軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137.根回しと説教

デビッド一行も、レイナ達エルフメイドも退出したあとの部屋の中。

話が一段落したから、俺もアナザーワールドに戻ろうかと思いはじめた。

『今のうちに動いておけ』

いきなり、ラードーンがそんな事を言い出してきた。

「今のうちに動いておけって、何をだ?」

『根回しだ』

「根回し」

『予言しよう、あの男は目覚めた後、すぐにお前の悪口を言って回るぞ。そうだな、さしあたっては先日の教会の男に、といったところか』

「教会の男って――カーディナルの事か?」

『うむ。立ち会いのため、今この街に来る途中なのだろう?』

「そういう連絡を受けてるな」

『そこに泣きつくのだろう、間違いなく』

「そうなるのか?」

それは……ちょっと信じられなかった。

デビッドが――王子様が、今の出来事を自分から言って回るってのか?

『まちがいなく、な。尾ひれ背びれをつけて――いや、根も葉もない作り話を盛大にでっちあげて、一方的にお前を悪者にするだろうな』

「そうなのか……」

『だから、先に根回しをしておけ。こういうのは後手に回ると無駄に厳しいぞ』

「わかった」

俺は頷き、テレポートで街の郊外にとんだ。

リアム=ラードーンの国境。

最近は「レッドウォール」と呼ばれるようになった、魔法の国境。

俺はそこにとんで、街道の上でまった。

一時間くらい待っていると、前と同じように、法衣を纏った一団が現われた。

そのうちの一人が、前にもあったカーディナルだ。

遮蔽物のない街道の上。

俺がすぐに向こうを見つけたように、向こうも俺の事に気づいた。

向こうが驚く中近づいた俺は、丁寧に腰を折って頭を下げた。

「お待ちしておりました、カーディナル大司教」

「これはこれはリアム陛下。わざわざのお出迎え恐れ入ります」

「実は大司教にお見せしたい物があるのですが――二人っきりでお話出来ませんか」

「ふむ……わかりました」

カーディナルは少し考えて、まわりの聖職者に目配せをした。

すると一緒にきた聖職者達は散って、俺達から離れつつも、遠巻きに囲んでいるという形になった。

俺達を中心にざっと十メートルの円をつくった。

この距離なら、まあ聞かれないだろう。

いや、念には念を入れよう。

俺は少し考えた。

魔法での対策はすぐに思いついた。

映像の魔法を、俺達の四方に結界の様にはった。

「これは?」

「外からの見え方をコントロールする魔法です、試しに数歩下がって下さい」

カーディナルは言われたとおりに数歩下がった、そして驚いた。

「陛下の姿……見えなくなった……?」

俺は頷いた。

鏡のような物だ。

狭い部屋でも、壁一面に鏡をはり付ければ、部屋が倍に広くなったように感じる。

それと同じように、俺達のいる空間を映像の魔法で、俺達がいないという映像を流す。

ちなみに流す映像は、今俺がいる前後左右の景色を映している。

結果、俺がこの場にいないという風に見えてしまう。

「な、なるほど……このような魔法見た事も……。さすがリアム陛下ですな」

カーディナルは少し驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「それで、見せたい物とは……?」

「これです」

俺はデビッドの乱行の映像をカーディナルに見せた。

動く画――動画をカーディナルに見せた。

ラードーンのアドバイスで、デビッドの乱行はもちろんの事、俺がパワーミサイルで殴ったところまで、事の一部始終を完全に見せることにした。

黙って見ていたカーディナルは、動画が終わった後にぼそりと一言。

「これはひどい」

とつぶやいた。

「まさか、ここでこんなことをするなんて」

「しない人なんですか?」

「……いいえ」

カーディナルは重々しく、首を横にふった。

「噂ではありますが、そういう人なのは以前からなのです」

