作品タイトル不明
909話 結論は遥か昔に
「えっと……まずは、名前を教えてもらってもいいかな?」
「それもそうだな。私は、エーデルワイスだ」
「エーデルワイス……良い名前だな」
「そうか? 一応、礼を言っておこう」
エーデルワイスは透き通るような声で、そんなことを言う。
対する俺は、思わずぽかんとしてしまう。
社交的なものだろうが、まさか、褒めたことに対して礼を言われるなんて……
普通に会話が成立しているな。
いきなり戦闘になると思っていたが、そんなことはない。
今のところ理知的な会話が続けられている。
うまくいく……のか?
「他のみんなは……まあ、一人一人説明すると長くなるから割愛するけど、仲間だよ」
「色々な最強種がいるな」
「ああ。みんな、大事な仲間だ」
「ほう。最強種を仲間と呼ぶか」
エーデルワイスが小さな笑みを浮かべた。
「俺達がここに来たのは……」
少し迷い、正直に告げることにした。
「魔王であるキミを止めるためだ」
「ふむ……続けよ」
「もう人間と魔族の戦争を終わりにしたい。未来永劫、ずっと。それが俺達の目的だ」
繰り返される戦争。
終わりのない憎しみ。
それを断つことが一番の目的で……
そのために、今、俺達はエーデルワイスの前に立っている。
「もちろん、人間のしたことが簡単に許されるなんて思っていない。いや、許されるって考えること自体、おこがましいかもしれない。それでも、できることはなんでもやるつもりだ」
「ほう」
「このまま戦争を繰り返すことになれば、人間だけじゃなくて、魔族も血が流れ続ける。互いに滅びるかもしれない。そんな事態だけは絶対に避けたい」
「ふむ、そうだな」
「だから、エーデルワイスの中にある『魔王』という概念を打ち消す」
「そのようなことが可能だと?」
「断言できるほど自信家じゃないさ。でも、可能性はある」
ようやく人間は一つにまとまった。
一部ではあるけれど、魔族と手を取り合うことができた。
それは『希望』に他ならないのでは?
その光景を見せて、信じてもらうことができれば、あるいは……
「他の者も意見は同じか?」
エーデルワイスはみんなを見て……
みんなはしっかりと頷いた。
……ラインハルトも同意してくれていることが驚きであり、そして、嬉しくもあった。
「そうか、理解した」
「じゃあ……!」
「勘違いするな」
エーデルワイスは玉座から降りた。
空気が震えて。
なぜか、自然と身構えてしまう。
「良い判断だ」
「キミは……」
「お前の話を聞いた。しかし、聞いただけで、同意した覚えはない。賛同するつもりは欠片もない。受け入れるなんてことはありえない。そう、ありえないのだ」
魔王の紅の瞳が輝いた。
それと同時に、魔力が膨れ上がる。
それはあまりにも膨大な魔力で、可視化できるほどだ。
目に見えるほどの強烈な魔力は炎のようにゆらめいて、エーデルワイスの体を包み込む。
同時に、空気が……大気がビリビリと震えた。
悲鳴をあげているかのよう。
エーデルワイスに怯え、恐怖して、泣いている。
「その命を捧げるというのなら、せめて苦しみなく殺してやろうと思っていたが……和解? 手を取り合いたい? バカを言うな。そのようなふざけた戯言、私が受け入れると思っていたのか? 私は……魔王だ」
「くっ……!?」
魔力の次は殺意があふれた。
思わず逃げてしまいたくなるほどの強烈な負の感情だ。
冷たく、暗く、底が見えず……
これほどの殺意を感じたことはない。
初めてだ。
いや、これはもう……
殺意というよりは怨念だ。
長い間、積み重ねられてきた憎悪と絶望は呪いとなり、彼女だけではなくて周囲をも蝕んでいる。
「人間は殺す。子供も女も老人も、全て殺す。皆殺しだ」
「まってくれ、それは……!」
「私は魔王……人間に終わりを告げる存在なり」
魔王の闘気が膨れ上がる。
ダメか!
「レイン!」
「わかっている!」
ラインハルトに頷いてみせた。
説得は失敗した。
なら、次にやるべきことは……
「みんな、戦うぞっ!」