作品タイトル不明
936話 旅行・その2
カナデ達と別れて、引き続き散歩をしていると、頭の上に人形バージョンのティナを乗せたニーナを見つけた。
隣にリファもいる。
二人は観光客用に配られているパンフレットを見つつ、街を歩いている。
ちなみに、他にも観光客がちらほらといた。
色々と大変な時期ではあるけれど、ラインハルトのことは一般には伏せられている。
魔王の脅威が去ったはずなのに、さらなる脅威が待ち受けていた。
そんなことを知ればパニックを誘発しかねない、という判断だ。
平和になったと思う人達は、笑顔で観光を楽しんでいる。
今は、その笑顔は仮初めのものにすぎないかもしれないけど……
いつか、それを本当にしたい。
「レイン」
気がつけば、ニーナ達がすぐ近くにいた。
「時間……ある?」
――――――――――
「「「おぉ」」」
ニーナ達は目をキラキラと輝かせて、水槽の中で泳ぐ魚達を見た。
ここは水族館。
色々な魚達を鑑賞できる施設らしい。
湖の上に建つ街だからこその施設だ。
魚なんて見てなにが楽しいのだろう?
最初はそんなことを思っていたけど、意外や意外。
これがけっこう楽しい。
小魚は千を超える群れを成して、隊列を組むかのように泳いでいる。
全体を見ると、それ一つが生き物のように動いていて、変幻自在だ。
ふわふわと浮いているクラゲ。
淡く発光して、時折、触手を伸ばしている。
のんびりと水中を漂う姿を見ていると、なんだか癒やされる。
カニがゆっくりと歩いている。
かと思えば、いきなり早足になったりして、さらに仲間の背中に乗り上げたりして。
予想外の行動を取ることが多く、見ていて楽しい。
「どや? 水族館も、けっこう楽しいもんやろ?」
「だな。思えば、こういう風に魚を眺めたことなんてないから、すごく新鮮な気分だよ」
「せやなー。レインの旦那がそう言ってくれて、ウチら、嬉しいでー」
「一緒に……楽しも?」
「レインだから一緒に楽しめる。カナデは無理」
「そうか?」
「カナデはよだれを垂らしそう」
「あー……」
リファの意見を否定できない俺がいた。
確かに、カナデは水族館に不向きかもしれない。
食欲で目をキラキラと輝かせそうだ。
しかし、ニーナとリファにも、そういう風に認識されているとは……
苦笑してしまう。
「次、行こう?」
順々に展示を見る。
小さな水槽から巨大水槽まで。
水族館を思い切り楽しんで、最後に、イルカによるショーを見た。
飼育員の合図で二頭のイルカがダンスをするように泳いで。
そして、大ジャンプ。
水しぶきがかかってしまうものの、迫力は満点で、とにかく楽しいの一言に尽きる。
「ぬれ、た……」
「でも、気持ちいい」
「はいはい、そのままやと風邪引くから、すぐに乾かそなー。レインの旦那、頼むで」
あらかじめ購入しておいたタオルを二人に被せて、頭を拭いていく。
「んふぅ……」
ニーナがぴくっと震えた。
「あれ? ごめん、痛かったか?」
「ううん。耳が……くすぐったい、だけ」
「そっか。よかった」
「もっと……して?」
ニーナは、甘えるように頭を差し出してきた。
それに応えていると、
「レイン、ボクも」
リファも期待に満ちた目を向けてくる。
「はいはい、順番にな」
なんだか子供ができたみたいだ。
ニーナとリファの頭を拭いて、それから、保温用の魔導具で服を乾かした。
「これでよし、と」
「あり、がとう」
「レインのおかげ。感謝」
「大げさな」
「レインがいれば安心。ずっと一緒にいてほしい」
「え?」
「うん……ずっと、いっしょ」
そう言う二人は、どことなく熱っぽい瞳をしていた。
それで、じっとこちらを見つめている。
どういう意味なのだろう?
俺が深く考えすぎているだけで、特に他意はない?
それとも……
「あ、カニさん」
「動きが楽しい。見ていこう」
二人の興味が別のところに向いて、たたた、と小走りに駆けていった。
「レインの旦那」
「……ん」
「今は、深く考えなくてええと思うよ。ただ、どこかで考えておいてな」
「そうだな」
ラインハルトを止めることだけじゃなくて。
他にも、色々と考えないといけないことがある。
……問題はたくさん、だな。