作品タイトル不明
926話 絆を結ぶ
「もう終わりにしないか?」
もう一度、エーデルワイスに手を差し出した。
「過去の人間の行いについて、正式に謝罪する。もちろん、俺だけじゃなくて、国も動いてくれるはずだ」
「頭を下げて、たったそれだけで忘れろと?」
「もちろん、難しいことはわかっている。それでも、戦うばかりの歴史を積み重ねていくのは、ここで終わりにしたい」
「……」
「全部、うまくいくなんて思わないけどさ……試してみる価値はあると思うんだ」
「なぜ、そう言い切れる?」
「みんなとの出会いが……仲間がそう教えてくれたんだ」
なによりも大事な仲間と出会い。
楽しいことを経験して。
悲しいことも経験して。
そして、絆を結んでくることができた。
違う種族だとしても、わかり合うことができる。
甘い夢かもしれない。
でも……
俺は、その絆を信じたい。
「お前は……」
エーデルワイスは、じっとこちらを見た。
信じられないものを見るような目をしていた。
俺を通じて、なにかを感じ取ってくれているのなら嬉しい。
「……お前の話は」
「うん」
「私個人としては、信じてもいいのかもしれない……そう思う」
「ありがとう」
「ただ……」
エーデルワイスは笑顔を見せてくれない。
暗い表情のまま……
厳しさはまったく消えていない。
「『魔王』が納得することはないだろう」
『魔王』は憎しみという概念に昇華した。
滅ぼすことは敵わない。
なにをしても……だ。
でも、時間をかけることで消すことはできると思う。
人間と魔族の間にある溝を埋めて。
笑顔を満たして……
そんな光景を見せていけば、時間はかかるかもしれないけど、納得してくれるかもしれない。
「私は魔王で……そして、その使命を果たさなければならない。果たさねばならぬ。それを私自身の意思でどうにかすることはできない。『魔王』に従うしかないのだ」
「なら、俺と契約をしないか?」
「なに?」
「俺はビーストテイマーなんだ。キミと契約をして、そうすることで『魔王』を抑え込む。時間稼ぎにすぎないけど……今は、その時間が必要だ。『魔王』に、今の俺達のことを知ってもらうための時間が。それを、俺なら作り出すことができる」
「私を……使役しようというのか? 『魔王』を?」
「ああ」
「……」
エーデルワイスは、目を丸くして驚いて、
「はは」
小さく笑う。
「馬鹿げたことを考えるのだな。そのようなことを考えた者は、過去、一人もいない」
「最初の一人になれて光栄だ」
「誇るな、馬鹿者」
「ごめん。でも……」
「うん?」
「初めて、キミの笑顔を見ることができた」
エーデルワイスは自分の頬に手をやる。
「私は……笑っていたのか?」
「うん」
「……そうか。ならば、答えはそういうことなのだろうな」
エーデルワイスは立ち上がり、そして……こちらの手を取る。
「よろしく頼む」
「ああ」
任された。
その想いをしっかりと受け止めて、頷いた。
指を噛み、流れた血で魔法陣を描く。
それと同時に、みんなからの魔力を受け取り、一つにまとめていく。
「くっ……!」
魔力が流れ込んでくると同時に、ギシギシと体が悲鳴をあげた。
かなりの負担がかかっている。
普通に考えて、こんなものを一人で制御できるわけがないのだけど……
「レイン」
気がつけばカナデが隣にいた。
いや、カナデだけじゃない。
タニア、ソラ、ルナ、ニーナ、ティナ、リファ、イリス、フィーニア、サクラ、ライハ、コハネ。
それと、シフォンとミルフィーユとショコラ。
ラインハルトもいた。
みんなが力を貸してくれている。
隣で支えてくれている。
なら大丈夫だ。
失敗なんてしない。
絶対に成功する。
「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」
「……エーデルワイス……」
ここに絆は結ばれた。