軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131.殺到

夜、アナザーワールドの中の、自分の家。

カーディナル一行を宿に連れて行って、エルフメイド達にしっかり世話するように言いつけてから、俺はここに戻ってきた。

と言っても、アナザーワールドの出入り口は宿のすぐ近くに作った。

何かあったときにすぐに対処出来るようにするためだ。

狭いリビングの中で、椅子に深く腰掛けて、一息をつく。

「これで、ひとまずジャミールとは一段落着くかなあ」

思えば、スカーレットにこの約束の地に国を作ってくれと懇願されて以来、周囲の三カ国とこじれにこじれてきたが、教会が間に入ってくれるおかげで、それも収まりそうだ。

他の聖職者達はいざ知らず、カーディナルは結構本気で仲介をしてくれるつもりみたいだ。

俺はちょっとほっとした。

これでもう、出来る事はないかな。

リアムになる前の仕事の取引先相手なら、念のためというか、ダメ押しというか。

ここで手土産の一つでも持っていくものなんだけど。

相手は国王さえも一目置く教会、その大司教。

半端な手土産は意味ないかな。

「なんだ、手土産とやらを持っていくと人間は喜ぶのか?」

「ラードーン」

俺の前に、ラードーンが姿を見せた。

いつも通りの、幼げな老女の姿だ。

誰も入って来れないこのアナザーワールドの中でだけ、ラードーンが人間の姿で現われる事が、ここ最近すっかりと増えてきた。

「我は人間の事はわからぬのだが、手土産というのはそんなに効果があるものなのか?」

「まあ、ないよりはあった方がいいな」

俺は昔の事を思い出した。

たとえ大した事の無い菓子の折り詰めでも、持っていった方が話がスムーズに進む度合いが目に見えて違う。

完全に門前払いだったのが、それで話くらいは聞いてくれる事が多い。

「そういうものなのか」

「そういうのはわからないのか?」

「うむ」

ラードーンはにやりと笑った。

「我を取り巻く人間は殺伐とした者達ばかりだったからな」

「殺伐」

「常に修羅場だったよ」

「三竜戦争だっけ、もしかしてそれも人間が絡んでたりするのか?」

「手土産を、持っていくか?」

「え? ああうん」

なんか、明らかに話を逸らされた気がする。

ラードーンの表情はまったく変わらなくて、空気も同じだったが、明らかに話を逸らされた。

彼女がこういう、言葉のやりとりを完全に放棄して別の話を持ちだしたのは、俺の記憶の中だと初めての事かもしれない。

なんだろうな……と思っていると。

「お前がいう手土産とは少し違うが、この場合効果的な『手土産』が一つある」

「どういうものなんだ?」

「魔法を作るといい」

ラードーンは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そう言った。

「魔法?」

「うむ、まったく新しい魔法だ。それを作って、魔導書にする。そして魔導書を、友好を結ぶ手土産としてジャミールに渡すといい」

「魔導書か……たしかに、魔導書なら高価な手土産だ」

「その魔導書は、ここの魔物達が使えない様にするといい。向こうにもそれを伝えるのだ」

「え? なんで?」

「……その方が希少価値が上がるからな」

「ああ、なるほど」

そりゃそうだ。

こっちの国じゃだれでも使える様な魔法を渡しても嬉しくもなんともないからな。

創作者以外だれも使えない、まだオンリーワンの魔導書の方が価値が高い。

「よし、じゃあ作ってみるか。どういう魔法がいいかな」

「天候魔法辺りがいいのではないか?」

「天候魔法か」

「だれも使えないのでは意味がない。そうだな、半径百メートルの小さな範囲にだけ一時雨を降らすような魔法などどうだ?」

「なるほど、それなら出来そうだ」

俺はあごを摘まんで、考え込んだ。

ラードーンが魔法の内容をはっきりとまとめてくれたおかげで、イメージがものすごくしやすくなった。

俺は、貴族の屋敷にしかない「シャワー」という物を思い出した。

風呂場で、頭の上から温かい湯を降らせてくる便利装置だ。

それの、超巨大版をイメージした。

半径百メートルが効果範囲、遙か上空にシャワーヘッドみたいなのがあって、そこから雨を降らせてくる。

水を作り出す方法は、塩や真水を作り出す事を昔延々とやってきたから、すごく簡単にイメージ出来た。

「……よし」

俺は家をでた。

俺の魔力とともに広がっていき、そろそろ半径百メートルに近い空間に広がったアナザーワールド。

そこで、新しい魔法を使う。

すると、アナザーワールドの中は、土砂降りとなった。

「これでいいかな」

慌てて部屋の中にもどって、ラードーンに聞く。

「うむ、それを魔導書という形にまとめて、ジャミールに渡すのだ」

「わかった」

俺は早速、作ったばっかりの天候魔法から魔導書を作る作業にはいった。

街全体に古代の記憶でインフラを 敷設(ふせつ) してたから、魔導書作りは簡単だった。

この時、俺を見るラードーンが、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべているのに気づかなかった。

ラードーンのアドバイスで、ジャミールに魔導書を贈った。

まだ誰も知らない、新しい天候魔法の魔導書。

友好締結のための手土産として贈ったそれは――予想外の効果を生んだ。

なんと、パルタ公国も、キスタドール王国も。

同盟(、、) 締結の打診を、水面下で密かにしてきたのだった。