼び寄せる。

「父上の宿を用意してやってくれ」

「わかりました」

そうして、俺は迎賓館から立ち去った。

「ラードーン」

外に出るなり、ラードーンに話しかけた。

「さっきの笑い、あれはなんだったんだ?」

『ふふっ、風格が出てきたと思ってな』

「風格?」

『鏡を見ろ』

ラードーンにそう言われたが、近くに鏡はなかったから、建物の窓ガラスを鏡に見立てて自分を見た。

そこには、変わり映えのしない自分の姿が映っている。

「何かあるのか?」

『王者の風格が出てきただろう?』

「王者の風格? ……ああ、このマントのおかげか」

俺は頷いた。

王様っぽくなる――っていわれて屋敷のエルフメイド達につけさせてもらったマント。

これで王者の風格というのが出てきたのか。

『ふふっ、おまえはそれでよい』

しかし、ラードーンは笑う。

まるで俺がなにか見当違いの事を言っているかのように。

「えっと……」

どういう事なんだろう。