「えぇ……」

「それでも、国政や外交の場はちゃんと控えることが出来た方なのですが……これは……ああ」

「え?」

聞き返した形の俺に、カーディナルはまわりを確認して、俺の顔色も確認してから、神妙な表情で言った。

「リアム陛下の事を軽んじているのでしょう」

「軽んじて……舐めてるって事か」

カーディナルは更に頷いた。

「魔物の国、王は幼い子供……それでそうなったのでしょう」

「なるほど」

まあ、それはやりとりの中にもあったり、俺もそれを感じていたりするから、特に驚きはしなかった。

だから俺はそのまま、話を先に進める。

「この件だけど、多分、俺の予想だとデビッド殿下はカーディナル大司教に告げ口をすると思うんだ」

「……ええ」

「だから――」

「分かりました。しかるべく対処します」

「えっと……いいんですか」

「人気のないところで、殿下にちゃんと 伝えます(、、、、) 。時期も相手も間違っている、と」

『ふふっ、説教という言葉を上手く言い換えたな』

楽しげに反応するラードーン。

なるほど説教してくれるのか。

それならよかった。

「それにしても……」

デビッドの話はこれでおしまいだったが、カーディナルは俺を見つめ、複雑そうな顔をした。

いや、複雑そうと言うよりは、何か恐れている……?

『当然だ』

ラードーンが俺の思考に反応した。

カーディナルの前だから、声に出さずに「どういうことだ?」とラードーンに聞いた。

『連中のような宗教家にとって、事実は天敵なのだからな』

天敵?

『信徒を増やすには神の存在と、神かその代行者が起こした奇跡を説く必要がある。そういうのと事実とは相容れないものだからな』

あぁ……なるほど。

うん、そうなのかも知れない。

聖職者達がいつも話している奇跡とか、確かにほとんどうさんくさいからな。

『奴らは事実を恐れる、お前が産み出した魔法は真実を伝える。奴らの天敵だよ』

なるほど……。

こういう時は……ラードーンなら……。

俺はラードーンが言いそうなことを考えて、カーディナルにいった。

「ご安心ください」

「え?」

「これは、教会に対しては使いません。魔法そのものの供与もしません」

「…………」

口を開けて、ポカーンと驚くカーディナル。

驚きは一瞬、カーディナルはすぐに落ち着きを取り戻して。

「お心遣い、感謝します」

とだけ言った。

目は安堵と、感謝がない交ぜになった物に変わった。

『ふふっ、今のはうまいぞ。よく言った』

ラードーンからも褒められた。

どうやら今ので正解だったみたいだ。

よし、これでこの件は――。

パカラッ、パカラッと、馬の蹄の音が響いた。

音の方を向くと、町の方から飛ばしてくる一頭の馬が有った。

馬はこっちに向かってくるが、広く散った聖職者達に止められた。

聖職者は集まって相手を止めようとしたが、馬から下りた男に突き飛ばされた。

男は――デビッドだった。

それでも必死に止めようとする聖職者。

なにかやりとりをした後、聖職者の一人がこっちにやってきた。

完全に近づかず、それ故に俺が見えないためちょっと不思議そうな顔をしていた。

「大司教猊下、王子殿下がお話ししたいことがあると」

「わかった。話を聞こう」

カーディナルはそう言ってから、俺に向かって。

「ここはお任せ下さい。しかるべく」

「う、うん」

俺を置いて、カーディナルは親衛隊の所に向かった。

距離が遠くて、やりとりは聞こえなかったが、遠目にも分かるほどカーディナルが「説教」をしている顔で、デビッドは顔を真っ赤にしてやり込められていた。

『アレは効くぞ』

「効く?」

『あの手の馬鹿息子だと、大して叱られた事もないだろうな』

「それは……きついな」

ラードーンの言うとおり、デビッドはますます顔を真っ赤にして、肩をわなわなと震えさせた。

それでもデビッドにはどうすることも出来なくて、結果、すごすごと追い返されてしまうのだった。